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俺はもう、人を殺さない。
俺はその言葉通り組織の依頼があっても、人を殺す気はなかった。だけど、気がつけば組織の依頼を受けている自分がいた。
組織の報復が怖いのか、それとも、俺の本質が殺人鬼なのか、どちらなのかは俺には分からなかった。
ただ、前世のような平凡な人生を送る夢が遠のいていくのを感じた。
「おかえりなさい」
自宅に帰ると、美少女が変わらず出迎えてくる。早く逃げればいいものをまだこうして俺の側にいる。
鎖を外された美少女は最近料理を作り始めた。それならと材料費と称して過分のお金を渡した。美少女が買い物に出かけている内に正気に戻って、帰ってこなくなるようにと。それなのにまだ側にいる。
「今日はチャーハンを作ったの」
美少女の手料理はどれも美味しかったが、俺は一言もうまいとは口にしなかった。
冷たい態度をとれば出ていく。そう楽観視していたが、美少女は俺の側から決して離れなかった。
前世の記憶がよみがえっても、変わらない日常に俺はため息をついた。