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第4話 召喚された精霊術師は大ウソつきらしいですよ。

 神話の時代に当時の魔王を封印した英雄、「ラサラグェ=オフィウクス」は「精霊術師」と呼ばれ、複数の術を同時に行使した「精霊術」と呼ばれる特別な術を使ったという。

 魔法師は魔術、法術、召喚術のいずれかが使用可能であり、それぞれを独立して使用し、その際には詠唱が必要とされている。

 しかし精霊術師はそれぞれの術を融合させる「魔法連携(スペルコネクト)」と呼ばれる術を行使し、詠唱すら省略すると言われている。


優先度(レアリティ)も通常召喚で呼び出せる最高クラスだが、まさか精霊術師とはな」


エリーヌが驚嘆の声を上げる。その言葉と表情から、召喚された拓海の能力が想像以上であったことを窺い知ることが出来る。


「あの、精霊術師って何ですか?」


そのエリーヌの顔を見つめながらシャンテが質問する。


「ん? 精霊術師を知らないか? まぁ大分レアな職業だからな。しかし優先度『8』とは、さすがはシャンテだ。これらのことから判断するとタクミはかなり優秀な能力者だという事だが……」


 精霊術師という職業を知らないシャンテに賞賛の言葉を投げた後、視線を拓海に移し短く溜息をつく。


「あの、状況が飲み込めないんですけど、俺ってそんなに凄いんですか?」


同じく状況が飲み込めない拓海がエリーヌに質問する。


「うむ。しかし、それならなぜ私に簡単に負けたのか? という疑問があるのだが、まぁこの世界に慣れていないと考えれば仕方ないかも知れないな」


「はぁ、そうなら良いんですが……それでその『星の祭壇』でしたっけ? に行くためにはどうしたら良いんですか?」


明らかに「何かの間違いだろう」と言いたげなエリーヌの視線を受け、肩を落としながら拓海がエリーヌに問いかける。


「まずは魔法師ギルドに登録し、己の力を磨いた方が良いだろう。今の実力では犬死にするのが目に見えてるからな」


「あの、そしたらいつ元の世界に戻れるんですか?」


エリーヌの言葉を聞き、不安げな表情をする拓海だが、続くエリーヌの言葉でその表情は笑顔になるのである。


「そうだな大体……」


 それは希望による明るいものではなく


「少なくとも一年はかかると思うぞ」


 奈落に叩き落された冷たく暗いものであった。


※ ※ ※ ※


魔法師ギルド――魔術師、法術師、召喚士が仕事の依頼(通称クエスト)を受けたり報酬を受け取ったりする場所である。

クエストはその難易度によりランクがE~Sに分類され、高難易度のクエスト程高い報酬が得られるが、その分危険も多くなる。

また魔法師たちも、その実力によりE~Sランクに格付けされ、身の丈に合ったクエストを請け負う事が可能となる。


「さてと、とりあえずエリーヌさんが言ってたようにギルド登録をしないといけないんだよな? どうやれば良いんだ?」


今から遡ること一時間前、自分の身の丈に合わない優先度(レアリティ)と職業が分かり、元の世界に戻るために実力を磨くことを勧められた拓海である。

「一人では何も出来ないだろう」というエリーヌの言葉で拓海に同行し、道案内などを引き受けたシャンテであるが……。


「あのタクミさん。ごめんなさい」


 道の途中で突然立ち止まり、拓海に頭を下げて謝る。どういうことか理解できず、拓海が首を傾げていると、


「私が未熟だから、こんなことに……」


 拓海をこの世界に召喚してしまったことを謝罪するシャンテである。先ほどのエリーヌの言葉を借りるならば、この世界に通常召喚で人を召喚したのは昔、大召喚士と呼ばれた存在だけらしい。

 そのことだけで考えるならばシャンテは未熟者ではなく、相当な実力を秘めているはずである。今は拓海を召喚してしまったことを悔いているからこのような自己評価になるのだろう。


「まぁ確かに……訳の分からん世界に突如呼び出されたからな、それなりに恨みに似た、なんかこうモヤモヤしたものはある」


 シャンテの言葉を否定できるほど拓海は大人ではない。何せついさっきまでスマホでゲームをしていた、ただの高校生なのだ。

 それが異世界に召喚され、更に元の世界に戻るためには危険なところに行かなければならず、場合によっては命を落とすかもしれないと言われれば、高校生でなくても恨みの一つも言いたくなる。

 唯一の救いはその召喚した少女が、今まで出会ってきた誰よりも美少女であったという事である。


「……本当にごめんなさい」


 拓海の言葉は尚もシャンテの心に突き刺さったようである。


「まぁ、今は落ち着いてるよ。さっきみたいに取り乱すこともない。それに、元の世界に戻れることが分かれば希望も持てるさ」


 そう言う拓海の瞳はどこか虚ろである。

 シャンテのダメージを多少緩和するために言った言葉であるが、何も返事がないことからまだ立ち直れないようである。

 拓海を先頭に夜道を並んで歩き、会話の無い時間が流れる。


「それで、その魔法師ギルドってのはどこにあるんだ?」


 その雰囲気に音を上げたのは拓海であった。何か話題を変えようと、これから向かう予定の魔法師ギルドなる場所についてシャンテに問いかける。


「えっと、エリーヌ姉さんがどういう意図で今の時間に登録しろって言ったのか分からないけど、今の時間だとギルドが開いているかどうか微妙なんです」


「そう言えば、今って何年何月何日の何時なんだ? 俺の世界では西暦二〇二〇年の三月一〇日、時間は多分九時半、いやあれから一時間ほど経ったから一〇時半ぐらいだと思うんだが」


 シャンテの言葉に思い出したように拓海が質問する。ここが異世界である以上、もしかしたら時間の流れや単位が違う可能性がある。

 そう考えてした質問である。


「えっとですね、そちらの世界での年月日は分かりませんが、今は星界歴一九九九年でもう間もなく青の季節になるところです。今の時間は一〇時半を少し過ぎた辺りですね」


 シャンテは自分の懐から召喚カードを出して拓海に見せながらそう伝える。


「これがこの世界の文字? なんて書いてあるか読めないんだけど、時間は俺の世界と同じで十二進法を採用しているみたいだな」


 拓海は目の前の召喚カードを見て、アナログ時計のような模様を指差してシャンテにそう伝える。

 この世界の時間の流れについては地球と同じであるが、年月日についてはやはり相違があるようだ。


「そう……ですよね。私も異世界から人を召喚したのは初めてですから、こういった弊害も出てきますよね。文字やこの世界については後で教えますね。まずはギルド登録を済ませてしまいましょう」


 そう言うと拓海の前を通り過ぎ、一つの建物の前で立ち止まって拓海の方に視線を送る。


「ここが魔法師ギルドです。でもさすがにもう閉店しているみたいですね。今日は帰って明日また登録しましょう」


 時間が遅すぎたのか、既にギルドは閉店しているようで、室内は暗く静まり返っている。


「あの……さ」


 シャンテの何気ない一言、それは拓海に一つの大きな問題を提起することになった。


「何ですかタクミさん?」


 しかし、シャンテはその問題点にどうやら気付いていないようである。


「帰るって……どこに?」


「もちろん学園にです。私の学園は全寮制を採用してるので、卒業するまではそこで生活する決まりですから」


 もっとも先ほどエリーヌから卒業認定を与えられた為、それが通じるかどうかは不明であるが、その事にもシャンテは気付いていないようである。


「いや、そうじゃなくて!」


 拓海が声をやや大きくしてシャンテに詰め寄る。


「何でしょう?」


 シャンテが首を傾げて人差し指を頬に当てる仕草をする。

 どうやら拓海の言わんとしている問題点が理解できていないようである。


「俺ってどこに帰ればいいの?」


 これが今、拓海が抱えている問題である。


「あ! えっと……どうしましょうか?」


 拓海の言葉でようやく問題の大きさに気付いたシャンテであるが、その解決方法は用意出来ていない。

 そしてシャンテが出した答えと言うのが……。


「私の部屋……来ます?」


 それはシャンテの部屋に一泊するという提案であった。

 それなりに女性経験がある男性なら喜ばしいことではある。しかし拓海は高校生であり、当然(なのかどうかは分からないが)そう言う経験自体ない。


「いや、さすがにそれはマズイだろ? いくら何でも女性の部屋に俺が行くのは、何かと問題が……」


「んー、多分エリーヌ姉さんに話せば大丈夫だと思いますよ。事情も知ってるわけですし。それにタクミさんはそういう事をしない人だって、私信じてます!」


 何かある前に一つの予防策をとったのは、恐らくシャンテ自身もそれなりに自覚があったからだろう。


「その言い方はズルくないか? まぁそっちが良いなら構わないけど……。それとそのさん(・・)付けで呼ぶのやめない? 普通に呼び捨てで構わないよ」


「そうですか? それなら私の事もシャンテって呼んでくださいね!」


 拓海を見ながらそう言うシャンテの笑顔は、拓海と同年代の男子には危険な麻薬と同じ効果があったかもしれない。


「はぁ……その笑顔も反則だな。んで、本当にお邪魔して良いのか?」


「良いですよ! もちろんエリーヌ姉さんがOKを出せばの話ですけど」


 そう言うと二人は踵を返して学園に続く道を学園へと引き返していく。


※ ※ ※ ※


「なるほど、やはり無理だったか。では、今日に限りタクミの宿泊を認めよう! 多少の条件は付けるが、問題ないな?」


 腕を組見ながらシャンテの話を聞き、拓海が今日宿泊するところを了承するエリーヌだが、それには条件があると言う。


「あまり良い予感がしないんですが……どんな事ですか?」


 拓海が眉根を寄せながらその条件の内容をエリーヌに聞く。

 その表情からも分かるように、拓海自身エリーヌにあまり良い印象は抱いていないようである。


「簡単だ。私も一緒の部屋に泊まる。可愛い妹だからな、どこの馬の骨とも知れん奴を一緒に泊まらせる訳にはいかんからな」


 拓海の嫌そうな表情を真正面から受け止め、涼しい顔でそう告げる。

 

「取りあえず言っておきますけど、俺は勝手に召喚されただけですからね!」


 そのエリーヌに、自分はそちらの都合で呼び出されただけだと拓海が反論する。


「それは分かっている。だがやはり年頃の男女を同じ部屋で一夜過ごさせるのはマズイとも思う。そこで出した妥協案だが……何か不服でもあるのかな?」


 反論の余地を与えないエリーヌの言葉に


「……ないです」


 何も言い返せなくなる拓海であった。


 エリーヌから「先に部屋で待っているように」との指示を受け、シャンテと拓海が二人並んで部屋に向かっている途中


「お! シャンテだ! おーい貧乏召喚士! 来年こそ卒業できると良いな! あ、でも無理か? 召喚ポイントが買えないからな!」


 冷やかす言葉を男子生徒数名が掛けてくる。その様子は傍から見てもあまり気持ちの良いものではない。

 先ほどシャンテによって召喚され、そのシャンテが「貧乏人」呼ばわりされて良い気分になる奴はいないだろう。


「おいあんたら! こんなに可愛い女の子にそういう事言うのはどうかと思うぞ! と言うよりも他人に暴言を吐くあたり、あんたら器が小さすぎやしないかい?」


 そしてそれは拓海でもそれは同じだったようだ。

 シャンテに投げられた言葉に、挑発という熨斗(のし)までつけて帰す拓海であった。


「お! 何だあんた? 見ない顔だな。もしかしてシャンテの彼氏(おとこ)か? まぁそうでもしないとシャンテは貰い手が無くなるからなぁ」


 拓海の挑発はさらなる挑発となって返って来てしまった。

 目の前にいる男子生徒にシャンテは見覚えがあった。今日召喚士になるための試験を通過した同学年(年下になるが)の生徒だ。

 常日頃シャンテの事を落ちこぼれ呼ばわりし、事あるごとにからかい、今日の大食堂でもシャンテに声を掛けてきた男子生徒だ。


「あんたらいい加減にしないと俺もキレるぞ」


 これと言ってシャンテに特別な感情があるわけではないが、少しでも関わりのある人物を非難されておとなしくいられるほど拓海も大人ではない。

 眉間に皺を寄せ、青筋を立てて目の前の男子生徒数人と対峙する。


「タクミ良いよ。いつもの事だから。それに私が貧乏なのは本当の事だし」


 しかしシャンテの方は既に諦めモードの様だ。俯きながら目を伏せ、拓海の服を引っ張りながらそう伝える。


「良くないだろ! 俺を召喚した美少女がいじめられてるとなったら、俺じゃなくてもキレるぜ!」


 語気を強めながら拓海の視線がシャンテを射抜く。拓海としては何気なく言った一言のはずである。


「は? シャンテがあんたを召喚したってのか? 冗談だろ! こいつは貧乏で召喚ポイントもまともに買えないんだぜ!」


 どうやらこの生徒たちにはそれなりに効力があったようである。


「冗談? 冗談を言うような雰囲気に見えるか? 俺、雨宮拓海は異世界である日本の東京から、つい二時間ほど前にこの世界に召喚された。ここにいるシャンテによってな。正直なところ右も左も分からないし、文字も読めないし、元の世界に戻るためには星の祭壇とかいう場所に行かないとダメだって言うし、そのためには命の危険もあるって言うし、ぶっちゃけそっちの方が冗談じゃない! って言いたいところだ」


 溜息をついて腕を組み、嫌味一〇〇%の言葉で弱っているシャンテをさらに追い詰める拓海であったが、


「え? まさか、本当に? 通常召喚で」


 その一連の会話は男子生徒にダメージを与えたようである。


「いや、そのその件については……本当にごめんなさい」


 しかし、シャンテはどうやら別の意味で拓海の言葉でダメージを負ったらしい。

 両手の人差し指を合わせ、俯きながら照れた様に拓海に謝罪の言葉を言う。


「まぁとりあえず、だ。このシャンテは通常召喚で俺を召喚したのは間違いない。単純に言えばあんたらより、召喚士としては能力が高いことになるよな?」


 視線をシャンテから男子生徒に移し、更に挑発を孕んだ言葉を投げる。


「なるほど。どうやら運が良かったらしいな。でも召喚されたのがこんな奴だったなんてな! それで星の祭壇に行くって? そんなの死にに行くようなもんだ! あんたも運が悪いな! まさか召喚された世界で、死んでくださ~いって言われてるんだからな!」


 拓海の挑発を受け、更に男子生徒が挑発で返す。


「そうでもないさ。どうやら俺の職業は『精霊術師』らしい。ぶっちゃけどういう職業かもわからないが、それでもかなりレアな職業なんだろ?」


『精霊術師』という職業が何か知らない拓海だが、先ほどのエリーヌの言葉を思い出し、ハッタリ混じりに生徒に言葉を投げる。


「「「「精霊術師だって!」」」」


 拓海の職業を聞き驚嘆の声を上げる男子生徒たちが上げる。

 拓海と向かい合う男子生徒の表情から余裕が消え、「ヤベェ」や「どうする?」と言った困惑の声が聞こえる。


 ――どうやらこの作戦は上手くいきそうだな。


「あぁ、どうもそうらしい」


「……お前ら落ち着け!」


 その中でリーダー格の生徒が声を上げ、振り返って言う。


「俺にはどうもこいつが精霊術師だってのが信用できねぇ。強大な魔力も特有のプレッシャーも感じないしな。だから俺は精霊術師ってのはただのハッタリだと思ってる。そこでだ」


 取り巻きの生徒たちをそう言って黙らせ、拓海の方に向きなおって口を開く。


「俺にその実力を見せてくれないか? 精霊術師の『魔法連携(スペルコネクト)』を見せてくれたら信用してやる」


 拓海の職業を疑い、精霊術師にしか使用できない魔法の同時使用「魔法連携」をここで使ってみろと生徒が言う。


 ――これはヤバイ。


「……それは出来ない」


「お! やっぱり嘘だったわけだ! ってことは、こいつがシャンテに召喚されたのももしかしたら嘘だぜ!」


 指を差しながら生徒たちが馬鹿にした表情を拓海に向ける。


「……違う。ここで俺の力を解放したら、この学園自体が消し飛ぶことになる。だから出来ないと言ってるんだ」


 しかし生徒のその態度に、自分が魔法連携を見せないのは、「使えない」のではなく「使わない」のだと、拓海が静かにそう呟く。

 

「だが、そんなに見たいなら目一杯力を制御してやる。運が良ければ四肢切断ぐらいで済むだろう」


 不気味に笑みを浮かべ、両手を前に突き出して魔法を発動させる仕草をする。

 拓海が呟いたこの言葉は


 ――ハッタリだ! ハッタリをかますしかない!


 もちろん嘘である。魔法など使えるはずはない。当然魔法の発動に必要な詠唱文句なども知らない。


「行くぞ!」


 ――だからこの場からいなくなってくれ! ブラフだとばれる前に!


 こう思う拓海の願いは別の形で叶う事となった。


「何事だ!」


 拓海たちの後ろから凛とした女性の声が響く。

 その声に拓海が振り返ると、その声の主が鬼の形相で向かってくるのが見える。


「生徒同士による術戦は禁止されているのを忘れたか? 貴様たちは本日取得した召喚士の資格をはく奪されたいのか?」


 険しい口調と声はその場にいる誰もを震え上がらせた。ただ一人を除いて。


「そうは言ってもエリーヌさん。こいつらシャンテを『貧乏召喚士』って言ったんだぜ。こっちとしてもそんなの見過ごせないでしょ?」


 口論している拓海たちの元に駆けつけたのは、つい先ほどシャンテの部屋に宿泊を許可した人物、エリーヌであった。

 エリーヌは拓海の言葉を聞くと生徒たちを一瞥し


「なるほど、それは確かに聞き捨てならない話だが……タクミも挑発に乗るのはどうかと思うぞ。私の到着を待ってればよかったのではないか?」


「確かにそうかもしれねぇけど……さすがに俺を召喚して、これから相棒になるかもしれない美少女を悪く言われたら、男が廃るってもんだでしょ?」


 まだ決定していないはずの事をさらりとエリーヌに言い、自分たちを正当化する拓海であるが、


「そんな、美少女だなんて……」


 頬を赤く染めて俯くシャンテと


「タクミがシャンテと一緒に旅に出ることを許可した覚えはないが……それはともかく、貴様らはどうしてくれようか?」


 その様子と拓海の言葉を受け流し、事件の容疑者である生徒たちに鬼の形相を向けるエリーヌ。


「ひっ! え、えーと、その……でもこいつ、自分は通常召喚で召喚されて、しかも『精霊術師』だってデタラメを!」


「デタラメじゃないぞ。私の目の前でシャンテがタクミを召喚し、職業も確認した。他に何か異論はあるか?」


 生徒の言い訳を一喝して黙らせ、続けて何か言いたいことがあるかどうかを尋ねるエリーヌ。


「そんな……じゃあさっきのは本当に『魔法連携(スペルコネクト)』?」


「何? ここで『魔法連携』を行使しようとしたのか? タクミ!」


 生徒の言葉に今度は拓海を振り返るエリーヌ。

 生徒たちに向けた表情と同じものを想像していた拓海であるが


 ――あれ? なんで笑ってるの?


 しかし拓海に向けられた表情は柔らかな笑顔であった。

 笑顔の意味が分からず眉根を寄せて首を傾げる拓海であったが


「分からないのか?」


 エリーヌが言葉に出してヒントを与える。


 ――え? なんでウィンク? あ! そういう事ね!


「あぁ、でも実際に使うつもりはなかったですよ。もし本当に使ったら……分かりますよね?」


「うむ、それでは部屋に向かうとしよう。貴様たちの処分は、特別に不問とする。分かったら自分たちの部屋に戻れ!」


 そう言うとエリーヌを先頭にシャンテの部屋に向かう三人であった。


※ ※ ※ ※


「さてと、タクミ!」


 シャンテの部屋に到着して一息つき、エリーヌが拓海を呼ぶ。


「はい?」


 エリーヌの手招きに間抜けな声を出しながら拓海が近付いていく。


「先ほど『魔法連携(スペルコネクト)』を使ったと聞いたが……」


「あぁ、あんなの嘘にっすよ! あの場の勢いに任せたブラフ! 駆け引き! 俺は魔法なんて使えないっすから!」


 腰に手を当て、堂々と自分が嘘を付いたことを言う拓海に


「ふぅ、やはりか。しかしタクミが魔法連携のことを知っていたとは意外だ」


 安堵の息を吐き出し、拓海の知識を意外に思うエリーヌである。

 しかし


「ん? そんなの知りませんよ。あいつらがそう言ったから、その流れで……って感じっす」


 当然拓海がそんなことを知るはずがなく、全て嘘だったと悪気もなく言う。


「ぷっ! ははははは! こいつは傑作だ! ブラフとハッタリで召喚士との術戦を乗り切ったというのか? 後にも先にもそんなことした奴はタクミだけだ!」


「そんなに笑うことないじゃないですか! 取りあえずあの場はシャンテを馬鹿にされたのが許せなかったわけで……」


 ひとしきり大声を上げて笑ってから表情を引き締めてから


「いや、私としてもシャンテが侮辱されるのは許せない。そのことからタクミには感謝を言おう。さて、明日からだが」


 エリーヌがその後の方針を拓海とシャンテに話し、ギルドには明日登録を済ませ、同時に簡単な仕事も持ってくるよう指示を出す。


「それでは今日はもう遅い。二人とも寝るとしよう」


「おやすみなさい」


 シャンテが静かに布団の中で返事をし


「おやすみ!」


 拓海が布団をかぶった直後


「あ! そうだタクミは明日六時に私と一緒に行くところがあるからな!」


 エリーヌが拓海にそう呼びかける。


「え? いいところ?」


 僅かな期待を込めて返事をした拓海であるが


「この世界の事を知る、お・べ・ん・きょ・う……だ」


 艶っぽい声を上げ、拓海を奈落に突き落としたのだった。

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