封印層の牙
地下世界は、静かに“承認されたまま動いている”。
それは平和ではない。
ただ「止める理由がなくなった状態」だった。
レインは空洞の縁を歩く。
「で、結局ここ何層目なんだよ」
ミナがすぐに突っ込む。
「その質問もう何回目!?」
セリアは周囲を観測しながら答える。
「正確には“封印層の表層のさらに下”ね」
リシアが嫌そうな顔をする。
「もうその説明だけで怖いんだけど……」
ネアは地面を見たまま言う。
「まだ浅い」
その瞬間。
――カリッ
地面の奥で、何かが“噛んだ”。
全員の動きが止まる。
ミナが青ざめる。
「今の音なに!?」
セリアが低く言う。
「来るわね……」
リシアが震える。
「また出てくるやつ……?」
ネアは静かに言った。
「牙」
地面が割れる。
今度は“開く”ではない。
“引き裂かれる”。
そこから現れたのは、影ではない。
骨でもない。
“封印そのものが形を持って暴れ出したもの”。
巨大な牙のような構造体が、空間を噛み砕く。
ミナが叫ぶ。
「いや物理じゃないよね!?絶対物理じゃないよねこれ!!」
セリアが即座に構える。
「概念侵食型よ!」
リシアが後ずさる。
「もうなんでもありじゃん!!」
牙が動く。
――ズンッ!!
空間が“削れる”。
そこにあったはずの距離が消える。
近いも遠いも意味を失う。
レインはそれを見て一言。
「めんどくせぇな」
ゼノスが静かに言う。
『封印層防衛機構:自動反応型』
「つまり敵か」
『敵ではない』
『“侵入者処理機構”だ』
牙が再び噛みつく。
今度は“存在そのもの”に。
セリアが叫ぶ。
「存在ごと削ってくるタイプよ!」
リシアが悲鳴を上げる。
「どうやって避けるのそれ!?」
ミナは半泣きになる。
「もう戦いのジャンル教えてよ!!」
ネアが静かに言う。
「避けられない」
「でも」
レインを見る。
「通さなければいい」
レインは一歩前に出る。
剣を肩から下ろす。
「それしかねぇなら簡単だな」
牙が迫る。
世界が噛み砕かれる直前。
レインは一言だけ言う。
「来いよ」
――拒否。
その瞬間。
牙が止まる。
噛みつく直前で、“存在できない”。
空間が一瞬だけ静止する。
ミナが目を見開く。
「止まった……?」
セリアが呟く。
「いや……“成立しなかった”」
リシアが息を呑む。
「今の何……?」
ネアは静かに言った。
「拒否の結果」
牙が軋む。
『再実行』
再び動こうとする。
だがそのたびに“噛む行為そのもの”が消える。
成立できない。
届く前に終わる。
レインはそれを見て肩をすくめる。
「ほらな」
「噛めねぇもんは噛めねぇんだよ」
空間が静かになる。
牙は崩れず、消えず、ただ“止まったまま機能だけ失う”。
ミナがぼそっと言う。
「これもう戦闘っていうか……教育?」
セリアが苦笑する。
「世界にルール教えてる感じね」
リシアは少し安心したように言う。
「レインがいると、全部壊れるんじゃなくて……変わるんだね」
ネアは静かに言った。
「うん」
「拒否は破壊じゃない」
レインは剣を肩に担ぐ。
「で、次は?」
その言葉に答えるように、地面の奥が静かに“反応する”。
牙はまだ終わっていない。
そしてそのさらに奥で――
もっと深い“別の牙”が、目を覚まし始めていた。




