第53話:砂の主、地を裂かれて
モグラの動きは、巨人に比べるとずっと速かった。
だが、まどかの目はそれにしっかりと追いついていた。
「……大丈夫、動きは読める」
巨人を操っていたあの小さなモグラ──本体はどう見てもあちらだ。
そう確信できる理由はひとつ。ナイフを一閃すれば、目に見えてボスのHPバーが減っていく。
巨人に攻撃していたときには感じられなかった、確かな手応えと、減る体力ゲージの反応。それがすべてを物語っていた。
ただしモグラの攻撃は油断できない。
ぴょこぴょこと不規則に跳ねながら、短い手足で鋭い爪を振るってくる。
意外と間合いが広く、踏み込みの読み合いを強いられる。
そのうえ、頭上からは巨人の拳がタイミングを合わせるように叩きつけてくる。
「まどにゃん、上からも来てる! そっちはまかせて!」
上からの攻撃──巨人の拳の軌道はシンプルで、しかも動作が大きい。
そのぶん、いろはの展開する《光彩符》で軌道を逸らしやすい。
巨人の拳に対して複数枚の光彩符を斜めに設置することで、攻撃を斜めに弾く。
これにより、まどかは頭上を気にせず、モグラに集中することができた。
まどかの姿が淡い影のようにブレて、地を滑るように動き出す。
「絶影、発動!」
影から影へ、一閃。モグラの死角へと瞬時に飛び込み、最大加速の連撃をたたき込む。
視線すら追いつかない速さで切り込むまどかの姿に、コメント欄が一気に湧き上がる。
▶ 速っ! え、今どこから来た!?
▶ 絶影マジでかっこいいな!?
▶ ワープしてると言われても俺は信じる
怒涛の連撃に、さすがのモグラもたまらず後退。
体を回転させて距離を取ると、そのまま砂の中に潜り込もうとする。
地面をガリガリと掘る動作をした、その瞬間──。
「いろは、あそこ!」
「はいはーい!《光彩符》!」
ただ、モグラの前足が掘りかけた場所に、淡く発光するバリアの壁がぬっと現れた。
それ以上、掘り進めない。まどかがちらりと横目でいろはを見ると、いろはは笑顔でピースサイン。
「……ほんと、便利だなぁそのスキル」
そう呟きながら、まどかは間髪入れずにナイフを振り上げる。
「《終斬》──これで終わりっ!」
まどかの姿が一瞬消え、刹那の後に、モグラの背中に紅い残像を引いた一閃が突き刺さる。
攻撃が通った直後、巨人とモグラの身体が淡く発光し、キラキラと光の粒子となって消えていく。
「──やったぁ!」
思わずまどかがナイフを掲げる。いろはも飛び跳ねながら駆け寄ってきて、二人でハイタッチ。
「やったね! 勝った!」
「……うん、勝った……!」
疲労と達成感が全身に広がる。座り込みたくなる気持ちを何とか踏ん張って抑える。
だが、これはタイムアタック──立ち止まっている場合ではない。
「急ごう、ゴールまでもう少し!」
ボスがいた空間の奥には、梯子のようなものが設置されていた。
その上──遥か天井に、光り輝くポータルゲートが見える。
「まどにゃん、ラストスパート!」
「うんっ!」
二人は梯子を駆け上がる。もはや最後の力を振り絞るように、息を合わせて上へ上へ。あと少し──というところで視界が開ける。
広がる空間。煌めくゴールポータルが、そこにはあった。
「……間に合った!」
「いっせーのーでっ!」
最後の一歩を踏み出し、二人で同時にゴールポータルへと飛び込む。
その瞬間、ダンジョンの空間が光に包まれ、ステージ2のクリアを告げるシステムボイスが耳元に響く。
《チーム“まどいろ”、ステージ2クリア──タイム、88分22秒》
▶ まどいろクリアきたーー!
▶ ギリギリじゃん!?熱すぎる!!
▶ 終斬かっこよすぎ!!
二人は光の中で視線を交わし、息を切らしながらも、笑顔を見せた。
「よし、あとはリザルトを待とうか」
「うん……今日のわたしたち、カンペキだったよ!」




