第95話:広がる道、繋がる月
「──ふぅ。なんとか殆ど脱落なく終えることができた……」
グラストムーンの転移広場に最後の一団が到着したのを見届けて、まどかはようやく肩の力を抜いた。
ほんの一部、進軍について行けず自主的に帰還した人がいたが、行軍中の死者は0名。
結果としては十分に及第点以上だと思う。
「まどにゃん、今日もナイス護衛だったよ」
いろはがぶさかわを肩に乗せて笑う。
草むらで転んだプレイヤーのケア、道中で絡んできたモンスターへの応戦、進行ルートの最適化……
とても気楽とは言えない護衛ツアーだったが、2人のチームワークで大きな事故なく多くの人たちを目的地まで導いた。
──初のグラストムーン護衛ツアーは、成功だった。
▶「おつかれさまー!」
▶「無事に着けてよかった!」
▶「感謝しかない!」
▶「次回は参加したい!」
「ふふ……嬉しいね」
配信を切った直後、まどかの画面には通知が雪崩のように押し寄せた。
システムログの受信欄が一気に埋まり、チャットアプリもSNSの通知も真っ赤に染まっている。
「え、なにこれ……すご……!」
「うわっ、ほんとだ。えーと……“次はいつですか?” “ぜひ参加したいです” “今レベル上げてます!” 」
内容はほとんどが、グラストムーンへの護衛ツアーに関するものだった。
参加希望、感謝の言葉、再開催のリクエスト──その数、ざっと見積もって1000通以上。
「うわー……さすがルナさんとリーフさん絡み……」
いろはが呆れたように笑う。
「さすがにさ、この数は……返せないよね」
「む、無理だよぉ……!」
手当たり次第に読んでいくと、中には“協力者として参加したい”という申し出もいくつか混ざっていた。
気になって目を通すと──その中に、ひときわ目を引くメッセージがあった。
◆
まどかさん、いろはさん。
突然失礼します。昨日の護衛ツアー、とても素晴らしかったです。
自分も長年のルナさんファンで、御二方の配信も毎回欠かさず見ています。
そこで提案なのですが──このまま希望者が増えていくと、御二人だけでは対応が難しくなるかと。
自分が中心となって協力者を募り、毎日1便の護衛ツアーを出してはどうかと思います。
御二人は気が向いたときだけ顔を出していただければ十分です。
国の活性化にも繋がりますし、無理なく続けられる形を模索しましょう。
よろしくお願いします。”
◆
送り主の名前は──「ルナ推し@タンクお兄さん」。
「……え、まって、この人……!」
「見たことある名前だよね。コメント欄で、よく見た気がする……っていうか、たまに濃すぎて引いたような……」
「あっ、思い出した!『ルナ様は月そのもの!』とか、しょっちゅう言ってた人だ!!」
当時はただの変人だと思って見てたけど、まじめな発言も出来るんだ……。
「……この名前で提案してくる時点で、絶対騙したりする気はないでしょ」
「逆に信用できるやつ」
提案内容も非常に現実的で、すでに協力メンバーも募り始めているらしい。
是非お願いしたいと返信してみると、タンクお兄さんはすぐに反応を返してきた。
「まどかさん!? 本当に!? ありがとうございます! こちらで段取りは進めておきます!!」
顔は見えないが、テンションが高いのは文面からありありと伝わってくる。
「うん……この人に任せてみようか」
「ルナさんの事好きなのは間違いないよね。悪いようにはならないと思う。」
すぐに連絡を取り合い、護衛ツアーの引き継ぎについて説明。
今後の対応や協力者の統括、SNSでの告知まで、すべて彼が対応してくれることに。
数時間後、タンクお兄さんのアカウントから投稿が行われた。
【グラストムーン自警団、始動!】
毎日2便の護衛ツアーを運行予定!
ルナさんとリーフさんの新国家・グラストムーンへの入国をサポートします!
初心者歓迎、協力者も募集中!
#グラストムーン行こうぜ
ツイートには一瞬でリツイートといいねが殺到し、たった数時間でフォロワーは爆発的に増えた。
──その後、まどかといろはが直接関わらなくても、護衛ツアーは日々開催されるようになった。
参加者の到着報告、旅の様子を綴ったファンアート、護衛中のスクリーンショット……
SNSや配信タグには、グラストムーンの話題がひっきりなしに流れ込む。
「……まどにゃん、ちょっと見て。#グラストムーン行こうぜ、トレンド入ってるよ」
「……まじか……」
まどかは目を見開いて、口元を手で覆った。
「これ……本当に、すごいことになってるね」
「うん。私たちが直接手を出さなくても、ちゃんと火がついた」
「ルナさんとリーフさんが作ったこの場所を……もっと多くの人が訪れるように」
「そしていつか──私たちが作る時の、参考にもなるよね」
「……うん!」
グラストムーンの空は、今日も穏やかに晴れている。
まどかといろはは、遠くから護衛一行が入ってくるのを眺めながら──そっと拳を合わせた。




