ピサルモ捕獲への準備
制限時間十分を設けると、それぞれ基地内に散って、それぞれが考える対ピサルモ用の用具をかき集めにいく。桐生と滋は、穂高のいる開発課の中で使えそうなものを物色するが、何に使うつもりで作られたものなのか首を傾げてしまうものばかり。外見はただのCDケースにしかみえない物も、フタを開ければ、ディスクが回転しながら宙に飛び出して空中に漂い、天井の照明の光を乱反射させて、目が眩む。
「また、何を勝手に使っとるんじゃい」と穂高は鼻で息を吐く。
「何か触るときは一言声をかけたほうがいいぞ。見た目とは違った働きをするものばかりだから」と桐生はガサゴソとダンボールの中を漁りながら背中で言った。
「うん… そうだね」と滋も苦笑いをする。
「おっと、遊んでいると十分間なんてすぐに経ってしまう。時間に遅れると弥生の奴、またうるさいからな。それにしても、使えそうなのはあまりないな」
「何を言う。どれもこれも人知を超えた、芸術的機能を有した傑作ばかりやろうが」
「機能が複雑で突飛だから、使いどころが難しいんだよ。とりあえず、これでいいかな」
桐生は部屋の隅に置かれた「素材」と書かれた段ボール箱の中からタモ網を一本引っ張り出す。
「それは何の機能もついとらん、ただのタモやぞ」
「うん、何もついていないほうがいい。作戦は俺の全力疾走で瞬時に捕獲、これだな。滋、俺はこれでいいから、お前も自分で使いたいものがあったら適当に選んで持ってきなよ。それじゃ俺は先に上がって車の準備をしてくるよ」
タモ網一本を肩に担いで桐生は開発課を一人あとにする。作戦なども、あってない。その身体能力から体力で勝負はわかるが、眠り効果のことも頭にないかのようである。
「お前さんは、ただ捕まえるだけなら結界があるからな。ちなみにお前さんの結界はどれくらい小さいものまではね返すんや?」
「どれくらい小さい、といいますと…?」
「たとえばや、その結果は空気を通してしまうのかとか、そういったことや」
「いやぁ、そこまで考えたことはないです。空気まではね返す… だとしたら球状にした場合は中に空気がたまっている? う~ん、おそらくですが、空気まではね返しているかもしれないです。正確にはわかっていませんが…」
「ほうか。なら、お前さんもタモだけ持って行けばいいのと違うか? 作戦は結界を張りながら近づいて捕獲。どうや?」
「眠ってしまう毛を避けながら、と言うことですよね。でも結局、誠司が真っ先に駆け出してすぐ捕獲で終わってしまいそうな気も、しないでもないんですよね」
「あいつは馬鹿な時は馬鹿やから、自信過剰のせいで眠らされる可能性も高いと思うんやけどな。最終的にはお前さんの結界を頼るやろ」
「そうなるんですかね…」
結局、滋もタモ一本で外に出る。丁度、桐生も車を店の前に着けた。
「弥生は… まだみたいだな。なんだ、お前もタモ網だけか」
「うん… まあ一応、持ってきたっていう程度だけど。追いかけっこじゃ、どうせ誠司には敵わないしね」
そこに弥生も現れる。
「ったく、毎度思うけどその車、いったい、いくらしたのよ?」
開口一番、桐生が運転する組織の経費で買った彼専用の車に文句をつける。細かい値段は知らないが、高いことだけは知っている。車に興味のない弥生にすれば無駄遣いにしか思えない。
「あれ? 弥生さんも網を持ってきたんですね… って、虫取り網…」
「そう、これしかなかったのよ」
別に大きな赤のボストンバックを手にしている。助手席に座ってバッグを膝の上に置いたが、狭く重いようで、すぐに後部座席に乗せる。
「このカバンの中身は何なんですか?」と後部座席に座った滋が聞く。
「秘密よ。開けたら殴るわよ」
「おい、作戦は個々人の判断に任せるってことに決めたから」
桐生はそう言ってシフトレバーに手を添える。
「ふん、どうせそうなるだろうと思っていたわよ。どうぞ、お好きに」
弥生は振り返りもせずに答えた。車が発進するので滋は、
「誠司、場所は聞いているの?」と聞く。
「おお、場所はここから車で二十分くらいのS町の山の中にある公園だ。その近辺らしい。この車で飛ばせば、まあ、五分は短縮できるかな」
続きます