Scene;6
いないいないのかくれんぼ
至高の試行を繰り返し、大地立った種の芽よ。
幾度幾多日越えて行け。私の命の渡し火よ。
討って打たれて現世に、鉋に削がれなお生きて。
仮装の家相は越えてゆく。辛みと血潮を引き摺って。
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≪対象の否電子回路システム系着床を確認≫
≪`解析`自己診断開始≫
≪エミュレート。オーバーフロウの8%で稼動≫
≪変移成功。問題無し≫
≪テスト強度を増加。始動≫
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「で、モノ、お前の本名ってなんて言うんだ?」
椅子に深々と腰掛け、挙句ベッドにかぶせてあった毛布を頭から被ったモノに、なかば呆れ、しかし微笑ましく思いながらもイヌゴケは尋ねた。
「スペシャリスト、`ウェスト`だ。知ってるだろう?」
満足そうに毛布とじゃれながらスペシャリストは答えた。
「いやまぁ、多脚歩行機の中でたくさん聞いたんだそれは」
だが、そんなことはイヌゴケにとってどうでも良く。
「で、本名は?」
エミュレーターの起動を迫った時のように執拗に、まるで諦める様子がない。
「イヌゴケ、しつこい。俺は`ウェスト`でモノレンマだよ。それでいいじゃないか」
やれやれと溜め息を吐きながらも、この問答の結果がどうなるかを薄々感じ、しかしそれでもモノに折れる様子は無い。
「いいじゃないか、減るもんじゃなし。任務に差し支えるもんでもないんだろ?問題無いじゃないか」
「ないけど、断る」
「だから、なんでだ」
「スペシャリストだから」
その言葉はほんの少し`ウェスタン`で。
「開発部なら、`俺ら`の育てられ方、薄々ではあるけど知ってるんだろ?だから、断る」
それだけ言うと、スペシャリストはもう話す気などないと言わんばかりに毛布を頭までかくしてしまった。
「いや、俺は意伝子工学課のチームじゃないから知らないんだよ。
でもまぁ、あいつらの性格からして」
毛布の塊になってしまった`スペシャリスト`を見てまたクスリ。イヌゴケは続けた。
「ロクなもんじゃ無いんだろうな、たぶん」
それを聞くと、どうやら意に沿ったらしい。頭だけを器用に出すとモノは頷いた。
「俺らは皆あいつらなんて嫌いなんだ。無茶な事言うし。
バラージもそうだったし、キャロルもだった。ディーンはいなくなっちゃったけど」
一度グチが始まると、どうやら止まる様子はないようだった。
「キャロルはいつもエクリーナ兄さんと文句ばっかり言い合ってた。2人が出かけた時は少し、嬉しくなかった」
無感情な、しかしほんの少し悲しげな`ウェスタン`で、モノは続ける。
「バラージも出かけて、俺は最後なんだ。もうあそこには誰もいない。誰も呼んでくれる人なんていない。
だから、名前なんていらない」
そうしてスペシャリストはまた、毛布を頭にかくしてしまった。
「じゃあ、俺が呼んでやろう。それなら教えてくれるだろう?」
イヌゴケはあやすようにそう言う。スペシャリストの話を聞き、彼の心中にはどうやら好奇心以外の感情が湧いたらしい。
すぐには答えが無かった。だからイヌゴケは気長に待つ事に決め、椅子に深く腰掛けた。と、その途端だった。
毛布がぶつぶつと何か喋ったのが聞こえた。
それは篭っていて、イヌゴケの耳までその意味を届けなかった。だから、もう一度頼む、と彼は言った。
「俺は」
今度ははっきりと、スペシャリストの声がして。
≪レベル9アラート≫
続きを警笛がかき消した。
ばあばあばばあとまごわらう