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オーク掃討戦

 エルフ戦士団の隊列に加わり、共に進軍を開始した。

 俺を除く総勢250名の部隊だ。

 内訳は正面を受け持つ剣兵が150、遠距離攻撃や偵察等の支援を行う弓兵が70、回復や範囲攻撃を任とする魔法兵が30である。


 道すがら、周囲の兵士に彼らの戦い方を教わることになった。

 現在俺のいる隊列は剣兵を中心とした一個分隊10名の一団で、そこには武器を渡してくれたあの年配のエルフ(ビルというらしい)も含まれていた。

 森の中で戦うことを想定している彼らは移動に馬といった動物を使わない。

 平原での正面戦闘とは違い、木々の高低差や障害物を巧みに使い分けて立体的に攻撃を行うのが基本戦術であるため、地面しか移動できない乗り物は邪魔になるからだ。



「いいか?俺達の役目はオークを引き付けて弓兵や魔法兵の射線に誘い込み、挟み撃ちにすることだ。無理して突っ込まなくていいし、全部をこの剣でぶった斬る必要もない」


「なるほど、森を使った釣り野伏せのようなものですか」


「釣り野伏せ?まあよく分からんが、そんなようなもんだ」


 わりといい加減なビルさんである。



「しかし、残りのオークも我が魔法テンペストをもってすれば一網打尽にできるのでは?」


「馬鹿言うな!俺達にだって誇りがあるんだよ。全部あんたに任せちまったら、戦士団の立つ瀬がないだろうが。それによ、大事な森を何度吹っ飛ばす気だ?」


 ジロリと睨まれる。

 はい、そうですよね……ごめんなさい!

 ここで治せますけど、とか言ってはいけない。

 大事にしているものを壊してから治すだのは、理屈で割り切れることじゃないのだから。



「失言でした……すみません。最も、こちらとしても丁度いい機会かもしれません。我が魔剣(チェーンソー)ジェイソンも、血を吸いたいと喚いておりますからね」



 まだ試したい魔法は沢山ある。

 俺が受け取ったのは魔法の知識や使い方だけで、決して白兵戦が強くなったわけではない。

 高位な魔法を乱発できるのは村周辺だけで、今回の戦いはある種のイレギュラーだと考えるべきだろう。

 どの道冒険を続けるつもりなのだから、今のうちに自己の魔力を利用した戦い方なども身につけていくべきだ。



「おっかねえこと言うなあ。まあ、その見たこともない禍々しい形状だ。さぞかし強力なんだろうさ」


「ええ、すごいですよ(騒音が)」



 そうして和やかに話し込んでいられたのも、僅かな時間だった。



 陣形の先頭に立つジークリンデが全軍に停止命令を下すと、斥候役の弓兵数名が大木の枝に飛び乗り、周辺に散開していった。

 皆の雰囲気が変質していくのが分かる。

 ビルも険しい表情で己の武具を確認しながら呟いた。




「妙だな……囲まれてやがる」


「えっ?」



 全然分からん。

 ただの現代人に戦場の殺気など感じとれんぞ。



「全軍、全周警戒!」



 ジークリンデの合図で戦士団が一糸乱れぬ動きで陣形を整え始めた。

 剣兵を円形の最外周に配置し、弓兵や魔法兵が周辺の大木の枝に飛び移り身を潜ませていく。


 オークの残党は3個中隊で編成された1個大隊600程度の兵力だと聞いていたが、囲まれれば危険なことに変わりはない。



 やがて斥候が帰還すると、ジークリンデが剣を抜き叫ぶ。



「敵襲だ!迎撃用意!」



 本当に来なさったよ。

 奇襲のはずだったのだが?




 張りつめた緊張感の中、全軍が武器を構える。

 俺もチェーンソーを構え、しばし迷う。

 場違い感が半端ない。

 しかし準備しないわけにもいかないので、スターターを引いて発動機を始動させた。














 ドルンッ!ドルルルルルルルルル!!!!












 うるさい。

 全軍の視線が一斉にこちらに集まった。








 やだっ、わたし注目されてる!?







 なんか、盛大にドン引きされている気がする。

 仕方ないだろ!

 長物がこれしかないんだから。







「……すげえな、ソレ」





 ビルの言葉が胸に刺さる。

 場の空気が居たたまれない。






 そんな空気をブチ壊すかのように、誰かが声を上げた。




「来たぞ、オークだ!」





 周辺から響きはじめる地鳴り。

 草木を踏み締める数多の足音がはっきりと分かる。

 やがてオークが俺達の前方にその姿を現した。


 ひとことで言うと、下品な豚野郎共だ。

 これが比喩じゃないから困る。

 暗褐色の肌に皮の鎧を身に付け、武器はロングソードや、短槍だ。


 先頭集団約20体が濁った瞳を向け、こちらへ一直線に突っ込んで来る。

 いいぜ、やってやるよ!

 手元のトリガーを引くと、チェーンソーの刃が唸りを上げて回転する。





 ヴァン!ヴアアアアアアアアアァン!!!





 俺の手前でビクッと警戒するように足を止めたオークたちが、あっという間に弓兵たちによって針鼠にされた。



 Good kill!Good kill!Good kill!



 同時に別方向から進行してきたオークも、剣兵部隊と接触する前に次々と地面に倒れ伏し、やがて霧散していく。

 いい腕だ。


 しかし、さすがは俺の魔剣だな。

 触れるまでもなく敵が勝手に死んでいくぞ。



 だが、順調なのはそこまでだった。

 多数のオークの後続部隊が一斉に突撃してくると、場はたちまち乱戦に陥り、矢の雨を抜けてきた連中と刃を交えることになった。

 宙を飛んで着弾した魔法砲弾による爆風がオークを2、3体ずつまとめてバラバラにし、残りを剣兵が始末していく。



 俺の目の前にも一体のオークが迫ってきた。


「このっ!」


 跳ね上げたチェーンソーで剣を振りかぶったオークの腕を断ち切り、二太刀目で鎧に覆われていない腹を凄惨に切り裂く。

 飛び散る血飛沫が非常にグロいが、オークが絶命すると肉体と共に霧散する。


 後に残る魔石は暗褐色の小さなものだ。

 ひょっとして、体色と同じ色なのだろうか?


 オークは想像していたよりも弱かった。

 体躯こそ人間の大人程度だが、動きに武術や技といった理念がなく、ただ大振りに振り回すだけ。

 素人の俺が渡り合えるのもそのお陰だ。


 だが、それも一体ならばの話。



「救世主様、後ろがお留守だぞ!」



 背後に迫っていたオークを、ビルが見事な一太刀で片付ける。



「救世主様はやめてくれ……渉でいい。それと、ありがとうございます。助かりました」



「ハッハッハッ、いいってことよ。渉は魔法は凄いが、剣の腕はそうでもないみたいだな、っと!」



 さらに振り向き様に剣を振り、槍を突きだそうとてしていたオークの首を刎ねる。

 この人、只者じゃなかったようだ。



「しかし、やはり妙だな。奴ら、目の前にいる相手には攻撃しているが、遠くにいる連中はこっちを無視して素通りしていきやがる……いや、待て。オイオイオイ、ということはまさか!」



 ビルが声を上げる。

 俺達を素通りしていくということは、村に向けて移動しているということだ。


 村にはティナがいる!

 女性のエルフさんたちがいる!

 主力がここにいる以上、防衛の任に当たる戦士団はごく少数しか残っていないはずだ。



「…………ビルさん、ここはお任せしていいですか?」



「構わんが、どうする気だ?」



「連中を皆殺しにしてきます!」



 オーク共は、もっとも赦せない行動を取りやがった。

 ぶっつけ本番になるが、テンペストが最初から使えたのだから、問題はないはずだ。




「分かった、行ってこい!ジークリンデさんには俺から伝えておく」



「恩に着ます!」



「ったく、それはこっちのセリフだっての」




 イメージを頭の中に描く。

 周囲を蠢く莫大な魔力を探り当て、少しづつ己に注ぎ込む。

 願うは、この身の強化。


 右手を天に向けて高々と突き上げる。




『物語に詠われし英霊の力よ ここに集え!』






『求むは猛き力! 求むは鋼の意思!』







『天に封じられしその魂を 今こそ解き放たん!』







『ーーーーーー英霊憑依(サモンズ・ソウル)ーーーーーー』







 絶大なる力が、俺の身体を内から強化していく。

 身に纏う赤き魔力を媒介に、すべての力が爆発的に増大した。


 沸き上がる力に突き動かされるように駆け出す。

 一歩進む度に足下は大きく陥没し、流れる景色は一瞬で移りかわる。



 前方、村に向けて走るオークどもの背が見える。




 一匹!



 魔剣で両断する。



 二匹!



 頭を掴み握り潰した。



 三匹!



 傍を走り抜けると、バラバラになった。





 俺の存在に気がつくこともなく絶命していく、弱きものども。

 貴様らが誰の怒りに触れたのかをその身に刻むがいい!






 森の中にオークの絶望が響き渡った。








 最後の一匹が息絶えるまで。




読んでくださっている皆様、ありがとうございます!


どうしてこうなったのかは、書いたわたしにも分かりません。あしからず!

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