どこから来た?
その問いは、戦いの音よりも静かに落ちた。
『君はどこから来た?』
空の裂け目の向こう。
“意志”だけがこちらを見ている。
レインは剣の柄に手をかけたまま、動かなかった。
「……どこから、って」
ミナが小さく呟く。
「なにそれ質問?」
セリアは警戒したまま空を睨む。
「攻撃じゃない……?」
リシアは唇を噛む。
「でも、嫌な感じがする……」
ネアは一歩下がりながら言った。
「これ、“侵食”でも“観測”でもない」
「もっと前の段階」
レインは空を見上げる。
「質問してくる敵とか初めてなんだけど」
ゼノスの声が静かに響く。
『これは“上位認識”だ』
「上位認識?」
『世界を“現象”としてではなく、“問い”として扱っている』
レインは眉をひそめる。
「意味わかんねぇよ」
裂け目の向こうの意志は、もう一度問いかける。
『君はどこから来た?』
まるで同じ質問を繰り返す機械のように。
だが違う。
そこには“確認”ではなく、“興味”があった。
レインは少しだけ黙ったあと、答えた。
「……この世界だ」
その瞬間。
空気が揺れた。
裂け目の向こうの“意志”が、わずかに沈黙する。
そして――
『誤差』
短い一言。
セリアが顔をしかめる。
「誤差……?」
ミナが叫ぶ。
「人の答えに誤差とか言うな!」
ネアが震える声で言う。
「違う……それ」
「そういう“分類”じゃない」
レインは一歩前に出る。
「じゃあ何だよ」
裂け目の向こうの存在は、ゆっくりと“考える”。
そして答える。
『君はこの世界の外部要因だ』
沈黙。
その言葉の意味を、誰もすぐには理解できなかった。
だがゼノスだけが、低く呟く。
『……なるほどな』
「なるほどってなんだよ」
『お前は最初から“例外”だ』
レインの眉がひそまる。
裂け目の向こうの意志は続ける。
『この世界には通常、干渉因子は存在しない』
『だが君は存在している』
ミナがレインを見る。
「ちょっと待って、それどういう意味?」
セリアも険しい顔になる。
「“この世界の外から来た”ってこと?」
リシアは小さく息を呑む。
ネアは静かに言った。
「……やっぱり」
「そういうことになる」
レインは一瞬だけ黙る。
そして、笑った。
「は?」
「俺が外から来た?」
「いやいやいや、普通にこの世界生まれなんだけど」
だが。
ゼノスは否定しない。
沈黙が、答えだった。
レインの笑みが少しだけ消える。
「……おい」
『事実だ』
ゼノスは淡々と言う。
『お前の“起源”はこの世界じゃない』
空気が一段冷える。
裂け目の向こうの意志が、静かに反応する。
『興味深い』
『観測値に修正が必要』
レインはゆっくり剣を抜いた。
蒼黒の光が走る。
「……勝手に人の設定いじってんじゃねぇよ」
ミナが一歩前に出る。
「レイン、それ今どういう状況!?」
「知らねぇよ!」
セリアが叫ぶ。
「でも今のは“敵対”っていうより……!」
リシアが続ける。
「解析……?」
ネアは小さく呟いた。
「見てるんじゃない」
「探してる」
その瞬間。
裂け目の向こうの意志が、はっきりと言った。
『君は“回収対象”ではない』
『君は“起源不明の鍵”だ』
レインの背筋が冷える。
「鍵……?」
『世界の外側へ接続するための』
ゼノスが低く言う。
『最悪だな』
「今の話、全部最悪なんだけど」
裂け目が広がる。
空そのものが、ゆっくり開いていく。
そして――
向こう側から“何か”が見えた。
今までのどれとも違う。
門でもない。
監督者でもない。
ただの“空白”。
その空白が、ゆっくりとこちらに近づく。
レインは剣を構える。
「……来るなら来いよ」
その声は震えていなかった。
空白は、静かに答える。
『接続開始』
世界は、もう一度“裏返ろうとしていた”。




