第84話:柱の影、殺意の群れ
階段を降りた先、空気が一変した。
「……広っ」
目の前に広がるのは、石造りの大広間。
天井は高く、見上げると薄く明滅する魔力の膜が全体を覆っている。
無数に立ち並ぶ石柱が、空間の半分以上を占めており──
その影から、ジリ……ジリ……と何かがにじり寄ってくる気配。
「……これ、マズくない?」
「間違いない。……モンスターハウス、だね」
気配の主が、ゆっくりと姿を現す。
爪を持つ獣型、牙をむいた鬼型、弓を構える骸骨兵──
多種多様なモンスターが、50体以上。すべてがこちらを狙っている。
「でもさ──」
いろはが口角を上げ、手を挙げる。
「こういう場所なら、私の出番なんだよね!」
浮遊する魔導珠がピリリと魔力を帯び、滑るように柱の間をすり抜ける。
「《レイ・バースト》!」
放たれた光線が一直線に柱を貫き、背後にいた3体の敵をまとめてなぎ払う。
珠が跳ね、回転し、位置を変えながら連続魔法を発動。
広い空間の利点を最大限に生かし、範囲攻撃と分断を繰り返す。
「おー!テクニカル!」
まどかもすでに動いていた。
「──二連歩」
瞬間的に位置をずらし、放たれた矢をナイフで弾いて前進。
すれ違いざま、喉元に一閃。
手数と精度で、正面から突っ込んでくるモンスターを一体ずつ確実に落としていく。
「数は多いけど、単体の強さはたいしたことない──押し切れるっ!」
敵の大半を倒し、広間の空気が静まり返ったころ──
「きゅぅっ!」
ぶさかわが、広間の奥に向かって甲高い声を上げた。
まどかといろはがそちらに目を向けた瞬間、
柱の間から、一筋の光──スポットライトのような魔法が落ちる。
照らされた中央に、漆黒のローブを纏った人影。
鋭い眼光と蒼白な肌、ワインレッドの瞳。
まるでヴァンパイアのような風貌の男が現れた。
「さすが……我が見込んだだけのことはある」
甲高く、それでいて妙に芝居がかった声。
視線を投げるだけで、その男は確かな“プレイヤー”であることがわかった。
「だが──この程度で、満足してもらっては困る」
片手を振り上げると、背後から煙のようなエフェクトが立ちのぼる。
「もっと、もっと、このダンジョンを味わってくれたまえ! ──我は第五階層にて、待つ!」
煙が渦を巻き、男の姿を包む。
そのまま彼の姿は、音もなく消えた。
「……なんか、すごい演出作り込んでたね」
「うん……うん、なんかズレてた気もするけど、こういうノリも嫌いじゃないよね」
「自分を目立たせるという意味で、演出のセンスはあると思う。うん、惜しいなにかがある」
2人は顔を見合わせて笑い、
残っていたモンスターをサクッと片付けて、広間の奥へと進む。
「じゃ、次──三階層、いこっか」
「うん。今度はどんなのが来るかな……?」
階段の先に続くのは、まだ知らぬ罠と仕掛け──
だが、“挑戦”という言葉に、まどかの目はますます冴えていた。




