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悪役令嬢に転生した魔王信長、婚約破棄されたのでアイドル聖女を焼き払ったら、最強男たちに溺愛されました。  作者: おおたまらん


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第27話:トップアイドルのプライド

 第一王子アルフレッドたちが、辺境の黄金都市『安土』へと向かっていた頃。


 かつてノエルを追放した王都は、ここ最近でまた少しばかり姿を変えていました。


 エマへの過剰な献金で国家予算が底を突き、一時は道端にゴミが散乱するほど荒れ果てていましたが、王国公認商会『ヒュデの質屋』から流通する「魔道具」により、ようやく回復の兆しを見せていたのです。


 それほどまでに、ノエルの作った魔道具は画期的でした。莫大な税収で国庫を救うだけでなく、魔法が使えない平民から特権階級の貴族に至るまで、すべての者の生活を劇的に豊かにし、この国の古い常識に確かな「革命」を起こそうとしていたのです。


 しかし、そんな輝かしい変化とは裏腹に、王宮の奥深くでは――静かな、しかし確かな「亀裂」が走り始めていました。


「国王様ぁ……お願いですぅ。あの『魔道具』とかいう気味が悪い道具、王都で売るのを今すぐ禁止してください!」


 エマは瞳に大粒の涙を浮かべ、豪華なソファに腰掛ける国王の膝にすがりつきました。


「あんなの、ただの便利な道具じゃありません! 世界の秩序を壊す『魔女の呪い』です! 魔法も使えない平民がズルをして、貴族の真似事をしているだけなんですよ!?」


 彼女の放つ「魅了」の魔法と、計算し尽くされたか弱い仕草に、国王はだらしなく頬を緩ませます。デレデレとした顔でエマの艶やかな髪を撫でながら、国王は重々しく口を開きました。


「おお、可哀想なエマよ。そなたが不安に思うのも無理はない。実際、王宮の貴族たち――特に頭の固い『保守派』の連中も、連日のように余の元へ猛反発の声を上げてきておる」


 国王は一度言葉を切り、少しだけ太い眉をひそめました。


「奴らに言わせれば、あの魔道具は『魔女の呪い』などというオカルトではない。純粋に『貴族の特権である魔導の力を、身分卑しき平民に与えるなど言語道断である』と、プライドを逆撫でされて激怒しておるのだ。伝統を重んじる彼らにとっては、平民が魔法の真似事をするなど許しがたい暴挙なのだよ」


「だったら! 今すぐ安土を討伐して、魔道具を禁止に――」

「だがな、エマよ」


 身を乗り出したエマの言葉を遮り、国王は為政者として、そして何より「金に目がくらんだ権力者」としての顔をのぞかせました。


「そればかりは、今すぐ聞き届けてやるわけにはゆかぬのだ」

「……え? どうしてですか?」


「うむ。ヒュデルクの質屋――王国公認商会を通じて流通しておる、あの魔道具はな、今やこの王都でもっとも貴重な収入源となっておるのだよ」


 国王はエマから視線を外し、机の上に置かれた分厚い税収の帳簿を、どこか恍惚とした表情で撫でました。


「そなたのライブで使われている『七色の光る杖』をはじめ、平民の生活を激変させる品々から上がる莫大な税。それが、底を突きかけておった我が国庫を、信じられないほどの勢いで潤しておるのだ」


「そ、そんな……」


「保守派の貴族どもが何と喚こうと、国を回すには『金』が要る。何より、あのような優れた技術を辺境の地だけのものにしておくなど、この余が断じて許さぬ!」


 国王はエマに魅了されきっているものの、目の前にぶら下がった莫大な税の収入源を手放すことまではしませんでした。エマへの愛は本物でも、国の財政が破綻しては元も子もないという、彼なりのギリギリの理性が働いていたのです。


 エマは表面上は「……そうですかぁ。国王様がそうおっしゃるなら、あたし、我慢します……」と健気に微笑んでみせました。しかし、執務室を退室し、分厚い扉が閉まった瞬間――彼女の顔は、夜叉のように醜く歪んでいました。


「ふざけないでよ!! なんなのよあのクソジジイ!!」


 自室に戻るなり、エマはテーブルの上にあった高級なティーカップを壁に投げつけました。ガチャン! という派手な音を立てて、美しい陶器が粉々に砕け散ります。


「信じられない! あたしにだけ金を使っていればいいのに!? 冗談じゃないわよ!」


 誰もいない部屋で、エマは頭を掻きむしりながらヒステリックに叫びました。

 彼女がここまで取り乱しているのには、国王には言えない「切実な理由」がありました。それは、彼女自身の『莫大な収入』が、ここ最近で信じられないほど激減していたからです。


「ちょっと前までは、王都の馬鹿な貴族どもや平民たちが、身ぐるみはいでまであたしのブロマイドやペンダントを買い漁っていたのに! 今じゃみんな、『魔道具を買うための貯金が必要だから』って、あたしに金を落とすのを渋り始めてる!」


 エマは、部屋の隅の高級そうな花瓶を蹴飛ばしました。


「あたしの目的は、この世界のすべての人間から神のように崇拝されて、国中の富を独り占めすることなのに! 毎日最高級のドレスを着て、一生チヤホヤされて生きていくはずだったのに!」


 アイドルにとって、ファンの熱狂はそのまま「金」に直結します。前世で国民的トップアイドルとして頂点を極め、金も名誉も思いのままだった彼女にとって、自分の財布の紐が細っていくことは、プライドをズタズタにされるに等しい屈辱でした。


 そして何より、エマの心の中でどす黒く渦巻いていたのは、辺境へ追放したはずの「あの女」への強烈な憎悪でした。


「ノエル……ッ! ノエル・オーディン・ド・アトラス! あんたのせいで、あたしの完璧な計画が台無しじゃない!!」


 ギリギリと親指の爪を噛み、血が滲むほど強く握りしめた拳を震わせながら、エマは血走った目で床を睨みつけました。


「学生時代からなんでもできて、イケメンに囲まれてお高く止まってたあの女! あの卒業式の『献納の儀』で、あたしの『魅了』で操って、騒動起こして悪役に仕立てて、公爵令嬢の座から引きずり下ろして追い出してやったのに!」


 この世界に赤ん坊からではなく、途中から転生してきたエマは、圧倒的な美貌と才能を持つ優秀すぎるライバルと台頭するには、現実世界にいた頃の『アイドルの武器』で対抗するしかなかったのです。


 彼女の計算では、ノエルは辺境の地で誰にも助けられず、惨めに野垂れ死ぬはずでした。

 しかし現実はどうでしょう。ノエルは死ぬどころか、魔道具という新たな技術を生み出し、莫大な富を築き、あまつさえエマのファンたちのお金まで間接的に吸い上げているのです。


「チートすぎるだろ! 大体、あの『安土城』ってどっかで聞いたことある気がするんだけど、もしかしてあの女も転生者だったりするの!?」


 前世である日本で、子役時代から芸能界一筋で活動してきたエマは、歴史の知識にはひどく疎かったのです。「安土」という言葉に微かな引っかかりは覚えたものの、それが誰の城で、何を意味するのかまでは到底行き着きません。


「絶対に許さない。ノエル……あんたが創ったあの『安土』とかいう小賢しい街ごと、この世界から跡形もなく消し去ってやるわ。あたしのファンから巻き上げたお金で、平民どもが豊かな暮らしをしてるなんて……吐き気がする!」


 プレリュード王国の王が税収に目が眩んで動かないのなら、他の手駒を使えばいいだけのことです。

 エマの視線は、部屋に飾られた巨大な大陸地図の、遠く離れた「隣国」へと向けられました。


(ふん、この世界のお堅い貴族なんて、チョロいものよ。あたしは、煌びやかな芸能界の裏で、吐き気がするようなお偉いさんの接待だって笑顔でこなして、星の数ほどいるライバルを蹴散らしてきたんだから。トップアイドルに登り詰めたあたしのプライド、舐めないでよね)

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