第45話:油断大敵
懐に潜り込んだまどかは、スライムドラゴンの巨大な身体に回転するようにまとわりついた。
だが、至近距離に入れたからといって、コアが簡単に砕けるわけではない。
スライムの柔らかい体に隠れたコアに攻撃を届かせるには、同じ部位を何度も攻撃して傷を広げ、奥深くに切っ先を滑り込ませる必要があった。
飛び交うブレス、変幻自在の触手、無作為な振り回し――
コアを守ろうとする多重の攻撃がまどかに襲いかかる。
正直、彼女ひとりの回避では捌き切れなかっただろう。
だがそこは、頼もしい相方の展開したバリアが道を作っていた。
攻撃の一部軌道を封じることで、まどかの動きに“予測可能な安全地帯”を与える。
「ナイス……! いろは、完璧だよ」
まどかは短く礼を言い、分身のひとつがブレスに焼かれるその隙に、片翼――シャドウスライムのコアを突き崩す。
大きく間を置かずに、同時に削っていたもう一方の翼――ライトスライムのコアも崩れ落ちた。
両翼を失ったスライムドラゴンは、その制圧力を大きく失う。
反応が鈍り、攻撃頻度も落ちていく。
ここまでくれば回避も攻撃も大幅に余裕が生まれてくる。
残った分身を翻弄に使いつつ、まどかは手を止めない。
一撃一撃が、確実に巨大なスライムの芯を捉えていく。
そして、最後の分身が炎のブレスによって消し飛んだ頃には、
マグマの頭、ジュエルとポイズンで再形成された胴体の三部位のみとなっていた。
「あと少し──!」
残る分身が敵の視線を引きつけている間に、まどかの攻撃が残りのスライムを穿ち続ける。
まずは燃えるマグマの角を構えた頭部――マグマスライムのコアを撃ち抜く。
続けて、うごめく毒の膜で胴体を支えていたポイズンスライムのコアも切り裂いた。
そして、残るはジュエルスライム。
硬度は段違い、物理攻撃は弾かれ、刃が滑る。
それでも──
「……逃がさない……!」
足を止めず、跳ねるように、掘るように、滑り込むように、斬撃の圧を重ね続ける。
▶ いやジュエル硬すぎww
▶ スキル全然通ってなくない!?
それでも少しずつ、確実に宝石の体が引き裂かれていく。
そしてついに、体の隙間からジュエルスライムのコアの一部が姿をのぞかせた。
その時だった。
ジュエルの体が、ぷつりと脈打ち、膨張したかと思えば──周囲を大きく巻き込み爆発した。
「やば──!」
スライムの外殻を一斉に自壊させる特大反撃、まどかの身体が爆風に吹き飛ばされる。
HPバーがみるみる赤に染まり──しかし、ギリギリで残った。
回復が間に合った。
爆発の直前、《イリュージョンステップ》使用後の、5分回復不能制限が解除されていたのだ。
その瞬間、いろはの回復魔法が飛んだ。まどかのHPが満タンまで戻り、爆発に耐え切った。
「……ナイスリカバリー、いろは!」
いろはの方を見ると、親指をグッを上に立てて、ウィンクをかましている。
「やっちゃえーっ、まどにゃーん!!」
まどかは少し苦笑いしつつも深く息を吸い、刃を水平に構える。
膨張して自壊し、装甲を失ったジュエルスライムのむき出しのコア。
今、そこには一切の障壁がなかった。
──回避不要。一直線。
「そこ──っ!!」
飛び込んだ一閃が、スライムの核心を貫いた。
七色の光が弾け、巨大なキメラの身体が崩れていく。
「……よし、突破完了!」
綱渡りの連続を制し、見事に2階層を突破。
2人は余韻を感じる時間も惜しみつつ、3階層への階段を下っていく。




