落ちる場所
空の話が終わった翌日。
世界は、何事もなかったように回っていた。
朝は来るし、パンは焼けるし、王都は普通にうるさい。
ただひとつだけ違うのは――
「空を見上げる必要がなくなった」ことだった。
レインは欠伸をしながら歩く。
「で、下だろ」
ミナがすぐに反応する。
「ほんと切り替え早いなあ!?」
セリアは呆れ顔で後ろをついてくる。
「上の次が下って、発想が極端すぎるのよ」
リシアは少し不安そうに周囲を見る。
「下って……どこから行くの?」
ネアは立ち止まり、地面を見た。
「ここ」
全員が沈黙する。
レインが眉をひそめる。
「ここ?」
ネアは頷く。
「空は終わった」
「次は“見えない方向”」
その瞬間だった。
――ゴゴ……ッ
地面が、ほんの一瞬だけ“呼吸”した。
ミナが飛び退く。
「今の絶対おかしいって!!」
セリアがしゃがみ込む。
「魔力じゃない……構造の揺れ?」
リシアが震える。
「地面が……動いた?」
レインは剣を軽く地面に当てる。
「下か」
ゼノスが静かに言う。
『反応を確認した』
「何のだよ」
『封印層だ』
空気が変わる。
今までの“空の圧”とは違う。
もっと重く、もっと古い圧。
地面の奥から、ゆっくりと“何か”が思い出されていくような感覚。
ミナが顔をしかめる。
「なんかさ……上より嫌な感じするんだけど」
セリアが静かに言う。
「当然よ。上は“観測”だったけど、これは……」
リシアが続ける。
「“封印”……」
ネアは地面を見たまま言う。
「うん」
「ここが本体」
レインは剣を肩に担ぐ。
「本体ってなんだよ」
ゼノスが答える。
『世界の下層構造』
『観測ではなく管理でもない』
『“押し込められた機能”だ』
ミナが青ざめる。
「機能って言い方やめてほしいんだけど……」
セリアが息を吐く。
「つまり地下に“別の世界のシステム”があるってことね」
リシアが小さく呟く。
「しかも封印されてる……」
レインは地面を見下ろす。
「で、どうやって行くんだよ」
ネアは静かに言った。
「もう行ってる」
その瞬間――
足元が“沈む”。
落ちるのではない。
世界のほうが、レインたちを“下にずらした”。
ミナが叫ぶ。
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!」
セリアもバランスを崩す。
「強制転送!?」
リシアは悲鳴を上げる。
「いやぁぁぁぁ!!」
レインは落ちながら言う。
「……やっと面白くなってきたな」
視界が反転する。
空が遠ざかる。
地面が近づく。
そして――
“世界の裏側”へ、全員が落ちていく。




