三、紅蘭の舞姫(25)
「とんだお人好しを拾ってきたのね、ジャスティン」
カトレアはやや呆れた面持ちで、ロウを眺めている。
「ふふ、イイ男でしょ?」
「……うげ。男に言われても嬉しくねっつの。
で?ほかに仲間の手がかりはねぇのか?」
なんとはなしに尋ねてみるロウに、カトレアは空を仰ぐ。
「そんな都合よく情報なんてつかまらないわよ。
まあ……シュヴァルツ団長もミンも、そうそう死んだりしないとは思うけど……」
「シュヴァルツ??」
「ああ、ウチの芸団を作った人よ。
お酒ばっかり飲んでたけど、子供たちにはほんとうに優しかったわ。
いまは大陸のあちこちで、ちいさな子供が笑顔を失ってる。そんな子たちがひとときでも笑顔を取り戻せるように――アタシたちは、旅をしているの」
目を細める吟遊詩人。視線はどこか遠くへ向け、静かに、しかし確りとした声で語る。
そ、か――と、ロウはやや微笑んだようだった。
「ほんじゃ、そろそろ行くか!」
彼はひとつ頷くと踵を返し、かしゃんと得物を鳴らす。
「行く……って、何処へ?」
「領主館に決まってんだろ!
この落とし前はキッチリ着けねぇとな!」
訝しげに問いかけるブラック。一方で、
「そうだな。騒ぎに気づいて守りを固められても厄介なことになる。
噂に聞けば、伯爵は横暴の限りを尽くしている。溜まった年貢は納めるのが道理だ」
ラグナは街の中央に聳える屋敷を見据え、表情を険しくした。
「よし、話は纏まったな。
っつーわけで、お前はその姉ちゃん連れて宿屋に戻れ」
ぽん、とロウの手がブラックの肩を叩く。
「なんだって!?そんなわけに――」
「明らかに動きが悪りぃだろーが。
元々、目だって視えてねぇんだ。ドジ踏んで死なれたら困るんだよ」
ぽい、と。
掴んでいた肩を押し返す。
数歩たたらを踏んだ盲目の青年を押しのけ、カトレアが割って入る。
「ちょっと待ちなさいよっ!
なんであたしが宿屋に行かなきゃならないのよ!?あのエロジジイ、一発ぶん殴らなきゃ気が済まないわ!!!」
少女の剣幕に圧され、思わず半歩下がるロウ。
しかし、
「ば、……馬鹿野郎!
戦えもしねぇ女を戦場に連れていけっか!」
「ロウ。言葉を返すようで悪いが、僕は戦える。
宿屋に戻るつもりはないぞ」
「アホか!誰かが見張ってねぇと、この女ぜってーついてくるぞ!
それとも何か?てめーは女を危険な目に遭わせてぇのか!?」
「ちょっと、さっきから女女って……あたしにはカトレアって名前があんのよ!」
「ふ、二人と……いや、三人とも落ち着いてくれ」
喧々囂々と捲くし立てる様子を流石に見かねて、三人の間に割って入るラグナ。
「僕は、ロウさんの意見に賛成だ。
戦場にカトレアさんを連れてはいけないし、何より僕等が不在の間にまた追手が来たらどうする?
彼女を人質にとられる可能性だって、充分にあるんだ」
静かに諭す相手に、ブラックはなおも食い下がる。
「それは……そうですが、」
「それに、本調子じゃないのだろう?あまり無理をしないほうがいい」
「アタシもそう思うわ。このお転婆、どうせ言ってもきかないもの。
お守りがついているなら安心だわ。頼んだわね、ブラックちゃん」
心配そうに顔を覗き込むラグナと、カトレアの頭をぽんぽん撫でるジャスティン。
「――ッ、……判り……ました」
二人の言葉に、渋々ながらもブラックは承諾した。
「カトレア。ちゃんと待ってるのよ、いいわね?」
「……………………」
頬を膨らませ、黙ったままのカトレア。
「……、行きましょ、二人とも」
「あ、ああ……しかし、」
膨れっ面で黙ったままのカトレアを示し、いいのかい?と尋ねる。
ジャスティンは、いいのいいの――と、少女の髪をふわりと撫でて、そのまま歩き出した。
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