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鬼の猛攻

「クッソがァああああああああああ!!」

「おお、こわこわ」

 絶叫と共に全長三メートルは超える巨大な金棒を振り回してくる世ノ華に対して、微塵の恐怖も抱いていない由堂清はそれら全てを回避しながら軽く笑い声を上げた。

 まるで見下すような笑顔と嘲笑する笑い声。どちらも世ノ華の怒りを爆発させるには十分な材料だった。

 ブチ! と、鬼の攻撃性を縛り付けていた何かが切れた音がする。

 と、同時に。


「舐めてンじゃねェぞクッソ野郎がああアアアアああアアああアアアアアアああああああアアアアああアアああああアアアアアアああアアああああアアアアアアああああアアああ!!!!」


「―――ッ!?」

 彼女の移動速度・攻撃速度が跳ね上がったことに気づいた由堂。

 自分の顔に迫ってくる金棒を確認して回避することは不可能だと判断した彼は、咄嗟に魔術を用いて防御する。ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! と、金棒の突進を抑え止めている巨大な魔法陣だったが―――次第に亀裂がビシビシビシビシビシと走っていった。

 誰が見ても防御しきれないことが分かる鬼の圧倒的な攻撃。由堂はそれに舌打ちを吐き捨てて即座に後ろへ飛び下がった。と、その回避行動をとったタイミングと同時に、防御に回した魔法陣は世ノ華雪花の振り抜いた金棒によって粉々に破壊されてしまった。

 間一髪といえる危ない場面だった。

 対して世ノ華はつばをぺっと地面に吐き捨てて、

「オラ、どうしたどうした祓魔師エクソシストさんよォ? まさか女にビビっちゃってウサギみてぇにピョンピョン後ろに下がったってェ爆笑必至な理由があったりしねェよなァ?」

「おいおい、何だか情報以上に恐ろしい鬼みたいじゃん。つーかまぁ、やっぱ純粋に俺はお前みたいな妖怪相手は難しいんだよね」

 その通りだった。

 先ほどの防御用魔術が世ノ華に破壊された理由は実に単純。由堂清は祓魔師エクソシストという『悪魔退治専門』の仕事をする人間だからだ。もちろん、先ほどから扱っている魔術という力だって悪魔には抜群の効果を発揮するが―――妖怪である鬼に向けられた力ではない。

 よって世ノ華が少しでも力の出力を上げれば、魔術で作られた盾など破壊されて当然だったのだ。

「まじで不利だねーこれ。俺はただ悪魔に憑かれてる夜来初三を殺したいだけなんだけどな」

 と、その瞬間。

 離れた場所で座り込み、壁に背を預けることで一時的に休息を取っているボロボロの鉈内が笑い声を上げた。あまりにもツボに入っていたのか、爆笑してしまった彼は傷の痛みによってようやく一息吐く。

「君さぁ、さっきからやっくんを殺すだの何の言ってるけど、祓魔師一人であの大悪魔サタンとその宿主に勝てると思ってんの? バカなの? アホなの? もう手遅れなレベルで頭いっちゃってんの?」

「挑戦的な若造だな。お兄さん、君みたいな度胸ある子が存在してくれてて嬉しいよ」

「そりゃどーも。でぇ? 本気であの夜来初三っていう化物に勝とうっての? だったら君ってばマジで頭ダメだよ、手遅れなレベルでさ。自殺志願者だってんなら説明つくけどね」

「……まぁ、俺の目的は正確には夜来初三を『殺す』ことで夜来初三を『生き返らせる』みたいなもんなんだよ。だから、はっきりいって夜来初三を殺す気はないが殺すみたいなもんなんだよなぁ、まぁどっち道面倒くさいことにゃ変わらんか」

 怪訝そうな声を上げる鉈内と世ノ華を一瞥して、自己完結をしてしまった由堂清。

 彼はまだ対抗してくる程度の力が残っている鉈内をターゲットにしたようで、獰猛に口を引き裂いて笑い、その右手を獲物に向けて開いた。

「まぁとりあえずお前は気に入らないから死ね」

 まるで今考えついたような気軽さで言い放った。

 右手から巨大な魔法陣が浮かび上がり赤白い閃光が勢いよく放たれる。身動きがとれない状態の鉈内では、何の策も行動に起こすことができない故に、ただ殺されるしか道は残っていなかった。

 しかし。

 ガン!! という轟音が鳴り響いた。まるで屈折するようにカクンと軌道を逸らされてしまった閃光。もちろん軌道を金棒で殴りつけることで逸した張本人は、

「私空気にしてなに口開いてんだよボケ」

 ギロりと鋭利な視線を輝かせる世ノ華雪花だ。

 さらに彼女は握りしめている金棒を夜来初三という存在に手を出そうとしている敵―――つまりクソ野郎に向けて口を開いた。

「オマエは黙って私のエサになってりゃ良いンだよアホ。ただ潰されてただ殺されてただ死体にびっくり仰天大チェンジしてゴートゥー天国してりゃ良いんだよクソ野郎」

 自分を庇ってくれた少女。

 その鬼から発せられる異常な殺気の量と口の悪さを背後から眺めてた鉈内は小さく笑っていた。

「さっすが兄妹。本当、やっくんそっくりだよねーまじ」

 

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