4日目. お家作り 後編
屋根さえできてしまえば、残りは壁をつけるだけだ。
在来工法である軸組み工法であれば、筋交いを入れたり、金物で補強する必要があるが、葉月は壁の面で支えるパネル工法に近い形で建てるので、筋交いは入れなかった。
地震大国日本とは違い、地震は起こらないはずなので、風と雪の重さに耐えられれば十分だ。
窓と玄関になる部分だけを残して、柱と柱の間に板を打ちつけ、外壁が完成した。
家の中で土台を作った部分にも板を張り、扉一枚分の開口を残して部屋を仕切る。
小さく仕切ったほうの部屋はトイレになる予定だ。
ここまでくればほとんど完成も同然だった。
ソラは嬉しかったのか葉月の肩から下りて、家の中を跳ね回っている。
葉月は跳ね回るソラを放置し、作業台へ向かった。
残った板を細い木の棒にクラフト。それを昨日の残りのガラスとあわせ、枠のついた窓を二つクラフトした。
家用の玄関扉とトイレの扉も木材でクラフトする。
新しく作った家の周りも柵で囲うために、木材を木の棒にクラフトし、更に柵を作った。
クラフトしたばかりの窓と扉を設置し、ようやく葉月の新しい家が完成した。
土の小屋は家畜小屋にするつもりでいたので、そのままにしておく。
小屋の中からベッドとかまどを新しい家に移動させると、いよいよ家らしくなった。
カーテンや家具などのインテリアは少しずつ揃えていけばいいだろう。
新居用にストレージも追加で作成し、玄関脇にいくつか設置しておいた。
あとで何を入れるのか考えるのも葉月の楽しみの一つだった。
「おーい、ソラ~? お昼ごはんにするよ~?」
葉月が声を掛けると、ぽよんぽよんとソラが新居から出てきた。
インベントリからりんごを取り出してソラに渡す。
お昼ごはんはりんごで軽く済ませた。
ソラはご飯を食べ終えるやいなや、新居の中に姿を消してしまう。
葉月は首を傾げたが、今日はまだやりたいことがあったので、そちらの作業を進めることにした。
家を建てるのにかなり木材を使ったので、残りが少ない。
それでも葉月は残りの木材を木の棒にクラフトしていった。
七つ並べて、はしごをいくつか作る。
そのほかにも木炭の残りと木の棒をクラフトして、たいまつを作ったところで、完全に木材がなくなってしまった。
明日になって植林した木が育つまでは、木工作業はおやすみだ。
「忘れてた」
新しい木造の新居はまだ柵で囲っていなかった。午前中に作っておいた柵を立て、安全対策を施す。
これで今夜もゆっくり眠れるだろう。
ふと気になってステータス画面を確認すると、『二級建築士』の称号が追加されていた。これで豆腐建築士卒業だと葉月が喜んだのはつかの間だった。
『豆腐建築士』の称号が残ったままになっている。
(解せぬ……)
葉月は残った材料で作れる道具をクラフトすることにした。
作業台の上で石材をクラフトし、直方体を半分の大きさに割った石材を作る。
それを組み合わせてクラフトすれば、石臼の完成だ。
あまりに簡単にできたので動かしてみたが、ちゃんと溝も掘られていて、問題なく動いた。
明日、小麦を収穫してからが楽しみだ。
石臼を手で回してもいいが、面倒なので葉月は水力を利用するつもりだった。
水車を作るには木材が必要なので、作業は明日になるが、先に水路を作成しておけば設置するだけでいい。
葉月は万能ツールをスコップに変え、池から水を流すためのため池を掘り始めた。
池から十メートルほど離れた場所に、小さな露天風呂くらいの大きさで、一メートルほどの深さを掘る。
掘った部分は石のブロックを敷き詰めて、最終的には五、六十センチほどの深さのため池を作った。
ため池から池に向かって二、三パーセントの勾配をつけて、五十センチほどの幅の溝を掘っていく。
こうしておけば水は池からため池に向かってゆっくりと流れるはすだ。
最後に池と溝の間の土をスコップで取り除くと、ゆっくりと水が流れ始めた。
しばらく池の様子を見ていたが、さほど水位が下がったようには見えなかったので、おそらく池の水がなくなるということは無いだろう。
葉月は今日の作業はおしまいにすることにした。
「おーい、ソラ~?」
そういえば午後からもずっとソラの姿を見かけなかった気がした。
新居の中を探すと、トイレ予定の部屋からソラが半分だけ体をのぞかせている。
「どうかした?」
ソラはぽよんぽよんと跳ねるだけで、葉月のほうに近づいてはこない。
葉月が諦めてソラに近づくと、ぴちゃぴちゃという音が聞こえてきた。
「え、なんの音?」
ソラは跳ねているだけで、移動しようとしない。
葉月がトイレの中をのぞくと、床の真ん中に丸い穴が開いていた。
そっと覗いてみると、中で何かがうごめきながら音を立てている。
暗くてよく見えないので、葉月はクラフトしてあったたいまつに火をつけ、穴の上に掲げた。
「え、え、なに? なんなの?」
基礎として敷き詰めた石があるはずの場所には、こぶしほどの大きさの小さなスライムが何匹も跳ねまわっている。
「そ、そ、そ、そ、ソラ?」
穴の奥で跳ねている水色の小さなスライムとソラを交互に見つめる。
けれどソラはぷよりぷよりと揺れているだけで、何が言いたいのか葉月にはわからない。
葉月はステータス画面に助けを求めた。
『従魔:ソラ(スライム:Lv.3→4)+子分スライム(トイレ用)』
従魔の欄に『子分スライム(トイレ用)』の文字が浮かび上がっている。
「もしかして、ソラが産んだの?」
ソラはぷよりと揺れた。
どうやらトイレ問題は子分スライムによって解決したようであった。
異世界移住4日目
空腹度:●●●●●●●○○○
体力:●●●●●●●●●●
経験:Lv.25→26
従魔:ソラ(スライム:Lv.3→4)+子分スライム×8(トイレ用) New!
称号:移住者 (かけだし→初心者)、豆腐建築士、臆病剣士、ソラの飼い主、二級建築士 New!
スキル:土木:Lv.3→4、建築:Lv.4→5、農家:Lv.3、木こり:Lv.4、大工:Lv.5→6、採掘:Lv.2→3、調教:Lv.2→3、石工:Lv.2→3、料理:Lv.1




