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第2話 柔を以て剛を制す

鉱山に向かう道を遮断する山猫作戦は大成功に終わった。軽戦車の損害は極々軽微である。敵軍の輸送車列を完膚なきまで叩いた。補給路を物理的に遮断している。山岳地帯の補給とは力押しでどうにかなるものでなかった。これは前世の中華戦線と似ている。




 帝国軍は外交ルートを通じて猛抗議してきた。案の定であるが気にすることでない。帝国が不法行為をしてきた故に共和国は自衛行為に出た。国際社会に向けて理路整然と説明できた。その材料も確保して資料の作成も進めている。この国境紛争を戦闘で終わらせるつもりはなかった。もっと大きな舞台で終わらせる。そのためにも更なる勝利が欲せられた。




「敵の大軍勢が迫っています。一本道にずらりと戦車が行列を為していました」




「よく見つけてくれた。また頼んでも良いかな」




「なんなりとお申し付けください」




「弾着の観測を頼みたい。この一本道で殲滅する」




「お任せください。イシハラ閣下のためならば」




「やめておけ。敵が増える」




 偵察部隊は本当にいい働きをしてくれる。帝国は不法占拠中の鉱山に無理やり補給をねじ込んできた。共和国との国境線を越えて戦車を中心にした大部隊を派遣する。これを国境線ギリギリに配置した。偵察の捜索隊が発見している。彼らのために民間車を素体にしたVZ-34装輪装甲車を与えた。従来のバイクや自動車よりも安全で確実である。何よりも無線機を標準的に装備して円滑な連絡を可能にした。これより追加の仕事を依頼しよう。




 帝国軍が戦車部隊を投じて逆に封鎖してくることは想定済みだ。むしろ、こうなるように仕向けている。敵戦車とLT軽戦車が撃ち合えば必敗と相場が決められた。LT軽戦車隊には離脱を命じている。その際に輸送車列の残骸を可能な限り満遍なく散らすように言った。一本道に転がる数多もの残骸を破壊するために中戦車をドーザーと用いる。ここで絶好機が生じた。




「この道は山岳地帯特有の左右が封じられた形状をしている。我々しか知らない裏道を通らない限りは散開が不可能だ。無理に登ろうとすれば転覆しかねない。それにトラックの残骸がゴロゴロしている中ではな」




「軽戦車隊を動かさぬのですか。それこそ絶好機ではありません?」




「確かに敵が動けないところを急襲する。桶狭間の戦いを踏襲して攻撃を仕掛けられる。私はそんな危険なことはしたくない。いいかね。これに勝利するならば完全なる勝利だ」




「それでトラックの荷台に迫撃砲を積むんですか…」




「とにもかくにも機動力である。敵軍は動けない。我々は縦横無尽に動くことができ迫撃砲の火力を投射する。迫撃砲はどう撃つ」




「曲射です。まっすぐではなく山なりにです」




「そうだ。つまり、左右の高地から撃ち下ろすことができた。敵に見られることなく一方的に攻撃する。有効打を与えることはもちろんだが精神的なショックを与えることも重要だ。ここが魔の地形であることを思い知るが良い」




 不敵な笑みの先に敵を示す駒が置かれている。イシハラ・カンジがバッと倒していった。鉱山に向かう一本道に死体が如くである。若き天才軍師の素性が垣間見えた。誰も何も言わない。この若人は敵に回してはならないことを本能的に察知した。先の戦いで見せた鮮やかな一撃は始点に過ぎない。はたして、彼が向かう先の終点は何なのだ。




 そんなことを考えている暇はなかろう。敵戦車隊が来る前に準備を整えるべくトラックの群れが走り出した。共和国の製品自体は決して劣っていない。TA-11こと軍用トラックは民間用を買い上げた。タトラ社の自動車は世界的に高い評価を受けている。六輪の大型トラックは最大10トンを積載しながら泥濘の不整地を走破した。極寒の冬季でも確実にエンジンが始動する。その耐久性に着目して荷台に迫撃砲を与えた。表向きは迫撃砲を弾薬と人員と一緒に運搬できる効率的な移動と称する。実際は簡素な自走迫撃砲だった。




「ほ~う。先日はお愉しみだったな」




 現地の運転に慣れた者ならば山岳の険しい道のりもスイスイと抜けていく。自走迫撃砲の中隊は一方道を見下ろした。中隊長が自ら双眼鏡を首から提げて道を確認する。確かに丸焦げになった何かがゴロゴロしていた。まだ使えそうな物資もある。敵ごと焼き払うことは勿体無いが勝利のために我慢した。ここを封鎖できれば鉱山を不法占拠した不届き者は自動的に干上がる。




「こいつはいい。どこかに落ちりゃ大なり小なり損害を与えられる。あのマヌケ司令官だったら真正面から戦おうとした。少しの兵を置いて防壁を組んで安心して鉱山の解放に向かっただろうよ。今度の参謀ちゃんは違うみたいだ」




「中隊長~」




「なんだ! どうした!」




「奴らが来ました~」




「よし! 観測部隊を信じて叩き込むぞ! ありったけの砲弾を投げる!」




 弾着観測の修正を信じて自身も車両に戻った。いつの世も高地は有利と決まっている。高地から見下ろすことの索敵力は侮れなかった。帝国軍の中戦車隊が砂埃を上げて走る。さすがの大国らしく軍事力を誇示する示威行動だった。全体的に角ばった形状より長く最前線で活動する中戦車四型とわかる。75mm砲の大火力は明確な脅威だが装甲自体は薄いと聞いた。我々の速射砲が撃破できる。前任者は速射砲か対戦車ライフルを馬鹿真面目に配置して対戦車陣地を誇るはずだ。そんなものが何の役に立つ。




 敵戦車がちょうど一本道の中央に到達したところで静止した。例の障害物にぶち当たって除去作業に差し掛かる。本来は周囲警戒を行うべき車長まで作業に参加した。その献身ぶりは涙ぐましいが「敵はいない」と慢心が否めない。左右を封じられた視界も良くない一本道だ。常在戦場の四字熟語を心身に刻んでいただこう。トラックの荷台で男達が忙しなく動いた。迫撃砲の軽便を最大限に活かす。81mmの前装式迫撃砲に一発目を構えた。地面に設置して衝撃を逃がす。その設置と撤収の作業すら惜しんでタトラ社製の頑丈さを信じる。




「撃ち方はじめ!」




「ほっ!」




 前時代的に砲口から砲弾を落とした。入れてはならない。あくまでも、砲弾を落とすのだ。そうすれば勝手に81mmの榴弾が放たれる。即応弾を荷台に積んでおいた。予備も木箱ごと近場に置いている。榴弾と榴弾と榴弾が雨を降らした。徹甲弾は要らない。戦車も歩兵も榴弾の雨から逃れることはできなかった。1発でも直撃すればお釈迦になる。仮に至近弾でも痛撃を浴びせられた。迫撃砲の精度が悪い欠点も数量で埋め尽くす。




「弾を絶やすな! どんどん撃っていけ!」




「観測より! 少し右だそうです!」




「少し右だ! 迫撃砲を回せ!」




「ただいま!」




「なんですか! 聞こえません!」




「おう! 耳がいかれたな! 誰か教えてやれ!」




 野砲や榴弾砲ほどでないにしろ相応の轟音を響かせた。連続発射から聴覚が一時的に損なわれる。鼓膜が破れても自然と再生するため気にしないが吉だ。ここで勝って生きたいならば手を動かさなければならない。共和国のために戦うのだ。大国の力による支配から逃れたければである。その肉体をしばいて労働に従事するんだ。とはいえ、聴覚を一時的でも失ってよかったかもしれない。なぜなら、下から悲鳴が絶え間なく聞かれた。人の悲鳴に勝る聞きたくない音は存在しない。よほどの狂人でなければ不愉快極まりなかった。




「そのまま! そのままでいいです!」




「よっしゃ! 帝国のボンクラに目にもん見せちゃるわあ! 共和国を舐めるなよ!」




 あぁ、障害物がまた増える。




続く

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