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第94話:勝手に活性化計画


 「はいはーい、今日も元気に始まりました! まどいろチャンネル、今回は──」


 「勝手に! グラストムーン活性化計画、やっていきまーす!」


 配信冒頭から、まどかといろはのテンションは高かった。


 画面には、ゲーム内の平原で待機する大勢のプレイヤーたちの姿。

 

 多くが中レベル帯以下の装備に身を包み、それぞれソロや少人数パーティで固まっている。


▶︎ うわ、こんなに集まってんの!?

▶︎ 護衛ツアーってマジでやるんかw

▶︎ 参加したかったのにまだLV18……ぐぬぬ


 「というわけでですね、先日建国されたばかりの国家のグラストムーン。すごく良い国なんですが、ちょっと立地に問題がありまして──」


 いろはが、マップを拡大して表示する。


 「グラストムーン周辺の推奨レベル、つまりモンスターの平均レベル帯は45〜55。

 

 このレベル帯に到達してるプレイヤーって、全体の……ざっくり10%くらいしかいないんです!」


 そもそもまどいろに関しても、レベルで言えばまだ届いていないが、その事は一旦棚に上げておく。


 「つまり、行きたくても行けない人がいっぱいいるってことですね〜!」


 「しかも、LV30以下になると、正直パーティ組んでも無理ゲーです」


▶︎ つまり……移住を助けてくれるんですか!?

▶︎ 神企画じゃん

▶︎ 改めてまどにゃんのルナ推しが本物だと感じる



 「というわけで、今日はわたしたちで“勝手に”護衛ツアーをやっていきまーす!」


──“勝手に”とは言っても、もちろん実際はルナとリーフに事前にメッセージを送って、許可を取ってある。


 ルナからの返信はあっさり一言。


 『面白そう。ありがとう、まどかちゃん』


 リーフからもすぐに返事があり、


 『安全だけは気をつけてね〜! 無理はしちゃダメだよー?』


 2人とも好意的に受け止めてくれた。


 「まどいろが勝手にやってること」という形式をとったのは、2人の名声に乗っかっているように見られるのを避けたかったから。


 ファンの関係性は繊細だ。


 だからこそ、この「勝手に活性化計画」は、あくまで配信者としてのまどかといろはの自主企画。


 オフレコの同意──それが、2人の信頼の証だった。



 「ということで、今回事前に参加者を募ってみたところ……なんと!」


 「応募数500名以上!!」


 「いやマジでびっくりした! そもそも短期間の募集だったのに!」


 「やっぱりね、ルナさんファン層と私たちの視聴者、結構重なってるみたいなんだよね〜!」


 配信の裏では、事前にSNSを使って参加者を募り、条件に合わせて100名ほどに選定。


 今回の条件はLV25以上。

 これ以下の低レベル帯だとどうしても敵の一撃が致命的になってしまうため、安全面を考慮しての制限だった。


 「今回来れなかった人は、レベル上げてまた次回! 定期的にやっていきますからね〜!」


 「それとありがたいことに、LV40以上の協力者さんが数名、志願してくれました!」


 画面には、しっかりと中級装備を着込んだプレイヤーたちが表示される。


 名前の横には 《護衛協力》 のタグ。

 彼らには行列の最後尾から参加者を守ってもらう。


 実際彼らのおかげで参加者希望者を大幅に増やすことが出来たと言える。


 「ではでは、お待たせしました〜!」


 「参加者の皆さん、道中は自由にチャットして大丈夫ですが、戦闘時はパニック回避のために静かにしていただけると助かります〜!」


 「では行きますよー!」


 「グラストムーンへ、出発しまーす!!」


▶︎ いってらー!

▶︎ なにこの巨大な遠足w

▶︎ こんな先生なら喜んで学校に行ったのに


 進行ルートは、安全度を重視して事前に入念に下見してある。


 まどかが先頭、いろはが中間でケア、協力者が後方を守る構成。

 

 一行はゆっくりと平原を抜け、丘を登り、細い森の獣道を歩いていく。


 「はい、ここから先、ちょっとだけモンスター出現率上がりまーす!」


 「でも安心して! このへんの敵は、わたしの《絶影》でまとめて落としまーす!」


 出現した狼型モンスター3体を、まどかの高速連撃が瞬時に切り裂く。


 生の絶影を目の前に、参加者たちから様々な歓声があがる。


 いろははその隙に、バリアと回復を展開しながら後続の状態をチェック。

 列からはぐれそうなプレイヤーには魔道珠を操作して列に戻るように促す。


 「こういう時のリコレクト・オーブ、ほんと便利〜」


▶︎ やっぱまどいろ安定感ある

▶︎ これは護衛のプロだ……

▶︎ 前衛と後衛の理想形

▶︎ 地味にいろはの視野の広さやばくない?


 敵自体は順調に倒せているが、それにつられて進行ペースが徐々に上がっていく。

 

 だが下手にペースを落としすぎるとモンスターに囲まれてしまう。


 「最初にも言ったけど、死んでもは責任は負えませんので、無理そうだと感じたら各自アイテムでの撤退をお願いします!」


 「今の所大丈夫そうだけど、一応ね! リスクを取るのは自己責任で!」


 2人の呼びかけに応じ、何人かは途中で引き返す判断を取っていた。

 

 だが、9割以上のプレイヤーが、懸命に歩き続けていた。


 そして、まどか絶影の効果時間が切れる直前──


 丘を登りきった先に、薄く白い光のカーテンが見える。


 それは、国家グラストムーン。その入口を示す大きな城門だった。


 「……見えてきたよ、みんな!」


 「グラストムーン、到着です!」


 一人、また一人とゲートをくぐるたび、

 

 画面に「国家:グラストムーンに入りました」のログが表示される。


 「はあああ、やっと着いた〜!」


 「ちょっと泣きそうだった!」


 「グラストムーン、めっちゃ綺麗……!」


▶︎ おかえり〜!

▶︎ みんなほんとにがんばった!

▶︎ この規模の護衛配信、前代未聞じゃない?


 まどかといろはは、お互いに視線を合わせ、頷き合う。


 「……うん。やってよかった、ね」


 「うん。みんなが、ちゃんと辿り着けた。それだけで、今日は大成功!」


 こうして──


 まどいろによる、勝手にグラストムーン活性化計画・第一弾は、無事に幕を閉じた。


 この先、また何度でも、同じような旅が始まるのだろう。


 でも今日は、とりあえずこの言葉で締めくくろう。


 「みなさん、おつかれさまでしたー!」


 「グラストムーンへようこそ!」

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