唯神の正体
突然の意味不明な言葉に文字通りキョトンとした表情になるゾンビ達。
七色も清姫も同様の反応を見せている。
しかし『代わり』である彼女は続けて、
「貴様らは『大切な者を守る為』に大量殺人を犯した。これは誰もが同情するような事実だ。しかし―――なぜお前らはその自分達の家族を人質に取った怪しい連中の命令に従ったのだ? なぜ、黙って犬のように従順にテロを起こしたのだ?」
井土は苦い顔をしながら文字を書いていく。
『そんなの、人質を取られているのだから従うしかないじゃないですか。もしも従わなかったら―――』
「まずそこが貴様らが『二流の悪』である確固たる事実の一つだな。では聞こう―――なぜ、その『自分達の家族を人質にしたクソ野郎共を潰そう』とは考えなかったんだ? なぜ、『従う以前に反逆を成功させよう』とは思えなかったんだ?」
その通りである。
彼らが『大切な存在』を守る為に『殺人』を犯したという行為自体は『一流』と評価しても過言ではないかもしれない。あの少年ならばそう評価するかもしれない。
だがしかし。
その『殺人』を犯す『相手』を彼らは間違えてしまったのだ。
彼らにとっては『大切な存在』を守る為ならば、プリンセススター号の乗客員達のことなど関係ないのかもしれない。関係なくても殺すしかなかったのだろう。『大切な存在』を守る為に。
しかし、だ。
それは『プリンセススター号の乗客員達からしても同じ』ではないか。
彼らからしても、『他人の事情によって殺される』だなんて事に納得できるはずがなじゃないか。
関係ないことじゃないか。
だからこそ。
井土実たちが『殺す相手』は自分達の『大切な存在』を苦しめた『黒幕』達なのだ。彼らこそを『殺す』べきだったのだ。
「もちろん、そう簡単に人質を取られている身で反抗できるとは思っていない。しかし、だ。貴様らは『関係がない者達』を殺したんだぞ? 殺すならばその怪しい連中のはずじゃないのか? 実際に反抗するかどうかは関係ない。―――貴様らが『殺す対象者を間違った』ということは事実ではないのか?」
井土実をリーダーとした『プリンセススター号襲撃テロ事件』の犯人達は、全員が後悔するように、懺悔するように歯を食いしばった後、
『事実です』
井土が代表するように文字を書いて―――自分達の犯した『二流の悪』を認めた。
彼らがもしも『黒幕』を『大切な存在』を守りために殺していたのなら『一流の悪』になったかもしれない。もちろん『なったかもしれない』という可能性のみだ。所詮、雪白千蘭はあの少年の『代わり』に過ぎない。だからそこまでの評価は付けることができない。
しかし彼らは『一流の悪』ではないことは確か。
しかし間違えきっていない悪であることも確か。
よって彼らは『二流の悪人』なのである。
清姫は肩をすくめて苦笑し、
「随分とまぁ、初三みたいなこと言うじゃない。ちょっと格好良かったわよ」
「一応、夜来と一緒にいる時間は長いからな」
雪白は自身の長い白髪を片手で払ってそう返答した。
七色夕那も褒め称えるように小さな拍手をして、
「素晴らしかったが、まだ夜来にはなりきれていないのう。あやつならばもう少し口が悪い」
「そ、そこまで私に求めるな。あれで精一杯だったんだから」
と、そこで井土実が地面に指を走らせた。
泣きながら、号泣しながら、自分達が犯した『悪』をこれでもかというくらい後悔しながら、だ。
『ありがとうございました。あなた達と出会えて、私たちは改めて自分達の罪を確認することができた。きちんとお礼を言いたいのですが、あいにくと声が出ないくらいにボロボロになってしまっているので、申し訳ありません』
「―――そうじゃ! まだお主達がなぜ『魂を保管する』この世界にいるのか知らんかったわい」
七色の言葉に井土はすぐさま答えを書き伝える。
『私たちは、大きな鎌で切られてから、ここに飛ばされました。確か、プリンセススター号を襲撃して乗客者達を全員殺したと思って気を抜いていた時に―――生き残っていた少女が歩いてきたと思ったら、鎌を魔法みたいに出して切りつけてきて……それで』
「やはり『魂食い』の被害に遭ったようじゃのう。まて、ということは、あのツインテールの小娘はそのテロのときは既に呪いにかかっていたということか」
『ツインテール? もしかして貴女方もあの子供に?』
「そうよ。いきなり幼女が現れたと思ったら、貴方たちと同じで鎌をグサリってされたのよ」
井土の質問に清姫が若干イラついた声で返した。
おそらく負けたことを未だに根に持っていると見える。
『え? あの、幼女、ですか?』
「ああ、お前らも襲われたのだから知っているだろう? あの亜麻色の髪をツインテールにした子供だ」
雪白が言い放った直後、ゾンビのようになってしまっているテロ実行犯達は井土を含めてざわめき始めた。しかしすぐに井土が静まるようにジェスチャーして落ち着きを取り戻す。
しかし。
ここで予想外すぎる意味不明で理解不能なことを井土実は地面に書き記した。
『あの、私たちを襲ったあの少女は……長い黒髪をした背が高い少女だったんですけど……。貴女方―――一体「何に」に襲われたんですか?』
井土達を『死神の呪い』を宿した悪人が襲ったのは二年前だ。その時点で彼らを襲った少女は『長い黒髪に背が高い』らしい。
では……。
七色達を襲ったあの『亜麻色の髪をした幼女』は一体ー――
『誰』なんだ?
唯神天奈と共に近くのオープンカフェへ入った夜来初三と鉈内翔縁。屋外でのカフェも開放感があって悪くはなかった。
唯神と向かい合うように椅子へ着席した彼らは、適当にコーヒーや紅茶を注文する。唯神もミルクティーを頼んでいたが、さほど興味はなさそうに見える顔だった。
夜来は頬杖を突きながら開口一番、
「ンで、テメェは何者だ? 何であの秋羽伊那とかいうクソガキの事ォ知ってやがる」
本音を言ってしまえば、夜来初三も鉈内翔縁もこの質問のみで唯神天奈の正体が完璧に暴けるとは考えもしていなかった。適当にはぐらかされてしまうか、口を開いてくれないと思っていたため、後々誘導尋問でもしなければならないな……と決心していたのだが。
現実は意外にもイージーだったようだ。
彼女は相変わらずの無表情を崩さずに言い放った。
自分の正体を。
「私は『元死神の呪いの所有者』だからだよ」
笑ってしまうほど納得が可能になる一言だった。
これ以上の質問に意味があるのかどうか疑うほど、完璧な答えで知りたかった事実だった。もう彼女について根掘り葉掘り聞くような行為に得がないと思うくらいに。
「……なるほど、ね。だから『死神の呪い』の力がどういうものか知ってるから、ここ最近の『急死事件』の真相が『死神の呪い』の影響だともわかってた。先代的な立場である君は二代目の『死神の呪い』を宿している秋羽伊那が犯人だとも知ってるわけだ」
「ん。そういうこと」
「だが、なぜ秋羽伊那のことを知ってんだ? 秋羽とテメェは関わりがあるってのか?」
「ある」
唯神天奈は即答した。
と、その直後。注文通りの品を届けに来た店員が来たことにより、話あは一時中断される。唯神はミルクティーを受け取ると、特に美味しいなどの感情を抱くような反応を見せずに黙々とストローを使って飲み続けていく。
「ん。ごちそうさま」
あっという間にミルクティーの全ては彼女の胃袋へ流し込まれてしまった。夜来はその光景を呆れるように眺めながらコーヒーに口を付ける。鉈内は鉈内でオレンジジュースを美味しそうに味わっていた。
カップから口を離した夜来は唯神に向けてもう一度口を開き、
「そんで、テメェと秋羽伊那の繋がりはなんだってんだ?」
唯神は少しだけ目を細めた。
その小さな反応を見せたあとに、彼女は視線を下に下げて、
「『プリンセススター号襲撃テロ事件』の被害者同士、っていう関係だよ」
そう口にした言葉の後に。
唯神天奈は語りだした。
夜来達が知りたがっている全ての事実を。包み隠さず。




