推理と犯人と百合と
「ふーん、じゃ、やっぱり文芸部を恨んでいる人か、文芸部の中で書きたくない人か、どちらかかしらね」
「文芸部なのに書きたくねぇ奴がいるのか?」
「ならロボット作ればいいのに」
「だから黙っとけって言ってるだろ」
ついにロボット君が縛られて窓の外に放り捨てられる。
「文芸部が本を書くのが嫌な人はいないはず、書いても俺らは関係ねぇからな」
「そうなのよね。わざわざうちみたいな小さい部活に的を絞る必要が感じられないのよ」
みんなが悩む。早くしないとロボット君が帰ってくるぞ。
「あの、少し、いいですか?」
霊感少女が不安そうに手を挙げながら月夜を見る。
「何かしら」
「その手紙、だけ、じゃないみたい、ですよ」
少女のカバンからスマホが浮き出てきて月夜の前でスクロールする。
「掲示板も酷いみたいね」
「これ、も、脅迫状と同じ、犯人だと、思い、ますか?」
たしかに、もしかしたら同じ犯人かもしれない。
でも、掲示板の書き込みと送られてきた手紙は少し違う気もする。
そんな中、扉を開けて時無先生が顔を見せる。
「おい、お前らいつまで残ってるの? 早く帰リなさいよ」
という教師の一言によって解散することとなった。
全員が帰る準備を進めていく。
「水上 瑞乃さん、少し残ってもらえるかしら」
どうやらこの世界の神様は百合展開を望んでいるようだ。
いつもの教室は女子二人(と傍観者一人)を残して静まりかえった。
「さて、少し話をしましょうか」
「私を疑っているのですか?」
心外だとでも言うかのように瑞乃が驚く。
「これはあなたが自分に書かせないようにするための脅迫状でしょ?」
「私が私にってそんなことするわけないじゃないですか」
「もう、お芝居はやめてもらえないかしら」
いつまで経っても認めない瑞乃に痺れをきらし、月夜が大声を出す。
「あなたの書く小説は素晴らしいものよ。私は誇ってもいいと思う」
「何を言って」
「だから」
脅迫状をビリビリに破り捨てる。
あれ? 確か原本だよな。破って大丈夫なのか?
「一度私と書いてみない?」
月夜がその手を瑞乃に差し出す。
だが瑞乃は躊躇するばかりでその手を取る勇気がない。
「そう。でも書きたくなったらいつでも来ていいわよ。待ってるから」
その言葉を聞いて瑞乃は走り出してしまう。
恐らく自分の中でたくさんのモヤモヤが生まれて、自分が何を考えているのか分からなくなったのだ。だが、それもまた経験になる。それを繰り返して成長するのだと知っている。
「それで、なんであなたは残っているの?」
「こんな面白いことがあるのに帰るわけには行かないだろ?」
「そうね、面白い事ね」
少し怒りを含んだ声で言う。実に羨ましい。僕はそんな感情を持ったことがないのだから。
「でも掲示板の方はまだ解決してないわ」
「そっちはまたどうにかなるだろ」
ああ、いい感情だ。僕はそんな感情の振れが好きなんだ。
「あなたは酷い人なのね」
「みんなに同情する気力がないだけだ」
さて、帰って本でも読もうか。