四十六
その声の主は、丸い五センチ位のガラス玉の中に、閉じ込められているようだった。
この女性はどうしてここにいるのだろう。イアンはあの後どうしたのだろうか。
『何を話してるかと思ったら、その子犬の話? 貴方達は暇人ね』
「うるさい、お前は話すな」
先輩はその玉をラエルさんに投げ渡し、受け取ったラエルさんは玉に話しかけた。
「ナタリー嬢を操ったのはお前の体の一部か?」
『何の話をしているか分からないわ、それよりそこの女の子を頂戴よ。体から溢れ出てる魔力、美味しそうだわ』
私の体から溢れ出る魔力。
「バカなことを言うな、お前は国に連れ帰って国王陛下に渡す。そこからは出さぬ」
『残念ね。それにしても貴方は………て、………、……だわ』
「そいつの言う事なんか聞くな、ルー」
途中で先輩は私の耳を覆ってしまい、最後まで聞けなかった。
「ナタリーの事を、話す気はないみたいだね」
ラエルさんは、小さな箱のようなものを出して、それをしまい鍵を掛けた。
「兄貴、二、三日位に出て国に戻ろう」
「そうだな、ベルーガの呪いは一時的に収まっているかも知れない。ウルラで休みながら帰ったとしても早くて一週間はかかるか……いや、海を渡ってから国の近くまで転送するか」
ラエルさんは先輩の意見に同意した。先輩は息を吐くと赤い真剣な瞳を私に向けた。
「ルー、お前はどうしたい? ここに残りガリダ食堂で働きながら俺を待っているか。それとも何が起こるか分からないが、一緒に来るか?」
先輩を待つか、先輩と一緒に行くか、私は。
「離れたくない、先輩の側にいたい、一緒に連れて行って欲しい」
「俺と来るんだな。もし、来なくてもルーを離す気はないのだぞ」
そんな事を言って、私の幸せを願うって魔法を使い、先輩は記憶を消してしまうかも知れない。
「嫌よ、絶対について行くんだから、ここに置いて行こうだなんて考えてるのなら。先輩に呪いをかけてやるんだから……先輩は私を連れて行きたくなる、なるの! 先輩、置いて行かないで」
精一杯の脅しを先輩にした。先輩は眉を上げ、頬を真っ赤にして私の腕を掴んだ。
「あの、先輩?」
店の奥、キッチンを超えた先にある部屋の扉を開けて、ベッドの上に投げ込まれた。
そのベッドからはふわり先輩の香りがした。
「あんな所で、煽りやがって!」
覆い被さり、噛み付くようなキスをされた。
「んんっ……やっ、まって」
「待つか! 俺に呪いをかけたのはお前なんだぞ。責任を取れよ」
私を鋭く射抜きローブを脱ぎ捨て、シャツの一番上のボタンを外した。
まさか先輩、ここで。
「なんだよ、俺が魔法だけで何も知らないとでも思ったのか? 残念だったな。ベルーガに捕まり、一緒に教育は受けた事がある」
「え、先輩も?」
王妃教育には夜伽の教育も入っていたし、前世、本を読んで知識だけは一応ある。
「あの教育を受けたのか? まさかあいつと……?」
あいつってカロール殿下⁉︎ 私は思いっきり首を横に振った。
「違うわ。王妃教育の時、教育係の伯爵夫人に習ったの」
「何を、習ったんだ?」
「えっ……それは、その女性からは何もせず、すべて、男性の方に任せなさいって」
読んでいた漫画も未成年だったから、暗転後の朝ちゅんまで。
「はぁ、なんだそれだけ? ……くそっ、焦った。そうか、ルーは俺にすべて任せるんだ」
先輩の手がワンピースのリボンをほどき、ボタンに差し掛かる。
いきなりだけど、先輩とこうなるのは嫌じゃない、覚悟を決めて目をギュッと瞑った。
「ルー?」
「先輩なら、いいよ」
ゴクッと喉を鳴らし、先輩の熱い指が頬を滑り、唇首筋をなぞり下に進む。
「あっ、、んっ……せん、ぱい」
あらぬ声が上がり、ピクンと体が反応する。くすぐったいんじゃなく、触られる所に熱が集まる。
「はぁっ……んっ」
「ルー……はぁ、また邪魔されるのか」
「邪魔? ひゃぁ……先輩」
耳元でこっそり話す。
「王城の偵察を頼んだウルラとガットが戻ったらしい。今部屋の前にいる」
「福ちゃんと黒ちゃんが部屋の前に?」
先輩はコクリと頷いた。
♢
偵察を終えて、奥の部屋に向かう我慢の出来ないガットを止めながら、部屋の前に来てしまった。
シエルの音消しの魔法が施される部屋。
邪魔をしては、まずいと本能的に感じる。
いまにも突入をしそうなガットに、聞こえぬように小声で止めた。
『ガット、邪魔をするのはダメだ』
『邪魔なんてしないっすよ、ルーチェちゃんに会いたい。彼女の近くに行くと気持ちがいいっす』
それを邪魔だと言うのだ。ワレも近付きたいとは思うが、今この部屋の中は見てはならない。シエルの邪魔をすると後が怖い。
『ガット命が欲しかったら、後だ! 後にしたほうがいい』
そんなワレ達の前の扉は開き、乱れたシャツを身につけ、真顔のシエルが顔を出した。
(これは、非常にまずい)
「福ちゃん?」
シエルは怖いが、小娘に呼ばれるとそわそわする。近寄りたくなる。それはワレとシエルがつながっているからか。そうなのだな。
シエルとガットが見合っている間に、ぽふんと小娘の胸におさまった。
「小娘、元気か」
「福ちゃんは?」
「ワレはいつも元気だぞ」
頬に擦り寄り、すりすりした途端に胸から引き剥がされた。シエルだな。
ほんとうに嫉妬深いな、そんなに小娘に触られるのが嫌か。
『俺にはラエルとウルラ、ガットが居ればいい』
と、ここに来る前は、そう言っていたのにな。
「先輩、福ちゃんを返して」
「ダメだ。おい、ガットも近づくな!」
「ちょっとだけっす、ルーチェちゃん、なでなでしてっす」
ズルい、ワレだって甘えたい。
♢
「いい加減にしろ! お前らは説教だ!」
黒ちゃんは首根っこを掴まれ、福ちゃんは強制的に手に乗せ運ばれていく。
「あるじ、助けてっす」
黒ちゃんの声を聞き、キッチンにいたラエルさんが振り向いた。
「あれ、兄貴? ルーチェさんとの話は終わったの? うわっ、ガット、ウルラ……君達は邪魔したの? チャレンジャーだね」
「お前らすごいな。俺には怖くて真似できないよ」
「僕もだよ。兄貴、ルーチェさんお腹すいたから、ある物で食事にしょう」
食卓の上には持ってきたメンチカツ三つと、コロッケ五つ乗っていた。他にくるみパンとサラダ。
「私、メンチカツを食べます」
温められた、メンチカツをお皿に取り食べようとしたけど、横から手が出てきて掴みかじられた。
「あー先輩!」
「これも美味いな、ルーには俺のコロッケ」
先輩のコロッケを食べさせてもらった。ほくほくジャガイモが美味しい。
「俺っちはクッキー!」
「ワレはチョコだ」
みんなで遅い夕飯が始まった。




