第四十六話 祝福の歌
予想だにしなかった再会の後、漏れ出す殺気にあてられたのかレグルスが泣き出し、アシュベルとアリシアはハッと我に返った。また明日にでも話そうと、アリシアの家を後にしたアシュベルは、ルーシィと手を繋いだまま、ぼんやりと歩いていた。鼻を啜る音にふと隣を見れば、ルーシィはポロポロと涙を流していた。
「ごめんな、ルーシィ…」
「良いの…アリシア様、酷い目にあって可哀想…でも…生きてて良かったね…」
「一体何が起こってるのか分かんねぇよ…正直、混乱してる」
「ねぇ、旦那…あたし、大丈夫だからね。旦那がアリシア様を選んでも、あたし…」
「俺がアリシアを選ぶことなんか、ねぇよ」
ルーシィには散々心情を吐き出してきた。出会いからして、アリシアが結婚したことに自棄を起こしたのがきっかけだ。いかにアリシアのことが好きだったか、本人には言えなかったことを全部知っている。アリシアが生きていたことを知った今、ルーシィがそう言い出すのは無理からぬことだった。そしてそれは、アシュベルが恐れていたことだった。だからこそ、アリシアと二人で話すことはしなかったのだ。何を話すのか、全部聞かせたかった。
「俺を客みたいに、呼ぶなよ」
「ごめんなさい…」
「言っただろ。アリシアは親友だけど、三番目だって。あいつには好きな奴がいるし、俺の一番はルーシィだよ。好きなんだ。信じてくれ」
「…うん」
「親友を物みたいに扱われて、そりゃ怒るだろ。死んだことにするなんて、尋常じゃない。そんなこと考えないだろ、普通は」
剣技の試験で主席を勝ち取り、アシュベルはアリシアに剣を捧げた。だが、その剣は主を亡くしたまま時が過ぎ、新たな主をルーシィにと考えていた。こうなったからには、ヴィンセントとリヒトとやらに会い、真相を糺さねば剣を鞘に納められない。
アシュベルはルーシィの手を引き、神殿へと向かった。神殿では、丁度神徒達が音楽を奏でるような祈りを捧げているところだった。
二人並んで、一番後ろの席に座る。美しい祈りの声を二人で聞きながら、アシュベルは先程露店で買った指輪を手に取った。
「ルーシィ、好きだ。俺と結婚して欲しい。俺の妻になって下さい」
真っ直ぐにルーシィを見つめると、ルーシィは両の目から涙を溢れさせて俯いた。
「なぁ、返事は?」
傷だらけの大きな手で頬を包み、上を向かせる。指で涙を拭った。
「…でもやっぱり、ちゃんとした貴族のご令嬢の方が…」
「まだそんなこと言うの?」
アシュベルは、そんなことは聞きたくないと言わんばかりにルーシィに口付けた。
「お前が躊躇するのも分かるよ。身分とか、貴族だ平民だって考えてしまうのも…貴族社会は面倒なことも多いし、俺だって社交は苦手だから夜会にも出たことないしな。でも…そんなこと抜きにして、俺はルーシィが良いんだ。俺を…選んでくれないか」
ルーシィはアシュベルの手を握り、一度目を瞑ってゆっくりと開いた。
「あたしをあなたの妻にして下さい。あたしの夫になって下さい」
小さな声で、だがはっきりと言葉にしてくれたルーシィを抱き締め口付ける。指輪を薬指にはめ、その指にキスをした。同じように、ルーシィもアシュベルの薬指に指輪をはめてキスをしてくれた。
二人見つめ合って笑顔になる。まるで夫婦神が祝福してくれているような、神徒達の美しい歌声が響いていた。




