第63話:一人だけ、届いた場所
──落雷が降り注ぐ。
ボスの右手から天へと放たれた無数の光は、空間全体を覆い尽くす。
その雷撃に、誰一人として抗えなかった。
まどか、ソラ、コノエ、フィーノ、サロロ──次々と光の粒子となって霧散していく。
残りHPは0.01%。
あとほんの一撃、その先に辿り着くはずだったのに──
「……終わった……?」
沈黙がフィールドを覆いかけたその時だった。
──ずず、と砂の舞う音がする。
ボスの巨体の真下、崩れた地形の影に──誰かの影が浮かび上がる。
「えっ……」
「あれって……」
リスポーン待機中となった、まどかが目を見開き、
同じく待機中のコノエも驚きに眉を寄せる。
視聴者コメントも一斉に湧き立つ。
▶ あれ……まだ一人残ってる……?
▶ うそ、いろは!? いろはが残ってる!?!?
▶ どういうこと!? 範囲即死じゃなかったの!?
その中心にいたのは、杖を両手に構えたいろはだった。
──あの一瞬、いろはは考えていた。
演出のための即死確定スキル……じゃないかもしれない!
もし、もしこの攻撃に“安全地帯”があるとしたら──
いろはは思い出していた。
最初にこのレイドボス、メルザルク=ルーメンが落雷を使ってきたときの事を。
攻撃のエフェクトの分布、雷が“落ちなかった”範囲の僅かな違和感。
そして、ただの直感。
“ここだけは、落ちてこない?”
気づいた時には、体が勝手に動いていた。
誰もがギミック即死だと諦めた攻撃を、
気づけばただ一人、回避していた。
視線の先、巨大なボスのHPバーがまさに0.01%で止まったまま。
「──これで、……おしまいだぁー!!」
叫びと共に、いろはが全力で杖を振り上げ、ボスの足元に叩きつけた。
鈍い音と共に、ボスの体に最後のダメージが刻まれる。
その瞬間──
ボスの動きが止まり、光に包まれて、静かに霧の粒子となって消えていった。
HPバーが──完全に、消失。
残されたフィールドにはただ1人、いろはだけが立っていた。
……
数秒の静寂の後、コメントが溢れ出す。
▶ 勝ったああああああ!!!
▶ いろはああああああ!!!!
▶ お前がヒーローだよ!!
▶ 杖でレイドボスを殴り倒す支援職とは。
まどかが光の粒子から再構成されるのと同時に、目の前のいろはを見て、唖然とした表情になる。
「……やった、の?」
「うんっ!勝ったよ! まどにゃん、ちゃんと見ててくれた?」
──この瞬間、
ステージ3、レイドボス討伐完了。
決着を決めたのは、たったひとりの支援職
──いろはだった。




