22.サキュバス公爵令嬢の叫び
本日3話更新。1話目。
ダンジョンの地下五階の部屋に、僕とシャロンとランがいた。
テイムしたサキュバスが立ち上がって叫ぶ。
話を聞いたら解放すると約束していたのに、できなかったから。
ニグリーナは地団駄を踏んで悔しがる。マントがめくれてスレンダーな裸体がチラチラ見えた。
「ペットのままって、詐欺じゃん!」
「ごめん。テイマーに対するペットの好感度が最大だと解放できなくなるんだ。ペットが嫌がってしまうから」
「はぁ!? なにそれ!! まるでアタシがノイスのこと大好きみたいじゃんっ!」
すると横にいるシャロンが、青い髪を揺らして呆れつつ言った。
「もう大好きだと思いますよ、ニグリーナさん」
「そんなはずないっ」
「じゃあ、ノイスさまと出会ってから思ったこと、言ってみてください」
ニグリーナはこめかみに指を当てつつ眉を寄せる。
「アタシが大好きになる要素なんてなかったじゃん? ――最初は弱そうと思ってさー、でも逃げようとしたら壁ドンされて、生まれて初めて男性にドキッとしてー、吸精して逃げようとしたらすっごく濃くて、お腹の奥がきゅんきゅんしちゃって立っていられなくなってー。ぶっちゃけ『ああもうノイスの濃いいの、たっぷり注がれて破裂しちゃいたいっ!』って話してる間もずっと思っててー、……あ~、やっぱアタシ完落ちしてたわ」
「即答! ……そんなこと思ってたんだ」
「えー、じゃあ、アタシもうずっとペットなわけ? 公爵令嬢なのに? さいあくー」
「私なんてドラゴニアの第一皇女ですよ」
「なに身分競ってんのさー。お互い、人間のノイスに完落ちしたみだらな女ってだけじゃーん」
「み、みだら……っ! 私は淫らじゃありませんっ!」
シャロンは涙目になって否定する。
ニグリーナは頭の後ろで手を組んだ。
「アタシはふしだらな女だけどね。――まー、いっか。男性にきゅんきゅんしたの生まれて初めてだし」
「いいんだ? 意外とあっさり受け入れた」
「うん。どうせサソリの件で、めっちゃ怒られるはずだったし」
「また作ったらいいんじゃないの? ダメなの?」
「あれ施設が老朽化した時に敷地を更地にしたんよー。その時に理論上製作可能なサソリを作ってみたんで、今は施設再建してスペースがないから作れないわけ。象が一番大きいのかな」
「そうなんだ。なんかあっさり倒してごめんね。でも危なかったんだよ冒険者たちが」
「しかたないってば。事情はそれぞれだし。……それより、ペットってごはんはどうなんの?」
「ちゃんとあげるよ」
「お小遣いは?」
「働いてくれたら欲しい物買ってあげるよ」
「まさかサキュバスのアタシに戦闘しろって? 攻撃スキル一つもないよ」
「え? 取ってないだけであるよ。【吸精鞭】とか【魅了鞭】。【快楽闇】に【吸精嵐】」
「ええっ! サキュバスに攻撃スキルあったの!? 知らなかった!」
「うん。この相手をウインクで吸精失神させる【昇天色目】とかやばそう。避けようのない不意打ち遠距離攻撃だよね」
「うっそ、それ伝承やおとぎ話のサキュバスじゃん……アタシでも使えるようになるんだ。テイマーってペットのスキル見たりいじったりできるんだね……うん、決めた! 覚えるまでノイスと離れないからっ」
笑顔のニグリーナが抱き着いてきた。ほとんど裸なので、すべすべした素肌がじかに当たる。
シャロンが、ぐぬぬっと唇を噛んで睨む。
「あんまりべたべたしてはいけません! ノイスさまから離れなさい!」
「なに? 嫉妬? そんなんだからご主人様から手を出してもらえないんじゃん」
「く――っ! 私だってっ!」
シャロンがニグリーナの反対側から抱き着いてきた。華奢な体と大きな胸が押し付けられる。
両手に花状態で身動きが取れない。
「いや、二人とも、なにしてんの」
「きゅい!」
みんなが遊んでるとでも思ったのか、子供姿のランまで僕の背中に乗って抱き着いてきた。
飛びついた勢いで長い金髪が柔らかく流れる。
ダンジョンの小部屋で周囲から女性に抱き着かれる僕。
――なんだこの絵面。
僕はシャロンとニグリーナの顔を見ながら諭す。
「さあ、遊んでないで帰ろう。ダンジョンの事情はわかったから」
「はい、ノイスさま」「しゃーないねー」
二人が渋々離れる。
ランだけは後ろから首に抱き着いて「きゅい」と鳴いた。
しかし荷物をまとめていると、ふいにニグリーナが言った。
「あ、ノイス。待って」
「どうかした?」
「このまま地上に帰ったらやばくない?」
「どうして?」
「お父さんに会って事情説明しとかないと、魔界の公爵令嬢を誘拐して性奴隷にしてるってことになっちゃわない? バレたときがやばいよ」
「あっ、それもそうか。下手したら戦争になるかも……じゃあ、魔界に行って弁解するしかないか」
「ですね。そうしましょう」「きゅいっ」
シャロンとランが神妙に頷いた。
「じゃあ、ニグリーナ。案内してもらえる?」
「まっかせといて~!」
ニグリーナが裸体にまとったマントをバサッと翻しつつ、先頭に立って歩き出した。
僕らはその後に続いた。
◇ ◇ ◇
そしてニグリーナの案内でダンジョンを最下層まで降りた。
驚いたことにダンジョンには従業員用の管理通路があったので、あっという間だった。
最下層もまた鍾乳洞のようなダンジョン。
突き当りに魔法陣の描かれたゲートがある。
その前まで来ると、ニグリーナがマントを翻して立ち止まった。
紐が隠すだけの裸体を晒してポーズを取りつつ言う。
「んー。この先が魔界のゴミ処理施設なんだけど~」
「どうしたの?」
ニグリーナはシャロンとランを見て、それから僕を上から下まで見た。
「さっきも言ったじゃん? 魔界は魔素が豊富だって。――たぶんドラゴンは平気だと思うんだけど、人間のノイスはけっこーやばいかも?」
「なるほど。魔素ってのは空気中に漂う風の粒みたいなものかな?」
「イメージ的にはそんな感じ~」
「わかった。対処してみる」
僕は黒い刃のナイフを取り出して右手に持った。
隣にいるシャロンが青い髪を揺らして、僕の肩に手を置いた。心配そうに青い瞳が潤んでいる。
「ノイスさま、無理はなさらないでくださいませ。最強とはいっても、環境にまでは勝てませんから。私とランで話し合ってきますよ」
「ありがと。でも、テイムした張本人であるテイマーがいかないと父親も許さないだろうし。……頑張ってみるよ」
「そうですか。さすがノイスさま、責任感が強いです。ですが……」
「わかってるって。危なくなったらすぐにここへ戻るから」
「はい、そうしてくださいね」
シャロンは不安をなだめるように大きな胸に手を当てた。そして悲し気に微笑む。
ニグリーナが裸体をひねりつつ「へっ」と鼻で笑う。
「何言ってんの。まるで死にに行くみたいに。アタシだって伝説のサキュバスになりたいんだから、ノイスを死なせるわけがないじゃん? 濃いいのまだまだ楽しみたいし――バカ言ってないで、さっさと行こ~」
そう言って、軽々と魔法陣に飛び乗って消えた。
「うんそうだね。行こう」
「はい、ノイスさま」「きゅいっ」
僕らも後に続いてゲートをくぐった。
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次話、昼ごろ更新。




