番外編短編・コンビニスイーツ
長谷川雄高は、事業家だった。恋愛カウンセリングコーチの仕事から手広く事業を広げ、今は飲食店経営をメインとしていた。今は高級食パンの店やカフェのオーナーをやっていた。その中でルイスの店・異世界キッチンは利益は無視して自由にやらせていた。うっかり異世界に迷いこんでしまった雄高は、ルイスに助けられた。ルイスは恩人といって良い存在だ。四十近くなって恩人ができるとは、なんとも妙な話だが。
今日は、少々打ち合わせがあるので、ルイスの店に向かってるいた。
「さて、お土産はなんにするかな」
雄高はそう言いながら、ルイスのお店の近くのコンビニに入店した。ルイスは日本のコンビニスイーツを見ると泣いてよろこんでいた。「こんな安くて美味しいものが二十四時間手に入るなんて!」と号泣。
以来、ルイスに会う時はコンビニスイーツを手土産にしていた。本当はデパートのマカロンとかの方が良いんだろうが、ルイスに高級なものを持っていっても号泣するほど喜ばないのだ。やはり異世人は変わっている。
コンビニに入るとチルドコーナーに直行。今は抹茶フェアをやっているようで、プリンやドーナツ、どら焼きなどが抹茶味になっていた。一番豪華なのは抹茶パフェだろうか。小さなカップに抹茶ゼリー、ムース、ソースと層になり、一番上には蜜柑、さくらんぼ、メロンがある。それらはクリームに縁取られていた。
確かにこのパフェは豪華じゃないか。普段は見慣れたコンビニスイーツだが、ルイスの泣いて喜んだ顔を思い出すと、高級品に見えてしまった。値段は500円しないのに、ルイスによっては珍しく価値があるものだろう。
このスイーツができるまでに一体どれぐらいの人の力を借りたのだろう。農家や工場だけでなく、物流やコンビニ店員のことも考えると、確かにこれは豪華なスイーツだ。
雄高のような経営者はサラリーマンと違って、なんでも自己責任だ。時には運のような見えないものに縋る事もある。好きな事ができる一方、安定はない。
転落してコンビニスイーツすら買えなくなる可能性だって捨てきれないのだ。今は成功しているが、安定はない。
そう思うと、余計に目の前にあるコンビニスイーツが価値あるものに見えてきた。コンビニスイーツだけでなく、世にある食べ物は全部そうだろう。
日本は食事が美味しい国と言われているが、その一方では食品ロスも多い。豊かな食生活に、日本人は贅沢になっているかもしれない。戦時中の人が今のコンビニを見たら、天国に見えるかもしれない。
そんな事を考えつつ、カゴにパフェだけでなく、どら焼きやゼリーも入れる。ルイスはきっと喜ぶだろう。
ルイスの笑顔を想像していたら、雄高の口元もゆるんでいた。




