共存条件
地下世界の“目”は、完全には閉じていない。
ただ、動かない。
見ているのに、何も決めない。
それは今までの世界ではあり得ない状態だった。
ミナが周囲を見回す。
「え、これ……終わり?」
セリアは慎重に周囲を観測する。
「終わりというより“停止中”ね」
リシアは小さく息を吐く。
「なんか……怖いくらい静か」
ネアは静かに言った。
「判断が止まった」
レインは剣を肩に担いだまま、管理核を見上げる。
「で、結局どうなったんだよ」
管理核は答えない。
ただ、空間に文字が浮かぶ。
『条件再構築中』
『拒否因子:除外不能』
『処理方法:未定義』
ミナが眉をひそめる。
「未定義ってなに!?それ一番ダメなやつじゃない!?」
セリアは苦笑する。
「でも逆に言えば、何もできないってことよ」
リシアは不安そうに言う。
「じゃあ……ここにずっといるの?」
ネアは首を振る。
「違う」
「“扱い方を決めるまで保留”」
その瞬間。
地下世界の構造がわずかに変わる。
“敵対”でも“封印”でもない。
空間そのものが、レインたちを避けるように形を変える。
ミナが目を丸くする。
「え、避けてる?」
セリアが驚く。
「攻撃じゃない……距離を取ってる?」
リシアが小さく呟く。
「怖がってるみたい……」
ネアは静かに言った。
「正解」
レインは鼻で笑う。
「世界がビビってんのかよ」
ゼノスが淡々と答える。
『恐怖ではない』
「じゃあ何だ」
『計算不能の回避反応だ』
間。
『触れたくない、ではなく“触れると定義が壊れる”と理解している』
ミナがぼそっと言う。
「それもう最強じゃん」
セリアは肩をすくめる。
「最強というより、取り扱い注意すぎる存在ね」
リシアは小さく笑う。
「でも、もう敵じゃないのかも」
ネアは静かに言った。
「最初から敵じゃない」
「“仕様外”だっただけ」
管理核の“目”が、ゆっくりと再起動する。
だが今度は、攻撃でも修正でもない。
表示されるのは一行だけ。
『共存プロトコル要求』
ミナが固まる。
「え、今まで消そうとしてたのに急に共存ってなに!?」
セリアは呆れたように笑う。
「方向転換が極端すぎるわね」
リシアは少し安心したように言う。
「じゃあ……敵じゃないんだ」
ネアは静かに首を振る。
「違う」
「“敵かどうかを決めるのをやめた”」
レインは剣を軽く振る。
「やっと話通じるようになったな」
管理核が応答する。
『質問』
ミナが身構える。
「今度は何!?」
『なぜ存在する』
空間が静まる。
セリアが小さく呟く。
「一番厄介な質問来たわね……」
リシアは不安そうにレインを見る。
ネアは静かに言う。
「答えは一つしかない」
レインは少し笑う。
「知らねぇよ」
間。
地下世界が、ほんの少し揺れる。
だが崩れない。
止まらない。
ただ、そのまま続く。
レインは空洞を見上げる。
「でもまあいいだろ」
「いるからいる」
ミナが呆れる。
「雑すぎる回答やめてよほんと」
セリアは小さく笑う。
「でも、それが一番崩れない答えなのかもね」
リシアも頷く。
「うん……難しくしないほうがいいのかも」
ネアは静かに言った。
「それが共存条件」
管理核の“目”がゆっくりと閉じる。
今度は封印ではない。
沈黙でもない。
ただ、“観測を続ける許可”を得た状態。
レインはそれを見上げる。
「じゃあ決まりだな」
ミナがため息をつく。
「ほんと適応力だけは異常だよね」
セリアは肩をすくめる。
「この人に合わせて世界が変わってるだけよ」
リシアは少し笑う。
「でも……悪くないかも」
ネアは最後に言った。
「世界は変わった」
「“拒否を受け入れた世界”に」




