第82話:迷宮からの挑戦状
鉱脈龍との激闘からおよそ1週間。
まどいろの2人は時にレアアイテムを探したり、時に格上ダンジョンに挑んだりしつつ、順調に配信活動を続けていた。
心配していたような、チャンネル登録者が減る、なんてこともなく、
イベント時の爆発力ほどではないが、しっかりと着実に増加を続けていた。
──登録者数 15,800人
──プレイヤーレベル 39(まどか・いろは共に)
「……うん、いい流れだね!」
配信を締めたばかりのまどかが、ログウィンドウを閉じながら腕を伸ばす。
軽く汗ばむ背中をタオルで拭きながら、ぶさかわが足元で「きゅっ」と一声。
「今日もいい戦いだったね~! 装備も完全に馴染んできたし!」
「次はどこ行こっか。LV40のくらいのダンジョンはもう割と余裕になっちゃったし……」
そのときだった。
ぴろん、といろはのチャット窓に新着通知が表示される。
「……あれ? DM?」
いろはが開いたそのメッセージには、装飾も何もない、ただ一言──。
「我の迷宮へ来い。できるものなら、攻略してみせよ。」
「……何これ、挑戦状……?」
まどかがひょいと覗き込んで、ふっと笑った。
「ふーん、やるじゃん。その気になってるね……」
ワールドリンクアーカイブは自由度の高い世界。
王道の冒険者ルートだけでなく、生産職、商人、農業経営、施設運営、領地経営、配信特化
──プレイヤーのプレイスタイルは多岐に渡る。
その中で、魔族としてのプレイングも認められているこの世界。
対人戦中心の侵略プレイ、策略や交渉、支配領域での勢力拡大──
善悪を問わない選択肢こそがこのゲームの“深さ”だった。
「この人、たぶん魔族側のプレイヤーだね」
「自作ダンジョンの主として名を上げようとしてるんだと思う」
「ええ! 魔族ってたしか、人間族側の領地ではほとんど見かけないよね? そんな人達にも認知されてるんだ~」
魔族プレイヤーは人間側とはスタート地点からして違い、それぞれ違った文化を築き上げつつある。
配信者に関しても同様で、人間族は人間を、魔族は魔族を応援する傾向にある。
「嬉しいことだね。だからこそ私たちに勝てば、魔族人族共に知名度をあげられる──そう思ったんだろうね」
静かにそう分析するまどかを、いろはがにやりと見つめる。
「おもしろい」
「……?」
「挑戦状をたたきつけられたってことも! それが可能なゲームってところも! 全部ひっくるめて──」
「──最高じゃん!」
今は何も映っていない画面の向こうに向け、いろはは笑顔で拳を突き出す。
「もちろん、受けて立つよね!」
「うん、次の配信は、人工迷宮攻略──やってやろうじゃない!」
「まどにゃん、人族じゃなく魔族だから魔工迷宮じゃない?」
「あーもう、どっちでもいいよ、しまらないなぁ……」
そういうと2人で顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出し、笑いあった。




