五歳での納得
久しぶりの更新です。重要キャラがやっと出せた。
魔法の使えない平民への魔法行使という、誰がどう見ても殺人罪級な行動をしたアーホイ男爵。そんな愚行からウエイトレスを守る為、男爵の顔に思っ切り飛び蹴りを食らわせ、噴水のように血を噴出させつつ蹴り倒した、『泥酔戦士』ジョン・ウォーカー。
そんな彼に対し、周りの反応は三つに分かれた。
一つは、大手を叩いて「いいぞォ!よくやった!!」「ざまあ見やがれ!!」「スカッとしたぜェ!!」と、拍手喝さいをジョンに送る店の客たち。
平民に魔法を放つとはすなわち、命の危険以外ではタブーとされている行為。それを、一時の怒りで行おうとしたアーホイ男爵を一撃で倒してのけたジョンは、客である平民の彼らにとってまさしくヒーローであり、その賞賛を送るに値する存在であったのである。
と、そんな好意的な感情を向ける一方で、その倒れてピクピク痙攣している男爵を、なんとか治療させようと、男爵の取り巻きの数人が彼の身体を持ちあげ運んでいた。外に連れ出し、医者の所まで運ぼうという算段か、はたまた、貴族ならば移動には馬車を使い、その馬車には薬などを置いているのが普通の為、その薬による回復を目当てにしていたのかは分からない。が、彼らは兎に角、一撃で男爵を戦闘不能にしたジョンから引き離そうとしていたのは確かであった。
ゆらゆら揺らしまくっていた為、逆に危険な状態になりそうであるが…まあ、それもまた良し!!そう思って、その行為を物陰に隠れながら見ていたクリスは、止める事は無かったが。
そして、それ以外の残りの奴らはと言うと…。
「こ、この野郎!!よくも男爵を!!俺らの金蔓を!!」
「アイツが死んだら、今回のはタダ働きだ!!唯でさえ、苦労して苛立ってるのに…もう我慢ならねェ!!」
「死んで詫びろや!!ボケがアアアアアアアアアア!!!」
お決まり名台詞を並べ立て、彼らはジョンに襲い掛かったのである。アーホイの身を心配しているのではなく金を心配して、または、たまりにたまった鬱憤を晴らそうという愚かな理由での戦闘行為。ここで思いとどまれれば良かったのかもしれないが、それほど彼らの自制心は強くなく、それに、もう完全にヒートアップしてしまっている様で、彼らは一斉に暴力を振るう事を選んでしまったのだ。
「おりゃあああ!!」
「死ねェ!!」
「くたばれェ!!」
ジョン目掛けて、一斉に放たれる嵐の様な様々な攻撃!!
一撃一撃は単調な突きや蹴りなれど、それが数が多く、四方八方からと言うのは実際かなりの脅威であった。
元々、数と言うのはかなりの力である。動物においても、ソロで狩りをしている者と、仲間と共に狩りをしている者では、圧倒的に後者の方が狩の成功率は高い。これは、数を活かしたチームプレイにより、一人ではカバーできない所をカバーして補い合うという、数の利を生かす事が出来るからである。
つまり、どんなに強い相手でも、囲んで叩けば勝てる。極論を言えば、そう言う事であった。
そして、それを知っているからこそ、襲い掛かった男たちの顔には余裕が、絶対に負けないだろうという余裕があったのである。
相手はジョン一人。こちらは大勢。人数も、手数も、全てはこちらが上で、尚且つ相手は泥酔状態。先ほどの様な飛び蹴りは『まぐれ』であると判断した彼らは、もうおきはしないと高をくくっていたあった。それ故に、勝利は確実だ!!そう思っていたのだ。
だから。
「ヒャッハアアアアアア!!!アバブレビレバレブレボワァァァ!!!」
ジョンの、何を言ってるか理解不能な声と共に放たれた行動。それに、彼らは対応できなかったのである。
もっと言えば、『頭を床に付けてそこを起点に回転しての両足による回転蹴り』。ブレイクダンスの様な攻撃だ。それを、通常時ならば対処できたかもしれないが、しかし、前述の様な事を考え、丸っきり油断しきっていた彼らには、とっさに避けられるハズはなかった。その結果…。
「ぶへ!?」
「がは!!」
「ぐぎゃあ?!」
思いっ切り、回転の勢いが十分乗った足…人間の部位で下手すれば一番の威力を誇る足での回転蹴りを、不意打ち且つカウンター気味にくらった彼らの意識は、蹴られた痛みと蹴り飛ばされてぶつかった衝撃による鈍痛の中、煙のように消えていくしかなかったのであった。
数は力と言うのは正しい。けれども、その個々の質が『獣』ではなく『蟻』ならば、『動物』を狩る事は出来ず、むしろ返り討ちに会うのは当然である。
すなわち、数は良かった。が、チンピラたちの『質』が、ジョンを倒すには悪すぎた。そう言う事であった。
「う、うわああああ!?」
「こ、コイツ!!止まらない!?」
「こ、こっちにくるなッあああああああ!!??」
一方、元傭兵で現在も実力バリンバリンなジョンは、一向に回転蹴りが止まらない!むしろ、その勢いを殺さない様にするどころか、もっと勢いを増すようにガンガン回転数を上げ、まさしく独楽の様に回り、まわり、マワリ、MAWARI続ける!!もはや、高速スピンとでも言えるようなその回転は、蹴ればチンピラを天高く飛ばし、触れただけで巻き込んでは蹴り倒し、椅子やテーブルなどもシュートしてチンピラたちを撃退するという、まさしく無双状態だ!!
「ち、ちくしょう!!止まれえッぶべばらあ!?」
「くっそ!何で当らない?!何であれで避けれるんだよ!?普通見えないだろ?!」
無理に止めようと近づけばスピンの餌食となって散り、遠くから物を投げたりして攻撃しようとすれば、簡単に避けられ接近を許すか、そのまま蹴り返されて返り討ちとなるばかり。傭兵の頃の経験や鋭い戦闘勘が此処に活きてきており、彼を縦横無尽に活躍させていた。本当に、文字通り手が付けられない一方的な状態であったのである。そんなジョン相手に、チンピラたちは大苦戦し、何とかしようともがいていた。
そして、それは『悪手』であった。
彼らは、すっかり忘れていたのである。彼らの脅威は、此処まで苦戦してる『ジョンだけではない』という事実を!!
「すきありゃあ!!!」
「グゲェ!?」
「「「「「!?」」」」」
そう。彼らはあまりにも、派手な回転攻撃でバッタバッタと倒しまくるジョンに気を取られているうちに、他の脅威…「店の客たち」を忘れていたのである!ウエイトレスを助けた英雄のジョンを襲うチンピラたちは、彼らにとっても敵なのだ。そんな客たちの事を忘れ、ジョンにばかり気を向けていれば、接近を許して虚を突かれる形で攻撃を食らうのは、当然以外の何物でもなかった。
まさしく、残念どころかむしろ当然。それ以外に言えない事であったのである。残当。
「がははは!まだまだ若いもんには負けんぞ!!せっかくの喧嘩だ!!暴れてやるぜェ!!」
「ああ!見せてやろう!!俺の必殺アタックを!!!」
「平民の力!見せてやるぜェェェェ!!!」
「「「「「!?う、うわああああ?!」」」」
こうして客たちが参戦した結果、或る不思議な光景がそこに広がった。それは、ジョンと比べてはかなり不慣れだが、それでも飲み屋の一般客よりかは喧嘩に慣れているはずのチンピラたち。そんな彼らが、『完全に一般客に押されている』という物であった。
この原因としては、やはり『不意打ちの成功』というのが考えられる。そもそも、不意打ちとは、敵の隙を狙って攻撃する奇襲戦法であるが、それにより、相手の混乱させ、正常な動きや判断をさせないという効果があるのだ。
有名な話では、織田信長による桶狭間の戦いがそうであろう。配下の数も何もかも今川軍に劣っていた信長が勝てたのは、一寸先も見えない激しい雨によって忍び寄り、本陣への奇襲を仕掛けて今川軍を驚かせて浮足立たせ、正常な判断と力を出せない様にして勝ったのである。
すなわち奇襲とは、大まかに言えば勝てない戦も勝てるようにしてしまう、そんなジャイアントキリングを起こせる戦法なのだ。
それが、今回のチンピラと客との戦闘にも起きていたのである。
力でも数でも劣る客が、ジョンの活躍に意識を向けているチンピラどもの横っ腹を食い破るように急遽襲い掛かり、ジョンだけでも苦戦していたチンピラたちを更に混乱させ、総崩れにさせたのだ。
ジョンに気を取られていたら、客に無防備な所をぶん殴られる。客に意識を向かうと、今度はジョンに蹴り飛ばされる。まさしく、前門のジョン、後門の客状態。文字通りのフルボッコタイムであった。
「くっそ!何やってる!!相手はたかが酔っ払い、それに一般人だぞ!!勝てないわけないだろうが!!もういい!俺がやる!!!どけェ!!」
そんな仲間の不甲斐なさに怒りを叫びつつ、手に棍棒を持った一人のチンピラが、強引に攻め込もうと踊り出たのは、もはや半数以上のチンピラがやられていた時であった。
ここまでやられれば退いた方がいいが、色々と問題になるのは確実。絶対に勝たねば自分たちが危ない。そう言う強迫観念に取りつかれての突撃と言えたが、それでも彼なりに勝算はあったようである。
(いくら押していても、あの酔っ払い以外は喧嘩も碌にしてない素人集団!!なら、客共の一人程、頭かち割れば直ぐに怖気づく!士気さえ挫けば烏合の衆だ!形勢逆転だぜ!!)
そう考えた彼の考えは『正しい』。今の客の状態は、酒とジョンの活躍を見てハイテンションになったが故の行動だ。それが、不意打ちと言う形で上手く攻撃が成功し、『チンピラたちが反撃できない状態』だからこそ、押しているに他ならない。
ここで、一人でもやられれば、たちまち酔いは醒めてテンションも消え、途端に攻撃は無くなるだろう。数が多くとも気合を挫けばどうとでもなるというのを喧嘩で知っていた彼の考えは、実に正しかったのだ。
「おらあ!お前らァ!!あんま調子に乗るなよ!!そろそろ死んどけェ!!」
そう叫び、チンピラは勝利を確信して棍棒を振り上げ、身近の客に向けて力いっぱい、思いっきり振り下ろした!!!
そう。振り下ろした『ハズだった』のである。
彼の顔の中央にある無駄に高い鼻に、何処からともなく飛んできた『スプーン』が直撃しなければ!!
「ッふぎゃ!?」
余りの突然の出来事と、顔の中心から広がり遅い来る衝撃に激痛。彼の攻撃を止めるのに十分すぎるそれらを受け、振り上げた棍棒を振り下ろすハズの動作が、只々鼻を抑え込むのに変わったのは必然であった。
戦に置いても、目や鼻と言うのは攻撃するように教えられる重要な場所である。当れば、目は見えなくなるし、鼻は呼吸が出来ず、動きが鈍る。その一瞬を突けば、戦争では容易に殺せるのだ。
そして、そんなチンピラは隙だらけ以外の何物でもなく。
「ウィィィィィ!!!」
「!?パゲラ!?」
近くにいた客の、酔っ払い右ストレートを顔面に思いっきりくらい、その場に倒れ伏したのもまた、自然であったのだ。
「はーっははは!大したことないなァ?ドンドン行くぜえ!!」
「「「「「ヒィィィィィ!!!」」」」」
そうして、増々客たちの士気は高まり、チンピラたちは押されていった。その様子を、後ろの方で見つつ、『笑みを浮かべている少年』がいるのを、誰一人、気づいてはいなかったが。
* * *(第三視点・完)
* * *(クリス視点)
右、30°。距離はOK。行動しようとして突きでている鼻にスプーンを。
左、45°。距離は少々遠めだが…問題ない。古傷のある右足の膝にナイフを。
中央、角度、距離。共にOK。無造作に出た、左足の小指に酒瓶を。
…ふむ。いい感じですね。相手は行動を制され士気を折られ、隙を生む。そこを、こちら側が攻め込み、一方的になぶるのみ。『戦わせずに勝つ』。『相手のしたい事を封じて勝つ』。それが戦いの理想であり、これは正しく戦争ですからね。私の父を、家族を、守るための戦いです。ならば、私はその理想を実現するため、全身全霊で戦うのみですよ。
恨んでくれて結構ですよ?それくらいの事をしている自覚はあります。でも、後でなんかあると怖いので、その恨みを忘れる程、心を破壊するほどの痛みを与えて差し上げましょう。
ま、そんな大層な事を言いつつ、やってるのはナイフやスプーン、食器に酒ビンを、父上や他のお客に危害を加えようとする敵に向けて、投げてるだけなんですがね。しかも、バレタラまずいので、隠れつつ、常に相手の死角からの攻め。一方的で、存在すらも悟られないようにという、我ながら呆れるほどの度胸の小ささです。はい。
でも、これが今の私にできる事ですから。全身全霊にて、ひっそりと、正確に、最良の時に。厭らしい最善を尽くしますよ。
全ては、父上と笑って家に帰る。そして、大切な人たちと平和に暮らすために。その為なら私は、かの『フィンランドの白い死神』や、『ソ連人民最大の敵』の様に、容赦なんていくらでも捨てられるんですよ。
せいぜい、一方的に負けてください。我々の存在を忘れてしまう程。こっぴどく負けてください。それが私の唯一の願いであり、その為に、私は一切の妥協を惜しみませんので。
…。
…いけませんね。気分が高揚しすぎて、少々ハイになっていました。落ち着きましょう。こういう時は、素数を数えるというのも良いですが、一番手っ取り早く確実なのは『賢者タイムに突入する事』です。
…う!…ふぅ。ええ。やっと落ち着きました。それでは、周囲の状況を見ておきましょうか。
まあそうはいっても、もう完全にこちら側…我が父上と客側の勝利なんですけどね。チンピラたちはもうボロボロ。何人か逃げ出し、あ、今最後の一人も逃げました。数人まだいるのは、全員気絶しているみたいですし、実質私たちの勝ちですね。はい。事実上のゆるぎない勝利です。やったー。
「うおおおお!!勝利だ!勝った!勝ったぞォ!!」
「イエーィ!!俺達の勝ちだ!!」
「ざまあ見ろ!!二度と来るなァ!!」
勝利宣言をして、完全に盛り上がってますね。うん。私も嬉しいです。特に、こっち側は誰一人怪我らしい怪我をしてないのが良いですね。援護のし甲斐があったと、密かに喜びを感じてしまいますが…これくらいは良いでしょう。多分。
「ふ~~~ひひ。へへへ~~~」
と、イカンイカン。そうじゃないぞ。私。本来の目的を忘れるな。騒動も終わったし、べろんべろんになっている父上を何とかしないと。
飲んだうえにあれだけ動いたことで酔いが回ったんでしょうね。床の上でにやけながらまた寝ています。色々暴れていましたが、床は思ったよりきれいですからね。恐らく、父上自身が全て蹴っ飛ばしていた影響だと思いますけど。それで寝やすいんでしょう。
…うん。これはアレだ。骨が折れる気がビンビンするぞ!でも、何とかしないといけない事実。殺気の乱闘騒ぎの方が、まだ何とかできましたよ。もう笑うしかないですね(笑)
「父上、起きてください。そろそろ帰らないといけませ…?!」
ダイレクトに床の上に寝そべる、今回の戦いで一番の功労者である父上に、近づいてそう声を掛ける。ただそれだけの、普通の行為をしようとした時でしたよ。
私の勘が、盛大に『警戒音』をかき鳴らし、全身が、思わず総毛立つような感覚に襲われたのは。
そして、それが何に対してかと言う事は、嫌でも直ぐに分かりました。
何故かって?簡単です。
店の入り口の扉。そこが『爆ぜるように破壊され』、乱入してきた相手を見た。ただそれだけです。いや、それだけで十分過ぎたのですよ。
そう。小型のトラックほどの大きさの身体に、それを覆う皮膚は見るだけで硬そうです。四足歩行をするらしき骨格と、その背中には退化でもしたのか、もはや飛ぶためには使えないような小さい一対の羽。全ての足にはそれぞれ太く鋭い爪があり、首はキリンを思わせる程長く、けれども、その眼や牙は大型の肉食獣のそれ。
前世では空想の存在。こちらでも、絵本でしか見たことの無かった存在。
『ドラゴン』がそこに居たのですから。
「ふ、ふははは!!わ、私を嘗めるなよ!!平民どもめ!!さあ!ヘビードラゴンよ!!全てを破壊しろォ!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ドラゴンの肩の上に乗り、そう言葉を発したのは、意識を取戻して止血したアーホイ男爵の様ですね。つまりは、あのドラゴン…ヘビードラゴンというのは男爵のモノですか…。
ふむ。どうしますか…なんて、考えるまでもありませんでした。
周りの人々は、ヘビードラゴンの出現と、扉の破壊によってもう勝利の声は上げられず、固まるばかり。まあ、彼らは一般客ですからね。これは仕方ないでしょう。彼らに、此処での働きを期待する方が酷ですからね。けれども、それはもう魔法は解けたという事。そして、父上は完全に寝ている。ならば…。
動けるのは私しかいない。ええ。そうなれば、できる事は限られる。後は、それをするのみです。
そうと決まれば、まずは観察と行きましょう。相手を知れば、何とかなります。
・大きな目…ドラゴンの目はかなり大きいです。が、どうも光の加減具合から、透明な膜の様なモノが覆いかぶさっていますね。これでは、膜が盾になって攻めても意味がない。目は却下。
・大きな鼻の穴…ドラゴンの顔にある二つの鼻の穴ですね。これは大きい。色々、吸い込みそうです。匂いは、脳にダイレクトに刺激を与えますからね。アンモニアをじかに嗅げば倒れるように、嗅覚への攻撃は結構効きます。近くにスパイスの入った瓶も有ますし、ここは、鼻を攻めますか。
となれば大事なのはタイミング。どうせなら、体勢を崩しやすい動き初めか動き終わりを狙いましょう。この場合は、動かれたら厄介なので、動き初めですね。カウンターを狙います。
つまり、ヘビードラゴンが動こうとした瞬間にスパイスを鼻に投げて、それを受けて驚いたドラゴンは体勢を崩しやすくなる。後は、私が一撃入れて地面に転がせましょうか。エリザに教わった合気の原理を使えば、ドラゴンの力を大きく崩して転がせるはずです。
後は、柔らかい部分。もっと言えば、股からぶら下げてる『ゴールデンボールズ』でも潰せばイケるでしょう。ダドンから聞いた話では、ドラゴンの倒し方は『柔かい物を壊せ』だそうですので。これで行けるはずです。
さあ!では、実際やった事はありませんので不安はありますが、時間もありません。一丁、生き残るためにやってみますか!!
そう思って、私は瞬時にスパイスの瓶を手に取り、行動を開始しようとしたのです。
が。
スパイスを取った瞬間。私の計画は無意味となった事を、私は思い知ったのです。
なぜなら。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!」
私の予測よりも早く動き出していた、ヘビードラゴンに対し。
ゴンッ!!という音を立てて。
私の隣を物凄い速さで通り過ぎた『店の奥に通じる扉』が、『思いっきりぶち当たり』。
「グォ!?」
「!?ぎゃああ!?」
ドラゴンと、肩に乗ったアーホイ男爵に直撃して、ドラゴンにはたたらを踏ませて動きを止め、男爵はまた顔を凹ませて地面に落ちたから。
そして。
「イーーーーッヒッヒヒヒヒ!!なんやァ!?おもろい事なっとるのぅ…ひひひ!!儂も混ぜェやああああ!!!」
ドラゴンに対して鳴ったアラームの『数倍以上の警告音』が甲高く鳴り響き、思わず、本当に無意識のうちにファイティングポーズを取りかけていた、一人の人物。
来ている者は平民のそれ。しかし、顔は多くの傷と、左目は眼帯で隠れた隻眼が、否応でも実力を私自身に分からせ、『今のままでは確実に勝てない』と言うのを無言で『納得せざるを得ない』その男性。
おそらく、あの扉を蹴り飛ばしたのであろうその人を見て、こう確信したからですよ。
ドラゴン、終了。てね。