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婚約破棄をしたのですから、王子はわたしを探さないで‼︎  作者: にのまえ


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 今朝の目覚めは、いつもの夢を見たのに苦しく、すんなりと目が覚めた。


「なんだか楽しい夢……だった?」


 近くにもふもふが見えて、横を向けば腹天で寝ている子犬ちゃんがいた。

 その子犬ちゃんを起こさないように、ベッドから抜け出して窓を開けた。


「福ちゃん、おはよう」

「ホーホー」


 福ちゃんとの挨拶も終えて、子犬ちゃんの朝食を用意始めた。

 それが終わると、仕込みに行く準備を始める。


「キュン、キュン」

「起きたのおはよう。これを食べて待っててね」


 子犬ちゃんの前にバナナとリンゴの朝食を出した。

 ひと鳴きして食べ始めるのを見てから、着替えを始める。


 その、ものの数分。


「キュン」


 子犬ちゃんのお皿の中は空っぽになり、わたしの近くに寝そべった。

 

「もう食べたの? 用意しちゃうから待っててね」


 着替えが終わりエプロンを持って、子犬ちゃんを抱えて階段を降り裏庭に出ると、女将さんが準備を始めていた。


「おはようございます、女将さん」

「キュンキュン」


「おはようルーチェちゃんと……子犬?」


 準備に加わり、昨日港町から「この子を連れてきてしまった」と説明する。


「あらあら君は港町から来たのかい、可愛いわね」


「キュンキュン」

「よしよし、いい子だ」


 子犬ちゃんは女将さんに撫でられて、大喜びで尻尾を振っていた。


「女将さん、この子の飼い主さんを探したいので、今日は早めに上がらせてください」


 その願いに、女将さんはにっこり微笑んだ。


「あぁいいよ、わかった……そうだ、ルーチェちゃん港町に行くんだろう? ついでに魔法屋に寄って氷を二キロ。明後日に届くように頼んできてくれる?」


「魔法屋さんで氷を二キロですね。はい、わかりました」


 魔法屋さんは港町の路地裏の奥の奥に、ひっそりとお店を構える魔法使いの店。

 

 魔法屋さんで売られている氷は、なんでも魔法で出来ていて、三日は解けないという代物。

 食品を扱う店はみんな魔法屋さんの氷を使っている。

 わたしも気になっていて、いつかは行きたいと思っていたお店だった。


「さぁ話は終わりにしてルーチェちゃんやるよ。今日も大変だよ。生姜のすり下ろしとキャベツの千切りに、きゅうりの薄切り!」


「今日のメインは生姜焼き定食ですね」


 女将さんはにんまり頷く、いつもの生姜焼きのお肉が変わり、厚めの上豚ロースになる。

 そのお肉に絡む生姜ダレ。

 生姜焼きも人気のメニューだ。


「ルーチェちゃん、ちょっと待っててね」


 女将さんは裏口に入っていき、休憩用の椅子を持ってきた。


「君の場所はここね」


 その椅子をわたし達が作業をする真前に置き、そこに子犬ちゃんは大人しく座った。


 わたしと女将さんで大きな樽を二つ用意して、その上にまな板を置き二人並んで作業を始める。


 生姜をすり下ろして、下味用のしぼり汁と生姜ダレ用のすり下ろした。

 付け合わせのきゅうりの薄切りは塩揉みして、あとで水分をしっかり絞る。


「ルーチェちゃん、これが大変だ」


 女将さんがそう言い、用意したのはカゴ一杯のキャベツ。それの千切りだ。

 まず、キャベツを剥がして芯を取り丸めて千切りにする。


 できた千切りは冷水にさらして、ザルで水分をきる。

 その作業中、女将さんが何か思い出したのか手を叩いた。


「そうだルーチェちゃん。ニックがね、前にルーチェちゃんに習った味付けで、卵焼きを焼くって言ってたよ」


「本当ですか!」

「ああ、家でも何度かニックが作って食べさせてくれたんだ、甘めの味付けが美味しいね」


 わたしは微笑んで頷く、甘めの卵焼きはほっこり、温かい気持ちにしてくれる。


「今日の朝食は卵焼きと塩おむすびに、きゅうりの塩もみの朝食が食べたいなぁ」


「あら、いいわね、汁物と焼き魚も欲しくなるね」

「焼き魚、いいですね」


 わたし達の会話に。


「じゃー、お袋とルーチェの朝食はそれでいい? 焼き魚はないけど」


 いつのまにか裏口にいたニック。 


「それでお願いします!」

「ニック、よろしく頼むよ」

「キュ」


「おっ、なんだ? この子犬はぁ?」


 ニックにも子犬ちゃんの説明をした。


「ふーん、ルーチェはちゃんと飼い主を探すんだぞ」

「うん、わかってる」


「じゃー、俺は朝食作りに戻るよ」


 少し経って厨房からニックにできたよと呼ばれて店に入ると、中のテーブルには大皿に塩おむすびが並び、椎茸のお吸い物ときゅうりの塩もみ、生姜焼きが乗っていた。

 子犬ちゃんにも蒸して、一口大に切ったサツマイモが用意してあった。


「いただきます」


 みんなとの楽しい朝食の後は、お店の忙しいお昼の時間がくる。


 サツマイモをペロリと食べた子犬ちゃんは、桶にタオルを引いたベッドで、カウンターの一段高い位置でお昼寝中だ。


「ルーチェ、生姜焼きが上がったぞ」

「はーい」


 これまた人気のある生姜焼き定食。


 今日の注文はこれだけなので、回転が速くなる分、いつもよりもお客さんが増える。

 そのお客さんの中に、黒いローブのあの人が珍しく、奥の席に来ていた。


 今日は来れたんだ、生姜焼き好きなのかな?

 気になり、ついついその人に目がいってしまう。


 あ、卵焼きを食べ後に口元が緩んだわ。


「なにルーチェちゃん。お客さんを見てにやけてんだい」

「女将さん、何もにやけていませんよ」


「ルーチェはご機嫌だな、生姜焼き上がったよ」


 女将さんとニックにからかわれた。

 そして勘違いをした女将さんに「ほら会計に行っておいで」と背中を押される。


「ありがとうございました」

「……今日も美味しかったよ」


 と、帰り際に黒いローブの人が言ってくれた。

 あの人はやはり、どことなく先輩に雰囲気が、似ているような気がした。


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