21.ゴミ処理場主任ニグリーナ
本日3話更新。3話目
ダンジョンの地下五階の部屋で、僕たちはサキュバスの少女と出会った。
まだ聞きたいことがあったのに逃げようとしたのでテイムしたのだった。
――生気を少し吸われたけど。
僕は膝立ちで起き上がった。
サキュバスの吸精をまともに受けてしまい、膝をついたのだった。
腰のあたりにゾクッとするような快感が走ったせいでもあるけど。
隣では半裸のサキュバス少女がマントを乱して座り込んでいた。
乱れた桃色の髪も直さず、ひたすら手でお腹をさすっている。
「うっそ、何この力……濃すぎるわよ。全部吸ってたらお腹弾けちゃってたわ、あっぶなかったぁ」
「さて。ダンジョンやモンスターについて、知ってること話してもらえるかな?」
「人間なんかに教えるわけないじゃーん! でも、またお腹すいたら交換で教えたげる! ――じゃあね~!」
少女はすばやく立ち上がると、先ほどよりも早い速度で駆けだした。
そして入口から去っていった。
――どうやらテイムされたのに気付いていないらしい。
座り込んでいると、ランの手を引いてシャロンが傍へやってきた。
「どうしましょう、ノイスさま。逃げられてしまったようで……追いかけますか?」
「いや、その必要はないよ。ダンジョンからは出られないだろうし……えーっと、ちょっと待っててね」
「はい」「きゅい!」
僕はテイマーのスキルツリーを思い描いて、スキルボーナスポイントを【行動命令】に振って取得する。
それからペットになったサキュバスのステータスを見た。
「名前はニグリーナ・クロヴォサスキーか……へぇ、職業が廃棄物処理場主任で、魔界公爵令嬢だって……え? 魔界!?」
シャロンも青い目を見開いて驚く。
「魔界! ミルデモノフ魔王国! 以前、地上に通じる大穴をいくつも開け、世界を滅ぼそうとした恐るべき者たちの住む場所ですわ!」
「ますます話を聞かないとっ! ――【行動命令】ニグリーナ、お手!」
僕は片膝をついた姿勢で、手を前に出した。
しばらくは何もなかったけど、次第に遠くからどたどたと走る音が聞こえてきた。
だんだん声まで聞こえてくる。
「嘘でしょっ! なんで!? なんで、戻ってんのよぉ~!」
そして涙目で僕らの部屋に飛び込んでくると、僕の前に座って裸体を晒して、あられもない姿で手を掴んできた。
忠犬がご主人様にお手をするように。
ニグリーナは戸惑いと憤りで眉尻を下げながら上目遣いで訴えてくる。
「なんでよぉ! いったいアタシに何したのよぉ!」
「テイムしただけだよ」
「てい、む……? ――えっ! アタシ、ペットにされちゃったの!? 一生ノイスの性奴隷なの!? ――あんなに濃いいの、毎日無理よぉ! はちきれちゃうっ!」
「いや、なんで性奴隷前提なの。しかも毎日。……話を聞きたいだけだってば」
「話だけ? 本当に?」
「うん、全部教えてくれたら解放するよ」
するとニグリーナは僕の手を掴んだままその場に胡坐をかいた。
いろいろ見えそうになるきわどい姿勢だった。
「それなら話すけど……この手、はずせないんだけど?」
「ああ、ごめん【命令解除】……さて、何から聞こう? シャロンは聞きたいことある?」
「いえ、ノイスさまにお任せしますわ」
「わかった。じゃあ、ニグリーナ。まずこのダンジョンやモンスターはいったいなに?」
ニグリーナは胡坐に頬杖をついて僕をジト目で見る。
「質問が漠然としすぎ~。まあ、全部話すけどさ。このダンジョンは魔界に通じてんの」
「ああ、やっぱり」
「それで魔界で出たゴミを固めてモンスターにして、ダンジョンに捨ててんの。地上まで駆け上がる命令だけして」
「モンスターがゴミって、文字通りそう言うことだったんだ! だから廃棄物処理場の主任なんだ」
「えっ、何で知ってんの?」
「ペットのステータスは見れるから」
「あー、じゃあ、アタシが魔界の公爵令嬢ってのも知ってる?」
「うん、驚いたよ」
「まあ、親が成り上がったんだけどね。厄介な地上への穴をゴミ処理場にした功績で」
「僕らはゴミを倒してたんだ……魔核は?」
「ゴミの中に入れてる石? あれ、魔界のその辺に落ちてる石ころを固めたやつよ。魔界は魔素が充満してて、ただの石にもたっぷり染み込んでるから」
「となると、潰すわけにはいかないなぁ……地上で魔核を利用してるから」
「へー、そんなことになってたんだ」
ダンジョンの仕組みはだいたいわかった。
あと気になる点はやはり魔界について。
「魔界は世界征服をしないの?」
「もうしないかな~? 魔族にとっての地上って、魔素のない、生きていけない場所なわけ。人間って生きるのに水が必要なんだっけ?」
「うん、飲まないと死んじゃうね」
「それとおんなじ。魔族にとって地上は不毛な砂漠なわけ。いくら水筒持っていっても限りがあるし、面倒だし。魔素の染み込んだ石を固めたのが魔族にとって水筒替わりね。で、もう地上いらなくね? ってなって、穴を閉じたの。閉じないと変なのいっぱいくるし」
「変なの?」
「ゆーしゃとか、せいきしーとか、魔界に乗り込んできて暴れるじゃん。そりゃ最初に手を出したのはうちらだから仕方ないかもだけど。いい加減、何百年もそういうの続くとうんざりで。だから塞いだ。ほんとはここも塞ぐ予定だったけど、父がゴミ処理場にしたわけ」
「じゃあ、もう魔界は攻めてこないんだ」
「みんなもいらないって感じかな~。でもすごくない? ゴミ処理場にしたら、人間は防衛で手いっぱいになって魔界まで来なくなったし。石ころは無尽蔵にあるからいくらでも捨てられて魔界はきれいになるし。一石二鳥ってやつ」
「まあその恩恵を地上も受けてるわけだし……魔界は攻めてくる気がないし。このダンジョンは現状維持でいいのかな?」
僕は首を傾げつつ頷いた。
――できれば難易度も下げたいところだけど、それをすると魔界まで到達する冒険者が出てくるだろうし……難しいところだった。
するとニグリーナが暗い顔をしてうつむいた。桃色の髪が頬を隠す。
「……あぁ、でも。今度は地上から魔界に攻めてくるかも」
「どうして?」
「魔王になろうとして追放された魔族がいたんだ。アタシの叔父さんなんだけど。地上で勢力蓄えて大軍勢で攻めてくるってさ。ちょっと前に最後通牒が届いたのよ。男は皆殺しにして、女は全員抱くそう。アタシも、いとこの女帝もまとめて犯すって言われてる。意地悪ないとこだけ狙えばいいのに。もうほんと最悪。それなのにサソリ倒されちゃうし、最悪の最悪」
はぁ~、とニグリーナは憂鬱そうに顔をしかめて溜息を吐いた。
ただ、その話にピンとくるものがあった。
「その魔王って、ひょっとしてウォルザークとかいう魔族?」
「えっ!? 何でおじさんの名前知ってんの!?」
「そいつなら僕が倒したよ。奇跡が使える大司教として新興宗教を立ち上げて信者集めてたから。かなりひどいこともしてる集団だった」
――前国王に従わない民衆が増えたので、僕が排除することになったのだった。
直接対決してみたら、かなり弱い魔王で逆に驚いたけど。
ニグリーナが赤い瞳を丸く見開いた。
「うっそ! ノイスが倒してくれたの!? ありがと、マジ嬉しいっ――って、ほんとに? ノイスそんなに強かったの? 弱そうなテイマーじゃん!」
「まあ、いろいろあってね」
彼女が疑り深そうに目を細める。
「てか、そういや。ただのテイマーがアタシに壁ドンできるはずないし……あの動きはありえなかったもんね」
「そうかな? 練習次第では誰でもできるかもね」
適当にはぐらかしたけど、ニグリーナの疑う視線は止まない。
「そうは言ってもさあ。やっぱ、おかしくない?」
「なにが?」
「テイムって、ぼこぼこにして弱らせてからするもんでしょ? アタシ何にもされてないじゃん」
「いやもう。それについては、解放するペットには話せないかな。でもいろいろ話してくれてありがとう。おかげで帰って報告できるよ――じゃあね【解放】」
僕は、はぐらかすように彼女に手を当てて唱えた。
しーん……。
しかし何も起きなかった。
僕の隣にいたシャロンが額に手を当てて、がっくりと肩を落とす。青髪を揺らして盛大な溜息を吐いた。
「ああ、薄々思ってましたけど……やっぱりそうなりましたか」
「ちょっと待ってよ! 今回は何もしてないはず!」
「どしたの、ノイス? もうペットじゃなくなった?」
「ごめん。解放できなくなった」
「えええええ! どーしてくれんのよっ! アタシこれでも公爵令嬢なんだからっ! いい男落として、一生楽して暮らしたいのにっ!」
ニグリーナの悲鳴がダンジョンに響いた。
明日は2話更新。3話になるかも。




