白衣の男
ガラッ――。
教室の扉が開く。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
白衣。
黒い手袋。
顔の半分を覆うノイズ。
年齢も分からない。
存在がぼやけている。
だが。
レインを見た瞬間、はっきり笑った。
「やっと思い出し始めたか」
ミナが後退る。
「誰……?」
男は答えない。
代わりに教室を見回す。
黒い月。
研究室。
崩れた記憶。
全部を懐かしそうに見ていた。
「ここまで戻ったのは初めてだな」
帰還者の表情が初めて変わる。
「……管理側」
白衣の男は小さく頷いた。
「元、だがな」
その瞬間。
教室の空気が変わる。
窓の外の“目”たちが、一斉に白衣の男を見る。
まるで警戒しているみたいに。
男は肩をすくめた。
「相変わらず見てるな」
レインは剣を向ける。
「お前、何を知ってる」
白衣の男はレインを見る。
その視線だけで、胸の奥がざわついた。
「全部だよ、E-17」
ミナが怒鳴る。
「だからその名前やめて!!」
男は少しだけ困ったように笑う。
「ならレインでもいい」
「その名前を付けたの、君自身だから」
静寂。
レインの呼吸が止まる。
「……俺が?」
男は黒板へ近づく。
そして指で、【お前は選ばれた】の文字をなぞった。
「選ばれたんじゃない」
「君は、“自分で扉を開けた”」
その瞬間。
記憶がさらに流れ込む。
放課後の教室。
学生レイン。
黒い月。
そして――
屋上。
雨。
誰もいない学校。
黒い扉。
そこへ、自分から手を伸ばす姿。
レインが目を見開く。
「……俺が」
白衣の男は静かに頷く。
「終わらせたかったんだろ」
「退屈な世界を」
ミナが強く否定する。
「そんなわけない!!」
だが。
レインの胸の奥には、“覚え”があった。
空っぽだった日々。
黒い月を見た瞬間の感覚。
“この世界の外側を見たい”と思ったこと。
男は続ける。
「だから君は適合した」
「終律は、“世界を終わらせたい願い”へ反応する」
リシアが震える。
「じゃあ地下世界って……」
白衣の男は答える。
「切断された世界の残骸だ」
「E-17が開いた穴から、落ちた」
教室が揺れる。
窓の外の巨大な目が、さらに近づく。
白衣の男が舌打ちした。
「時間がないな」
レインは剣を向けたまま聞く。
「お前は何者だ」
男は少し黙る。
そして。
「君を作った側だ」
空気が凍る。
ミナの顔色が変わる。
「……は?」
男は続ける。
「ただし途中で気づいた」
「終律は、管理できるものじゃない」
その瞬間。
教室の壁が裂ける。
バキィッ!!
巨大な白い腕が侵入してきた。
無数の目がついている。
上位存在。
男が即座に振り向く。
「もう来たか」
腕が、一直線にレインへ伸びる。
だが。
白衣の男が前へ出た。
そして。
自分の胸へ、手を突き刺す。
ミナが悲鳴を上げる。
「えっ!?」
男の体の中から、“銀色の鍵”が引き抜かれる。
レインが持っている鍵と、同じ形。
男はそれをレインへ投げた。
「二つ目だ」
レインが反射的に受け取る。
瞬間。
鍵同士が共鳴し、黒い光を放った。
ゼノスが警告を鳴らす。
『深層封印第二層、強制解放を確認』




