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第54話:沈黙と理詰めの応答


 最速で第三階層に到達したのは、ソロプレイヤーのソラだった。


 無言のまま、彼はスタートから寸分の無駄もない進行を続け、罠らしい罠も悉く回避してきた。


 第三層の崖道に差し掛かったとき──その道が崩れ落ち始めた瞬間にも、彼の足取りは一切揺るがなかった。


 「……」


 淡く息を吐くようにタイミングを測り、沈み込んだ姿勢から加速。

 崩れていく岩の縁をまるで足場であるかのように跳躍していく。

 

 その体の動きは、もはや人間というより動物のようなしなやかさだった。


 最後の一歩、足場が抜ける直前にソラは矢を一本取り出し、特殊なロープの巻かれた弦を引き絞る。

 

 放たれた矢は、崖の向こう側に突き刺さる。


 それを引きながら滑るように身体を運び──


▶ いやこれ無理だろ!?

▶ 人間じゃない

▶ スパイダーマンかよ


 ──そのまま向こう岸へとたどり着いた。


 ポータルが目の前にあった。ためらいなく、ソラは歩を進める。しかし──


 バンッ!


 無音の拒絶のように、透明な壁にはじき返された。


 「……」


 ソラは視線だけで崖下を見下ろした。そこにはボスモンスター──デザートジャイアントの姿があった。


 「やれってことか……」


 静かな吐息と共に、彼は矢を構えた。


 それは、嵐のような連射だった。

 

 貫通、毒、爆発、氷結──数え切れない種類の矢を、弱点とされそうな部位へ次々と打ち込み続ける。

 

 ボスの動きに合わせ、距離とタイミングを一歩も間違えない。


 しかし、それでもHPは削りきれなかった。


 残りHP、30%。ポータルは、なおも閉ざされたままだ。


 「……ムリゲー」


 ポツリと、静かに吐かれたその一言は、タイムアップの通知によりかき消された。




 同じ頃、コノエも第三層に到達していた。


 崖道の崩落には巻き込まれたものの、持ち前の冷静さで体勢を立て直し、最小限のダメージで着地する。


 直後に現れるのは、砂の巨人──デザートジャイアント。


 「敵確認。大きさは過去最大級。重量攻撃主体。モーションの判別は簡単」


 一歩、コノエは前に進む。


 「戦闘開始」


 彼女の放つ魔法は、ソラの点での攻撃、まどかの線での攻撃に対し、広域の“面”での攻撃。

 

 一撃で広範囲を覆い尽くすその火力は、まさに巨体を持つ敵との戦いにおいて真価を発揮する。


 「火力を一点集中、まずは頭部へ。《断閃連牙》、展開」


 重厚な音と共に放たれる連続魔法が、巨人の頭を覆い焼き尽くす。大きくのけぞる巨人──しかし、3秒で元通りに再生する。


 「破壊完了。……やっぱり再生するね。部位破壊は無駄?」


 目を細め、次の策を練る。


 「砂の供給経路を断つ。両足を同時に破壊、《幻理斬》《断閃連牙》、……火力不足。アイテムで補填。《魔核強化:雷槌珠》使用」


 強化された魔法で両脚を同時に撃ち抜く。だが、それも無意味に近かった。


 「再生確認。……再生自体を止めることは不可能?」


 迷いなく、新たな手を打つ。


 「《ウィンドストーム》展開」

 

 砂の巨体を中心に大きな砂嵐が吹き荒れる。

 

 そこに先ほどと同様にコノエの強化魔法が敵の脚部を同時に貫き破壊する。

 

 破壊された部位、再生のための砂は風に巻き上げられ、明らかに再生速度がにぶる。

 

 「……再生が遅い。回復反応、鈍化確認」


 それを逃さず、コノエは魔法による嵐の中で一気に連撃を加えていく。


 「火力が再生を上回った。このまま継続する。」


 空間を制圧する魔力の雨が、巨人の体を一片ずつ吹き飛ばしていく。

 ついには、巨体が霧散するように崩れ落ち地面の、奥から1匹のモグラが飛び出す。


 それはまどいろチームが見たのと同じ存在。デザートジャイアントの本体、操縦者。


 だがコノエにとって、こいつもまた「対象」にすぎなかった。


 「攻撃開始。移動速度が早い。回避しきれないから、バリアと回復で凌ぐ。」


 反射的にバリアを展開し、食らうダメージを最低限に抑える。


 そしてそのダメージ分を犠牲にしてでも、1発の魔法を確実に当てに行く。


 「制圧手段──《重撃呪:バインド》、詠唱」


 モグラの足元に発光する魔法陣。鋭く、床に突き刺さる魔力の杭が、モグラの動きを封じた。


 「行動不能、確認」


 そして。


 「対象、排除」


 無表情で魔法を放ち続ける。火、雷、風、闇。

 あらゆる属性が、停止したモグラを灼き、打ち据え、削っていく。


 バインドの効果はほんの一瞬だったが、そこから始まる攻撃の嵐がやむことはない。

 

 逃げようともがくモグラに対し、定期的に行動阻害を挟むことも忘れず、何十、何百という魔法が連続で叩き込まれ、モグラのHPはついにゼロを迎えた。


 静かに光に変わり、モグラの体が霧散する。


 「──完了」


 その言葉と共に、周囲の空気がふっと落ち着きを取り戻す。


 一歩だけ、彼女は後ろに下がった。


 「10秒だけ休憩……」


 崩れない声で、けれど少しだけ呼吸を整える。


 ステージ2、各者がそれぞれのスタイルで戦いを終えた。


 残るは、タイムと評価の発表を待つのみ──。

 

 

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《断閃連牙》:コノエの連続魔法スキル。短詠唱で高密度の魔法を連続で発動。


《幻理斬》:敵のバフや防御効果を解除する魔法。対象の再防御を一部無効化する。


《ウィンドストーム》:広域風属性魔法。範囲内の敵の移動速度と再生効果を一時的に低下させる。


《重撃呪:バインド》:対象の移動を一時的に封じる魔法。効果中は全ての行動速度が大幅に低下する。

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