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D.H.  作者: yua
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ACT 9-6


 ユウスケが命を削りながら逃げている姿を眺めている参加者たちは固唾を呑んで見守っていた。

 当初こそ、情報収集のつもりでこの場所に来たものが大半であったが、そのあまりにも化け物染みた少女の攻撃に、一同はいつの間にか釘付けになっていた。

 ビル群を一撃で蒸発させた。

 その事実だけで、彼女が通常とは違った力の持ち主だと云う事は、この場に居る誰もが理解できた。

 そして、それは単なる強敵と云う言葉で締めくくれるものではない。心像に参加している人間は、必ず、敵と戦わなければならない。戦いに勝利し、己が欲望こそが最も優れていると証明しなければならない。

 故に、あの敵は越えなければならない壁なのである。

 どれだけの実力者が存在しているのか、ここにいる参加者たちはまだ探り合いをしている最中である。もしかすれば、今目の前で戦っている少女よりも強い人間がいるのかもしれないが、それはまだ解らない。だとすれば、それをすべて見極めてから動いても遅くはない。

 戦いが長引く理由のひとつで、互いの手の内を探り合い、リスクの少ない行動をしようとする事が挙げられる。当然の事で、自分の手打ちは明かさないのが戦いの鉄則で、出来るなら相手の情報だけを入手し、自分だけが一方的に有利な状況を作りたい。

 それはとても難しい。その手段を考えるのは皆同じなのだから、当然である。

 結果として、いつまでも互いの底を計りきれず、決着がつかないまま戦いは長引く。

 正直、何度も思う事だがため息が出るような遅さだ。

 人は時代を重ねるごとに野心に対する行動が少なくなってきている。良い意味で命知らずで、大胆な行動。それが功を成す事もあるが、その逆もしかり。人は、その悪い方のイメージが先行しすぎて、なかなか失敗が出来ない世の中へと変わってしまった。

 そういった世の中の情勢があるせいか―――特に、この国では―――なるべく失敗しない、転ばない方法を選んでしまう。

 その上で必要なのが情報と呼ばれるものであり、目の前で広げられている戦いを見る事は、当然、敵の情報を得る事なのだ。

 たとえ、敵が化け物だったとしても……だ。


「騒がしいな」

 ぽつりと呟く。

 それは手前で行われている戦いの騒がしさではない。かといって、結界外の一般人たちのざわめきでもない。

 戦いに参加している参加者たちの動きだ。

 結界が展開され、戦いが始まってから既に一時間が経過しようとしている。心像参加者同士の戦いが始まって以来の長期戦であり、そして、戦っている人間もまた破格の存在である。

「騒がしくもなるよ」

 思わず、武器を取り出して、応戦しようとする。突然の来訪者は、肩に心の武器を担ぎながら、微笑しながら、そこに立っていた。

「今回は戦いに来たワケじゃないよ」

 あくまでも穏便に済ませたい。彼はそう言った。

 しかし警戒は解かない。そのような事を言いつつも、後ろから刺されたのであればたまったものではない。相手が武器をしまわない限り、こちらも武器はそのまま構えておく。

 その点は向こう側も同じ条件である。故に、手前の彼も武器はしまおうとはしなかった。構えたまま、にらみ合う事一分ほど。やっと彼はこの場所に現れた理由を口にした。

「まぁ、解っているよね? 今、この場が騒がしい理由が」

 自信たっぷりの口調だ。緊張の様子もなく、はっきりとしている。

「……」

 口にはしなかった。無言の肯定をすると、彼はその意思を汲み取ってくれたらしい。ひとつ、頷く。

「まぁそう言う事だよ。どれだけのキャリアをあなたが詰んでいるかは解らないけど、あの存在はマズイ」

 存在に対して問い掛ける必要性はない。それぐらいは解っている。

 あそこで戦っている少女の、破格の能力を前にして、手を組みたいと提案しているのだろう。

 参加者たちが騒がしい理由は、そう言った、手を組む人間がいるからだ。それを察知して、慌てて不利にならないようにと別の人間と手を組む。その連鎖だ。

 とはいえ、この場で戦いを眺めている人間は五人ほど。つまり手を組める数は限られている。

 ふたりずつで手を組むのであれば、ひとりあぶれてしまう事になる。しかし、いずれ敵になる存在を前にして、三人以上で手を組むのは得策ではない。

 メリットとデメリットを天秤の上に載せて、どの方法が最善なのかを考える。

 ―――はっ、とした。

 男は眉間にしわを寄せて、その一帯の気配を再び探る。

 居るのだ。

 この場に、五人すべて。

「なるほどな……」

「そう言うこと。俺は単なる代弁者に過ぎないよ。この場の総意。代表者さ」

 相変わらず芝居染みた口調だ。この男が代弁者として抜擢された理由が解った気がした。

 しかし、他人に不快な感情を抱かせるあたりは減点といったところだろうか。人当たりは良さそうだが、軽い感覚を覚える。

「協調性がないよりかはマシだと思うけど」

 それもそうだ。その点は男も同意見である。

 視線を横にやってみる。すぐに、別方向に視線を向ける。手に握った心の武器が告げているのは、自分と手前の彼を取り囲むように、三人の気配がある。

「…………これでは話し合いにならないな…………」

 誰に言う訳でもなく、呟いた。

 これは話し合いではなく、脅迫だ。もし、この場で「同盟」に賛同しないのであれば、四人の「心像」参加者が自分ひとりに牙を向く事になる。

 断れる余地はないのだ。

「解ってくれましたか?」

 天秤など不要であった。この場にてメリットやデメリットは関係ない。

 より、勝ちに近い方法を取る。

 それだけだった。


 爆音響くこの場にて、静かに、五人の選ばれしものたちは剣を抜いた。



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