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第91話:わたしも、誰かと──

※本日2話更新しています。読み飛ばし注意。



 最近、私には気になっている配信者がいる。


 初めて見たときは、登録者数も千人に満たない、いわゆる“駆け出し”の配信者だった。


 ゲームの腕前はまだ粗削りで、しゃべりもたどたどしくて、トークのつなぎ方にぎこちなさが残っていた。

 でも──なんだろう。目が離せなくなった。


 前に出るタイプの小柄な少女は、一見するとクールなのに実は無鉄砲で突発的。

 そして時々、観る者の心に突き刺さるような、予想を上回る切り札を繰り出してくる。


 そしてもう一人、彼女の隣でそれを支える少女は、大雑把に見えて、細やかな気配りと咄嗟の判断力を持っていた。


 まだ“素人感”のある2人だった。

 でも、逆にその素人感すらも武器にして、どんどん前へ進んでいく。


 気がつけば彼女たちは、未発見の新職業を引き当て、公式イベントで大勢の注目を集め──

 あっという間に一万人以上の登録者を獲得していた。


 すごいなあ、って思った。

 でも少しだけ──寂しいな、って気持ちもあった。


 なんでだろう。

 たぶん、彼女たちがいつも“2人で”配信しているからだ。


 私はこれまで、ずっと一人でやってきた。

 誰かとパーティーを組むこともなかったし、コラボ配信も数えるほどしかしていない。


 そのスタイルが悪いとは思っていない。

 

 けど、どこかで、誰かと一緒に笑い合っている彼女たちを見て、

 “いいな”って思ったのは、事実だった。


 そんな折、私はとある配信アーカイブを見ていた。


 彼女たちが、ダンジョンに挑戦していた回だった。


 画面の向こうで2人が声を張り上げて、支え合って、敵を倒して、

 配信の最後には顔を見合わせて笑い合っていた。


 ──それを見た瞬間、ふと、思ったのだ。


 「やっぱり……私も、誰かと冒険したい」って。


 それはとても小さな感情だった。

 でも、今の私にとっては、背中を押してくれるには十分だった。


 私は、近いレベル帯の──少しだけ関わりのあるプレイヤーに連絡をとった。


 前に一度、同じフィールドで挨拶を交わしたことのある女の子。

 

 お互い配信者だし、同じ空気感があるなと思っていた子。


 ダメでもともと、と思って送ったメッセージに──驚いたことに、すぐOKの返事が返ってきた。


 喜びと緊張と、少しのプレッシャー。


 配信枠の予約を立てた指先が、いつもより少しだけ震えていた。


《緊急告知》

 本日21時より! ルナ、初のコラボ配信決定!

 相手はなんとあのリーフちゃん! ふたりでダンジョンに挑戦します!


 「#ルナとリーフ」タグでコメントもお待ちしています!


 私は配信画面を開きながら、思わず背筋を伸ばす。


 ──彼女たちのうち、片方は、確かに私のファンを公言している。


 だからこそ。

 だからこそ、私は今日──


 彼女たちに見られても、恥ずかしくない配信をしなくちゃいけない。


 そしていつか。

 もし、彼女たちと同じ場所に立てる日が来たら──


 そのときは、私も胸を張って言いたい。


 「ずっと、あなたたちを見てきた」と。

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