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知り合い発見

「どう、するんだ……?」

「わ、儂に聞くでない! 知らんわ!!」

「同感ね」

 ……結局、逃亡方向からも出現したゾンビの群れによって、四方八方を完全に包囲されてしまった雪白千蘭ゆきしろせんらん七色夕那ななしきゆうな清姫きよひめの三人。

 周りを見渡せば景色なんて埋もれてしまうほどのゾンビ達がうじゃうじゃと存在していて、明らかに逃亡ルートが見当たらないのは事実。

 このままでは、食われる。

 しかし。

 そもそも彼らが本当にゾンビなのか曖昧なのも確かなので、本当に食われてしまうのか、その後は自分達もアンデットの化物に成り果ててしまうのかは分からない。

 なので、もしかたら見た目とは裏腹に良い人達なのかもしれないのだが……捕まらないことに越したことはないだろう。

 人を見た目で判断するなとはよく言われるが、それを皮膚が腐ってたり眼球が足りないような外見の者達には適用したくない。

 見た目がゾンビ。

 それだけで逃亡の理由には十分だった。

「仕方ないわね……戦うしかないみたいだわ」

 と、その逃亡さえも不可能となった状況の中で、清姫が一つの溜め息を吐いた。

 彼女は一歩前に踏み出て、右手を横へ無造作に振るう。

 すると燃え盛る豪炎が撒き散らされてゾンビ共をこんがりと焼き尽くし、灰に変えてしまった―――という結果になるはずだったのだが。

「あ、あれ?」

 彼女の手から炎が飛び出さなかった。

 怪物としての力を扱うことができなかったのだ。

 首をかしげている清姫の背中に、七色夕那が声をかける。

「儂たちは今、魂として存在しているのじゃぞ? そんないつものお主のようにパーっとバーっとファイヤーできるわけないじゃろうが」

「う、うっさいわね! じゃあ、戦えないんじゃ私達はみんな仲良くあれの仲間入りってわけ!?」

 迫ってくるゾンビ共を指差して言い放つ。

 その言葉に反論することができない現実に、七色も雪白も視線を逸らした。

「ちょ、ホントにこれどうするのよ! 私、力出せないなんて知らなかったんだけど! 理不尽なんだけど!!」

「ま、まぁ確かにこれはかなりまずい状況じゃな。儂も戦えないし……」

「さらには逃げ道すら皆無……。遺書さえ私は書いてないぞ」

 顔色が悪くなっている一同。

 しかしゾンビ達は構わずに七色達のもとへ近寄ってくる。

 皮膚が焼けて腐っているような者や、全身血まみれの者、目や腕などの体のパーツが足りない者達は歩行を停止させる気配がなかった。

 ……しかし、ここで七色が妙な反応を見せる。

 彼女は怖がるわけでもなく、気持ち悪がるわけでもなく―――怪訝そうに眉を潜めた。

「どうしたのだ、七色。何か逃亡方法でもひらめいたのか!?」

「いや……ちょっとのう……」

 雪白に適当な返答を返した七色は眉根を寄せてゾンビの一人を凝視する。穴があくほどしばらく見つめ続けて―――ついに何かに気づいたような顔になった。

 ハッとした表情だった七色は、すぐに余裕の笑顔を見せる。

「なるほどのう……! そういうことじゃったか!」

「な、なにがそういうことなの!?」

 ここにきてパニックになってきた清姫を一瞥した七色は―――身の毛もよだつほど恐ろしいゾンビの群れへ一人単独で突っ込んでいった。

 しかも、余裕に歩いて。

「!? 早まるな七色!! ギリギリまで生き続けろ! 夜来も鉈内も悲しむぞ!!」

「そ、そうよ! いくらロリで自分の体がスレンダーだからってゾンビに染まるなんて認めないわ!!」

「おい何か最後儂のこと罵倒したじゃろ!!」

 振り返った七色は激昂した後に、すぐぞばにまで来ていた男のゾンビの目の前まで歩きよって、

「おいお主。もしや―――井土いどみのるではないか?」

 ……なんと、名前を尋ねていた。





 再び裏路地から姿を現した夜来初三と鉈内翔縁。

 今回はちょっと自分達の関係を『お友達』などと評価したバカ共を裏路地でボコボコにしただけだ。故にくだらない道草を食ってしまったも同然。時間を無駄にしてしまった。

「そんで、これからどうしよっかねー? 手がかりは結局ゼロなわけだし」

「……チッ。クソ面倒くせぇ状況だな。どっかのチャラ男が余計な種まいてたせいで俺までバカ共に絡まれちまったしよ」

「あッはは。褒めてもらえて嬉しいよゴミ野郎―――死ね」

「どういたしましてドMクソチャラ男―――テメェが死ね」

 と、そこで夜来は押し黙るように口を閉じた。

 それ以上鉈内を攻撃するわけでもなく、毒を吐くわけでもなく、静寂を作り出していた。

 理由は単純。

 なぜなら―――見知った人物が数人の……またまた不良に絡まれていたからだ。それにしても今日は、とことん不良とご縁のある一日らしい。いい加減飽き飽きしてくる。

「んー? あれあれ? もしかしてあれってやっくんの知ってる人?」

「……ああ」

「へー、ふーん。ほらぁ、だったら助けてきなよ―――僕みたいにさぁ。僕みたいに余計な種でもまいてきなってぇ、ね? ね?」

 ……どうやら、夜来が自分と同じような状況に遭っていることがよほど愉快らしく、鉈内はニヤニヤ顔を十倍増しして向けてきた。

 夜来は大きな舌打ちを忌々しげに吐いて、面倒くさそうに不良達に囲まれている知り合いのもとへ歩いていく。

「おい、こんなところで何やってんだ」

「……あ」

しつこいナンパに困っていた長い黒髪ストレートの少女、唯神天奈ゆいかみあまなは、突如現れた知っている顔に少々驚いた表情を向ける。

「君、なんで……」

「そりゃこっちのセリフだボケ」

 短い会話を行った結果。

 ……唯神天奈は彼の助けに乗りかかることにしたようで、すぱっ! と風を切るような速度で夜来の腕へぎゅっと抱きついた。仕方なく、夜来は不良達にギロりとひと睨みして追い返してやった。 

「おー、やっくんかっこいー。かっこよくてマジ爆笑。ワロス」

「死ねゲスが」

 面倒事が去った後に近寄って来たチャラ男に一言返したあと、夜来は腕に抱きついたままの唯神を見下ろして、

「そんでテメェは何で夜間外出なんてしてんだ。……これ以上面倒事に巻き込むんじゃねぇよクソッタレ……」

 最後の方は顔を背けての愚痴だった。

 唯神は無表情のまま夜来を見上げて、

「助かった。ありがとう。それで―――面倒事ってなに?」

「聞こえてたのか」

「失礼だな。聞こえてしまった、だよ」

 デジャブを感じる会話だった。

 しかしそれにしても、彼女は耳が良すぎるのではないだろうか。ちょっとした小声さえも聞き逃されないと、夜来としても少々反応に困ってしまう。

 なので適当に言葉を並べ立てた。

「……知り合いが意識なくなってんだよ。ほら、ここら辺で最近あンだろ? 『急死事件』ってやつ。それかもしんねぇから、面倒なんだよ。だからここでテメェとはお別れだ」

 彼女の抱擁が続行されたままの腕。それを振りほどいて踵を返そうとした、その瞬間。



秋羽伊那あきばねいな、かな?」


 

「「―――ッ!?」」

 息を飲んだ夜来と鉈内。

 彼らは立ち去るわけにはいかなくなってしまった。なぜ唯神天奈が秋羽伊那の名前を出したのか、その謎が解けない限り立ち去れなくなってしまった。

 驚愕した。

 いや、現在進行形で驚愕している夜来。

 彼は口をゆっくりと唯神に向けて開いて、

「……ちっと、付き合え。そこのカフェでいいだろ」

「わかった」


  


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