学園長の呼び出しと、深淵の特務指令
旧図書室が四極の美少女たちの放つ魔力によって完全な物理的崩壊を迎える、まさにその5秒前。
『――ピンポンパンポーン。えー、Aランクのハヤト、シルフィ、アクア、テラ、ノクスの5名。至急、学園長室まで来なさい。繰り返す――』
空間に直接響き渡る学園内放送の魔法が、絶体絶命のハヤトを救った。
「あ、危なかった……」
数分後。
ハヤトは冷や汗を拭いながら、王立ルミナス魔法学園の最上階にある『学園長室』の重厚な扉の前に立っていた。
彼の背後には、いまだにバチバチと火花を散らしながら睨み合っている四人の少女たちが控えている。
「ノクス、あんたさっき図書室でハヤトにどこまで触ってたのよ。正直に吐きなさい」
「さあ? 想像にお任せするわ。少なくとも、あなたよりはハヤトの『奥』に触れたかしら」
「なっ……! このっ!」
「は、ハヤト君の奥……!? だ、だめです、ハヤト君は私とペアのはずで……っ!」
「あーもう、ごちゃごちゃ煩いな! アタシがハヤトの隣を歩くの! どいて!」
「頼むから静かにしてくれ……学園長に怒られるから……」
ハヤトが泣きそうになりながら扉をノックすると、「入りなさい」と威厳のある低い声が響いた。
室内に入ると、巨大なマホガニーの執務机の奥で、真っ白な髭を蓄えた初老の魔術師――ルミナス魔法学園の頂点に立つ学園長が、深く息を吐いて頭を抱えていた。
その机の上には、『旧図書室・半壊の報告書』という羊皮紙がすでに置かれている。
「……君たちね。いくら学園を救った英雄と、最強の四極とはいえ、血気盛んすぎるのも考えものだよ」
「す、すみませんっ!」
ハヤトが勢いよく頭を下げる。
学園長は「まあよい」と手をヒラヒラと振り、表情をスッと真剣なものに引き締めた。
「今日君たちを呼んだのは、他でもない。先日の『古の魔竜』襲撃事件の事後調査についてだ」
「事後調査、ですか?」
ハヤトの問いに、学園長は重々しく頷いた。
「うむ。魔導騎士団の調べで、闇ギルドの目的が判明した。奴らは魔竜を復活させて学園を破壊しようとしていたわけではない。……魔竜を『どかそう』としていたのだ」
「どかす?」
シルフィが怪訝そうに眉をひそめる。
「どういうことよ。あの魔竜は、数百年前の戦争で学園の地下に封印された厄災そのものでしょ?」
「そう伝えられてきた。だが、違ったのだよ」
学園長は立ち上がり、背後にある巨大な学園の断面図が描かれたタペストリーを指差した。
「魔竜が封印されていた祭壇のさらに下……地中深くに、未知の空間が広がっていることが確認された。魔竜は厄災ではなく、その空間への入り口を塞ぐための『巨大な蓋』として、意図的に配置されていたのだ」
その言葉に、ノクスの紫色の瞳がスッと細められた。
「……なるほど。闇ギルドの連中は、その地下空間にある『何か』を手に入れるために、蓋である魔竜を排除したかったのね」
「その通りだ。そして、魔竜がハヤト君の雷槍によって完全に消滅した今、その地下空間――我々が便宜上『真理の迷宮』と名付けた場所の入り口が、完全に開いてしまっている」
学園長は鋭い眼光で、ハヤトたち五人を真っ直ぐに見据えた。
「これは学園はおろか、国家の歴史を揺るがす異常事態だ。下手に教師や騎士団を派遣すれば、未知の罠や呪いに対処できない可能性がある」
「……まさか、俺たちにそこを調査しろと?」
ハヤトの言葉に、学園長は深く頷いた。
「そうだ。絶対魔力耐性を力でねじ伏せたハヤト君の魔法。そして、それを完璧にサポートした四極の君たち。この五人ならば、どんな未知の事態にも対応できると判断した」
学園長は机の引き出しから、五つの銀色のバッジを取り出した。それは、特別な任務を帯びた者だけに与えられる『特務部隊』の証だった。
「今日この刻より、君たち五人をAランク特務パーティに任命する。リーダーは、ハヤト君。君だ」
「お、俺がリーダー!?」
ハヤトが驚いて声を上げる。
「当然でしょ。私を負かした男が、私の下で働くなんて許さないわ」
シルフィが腕を組んでフイッと顔をそむけるが、その口元は少し嬉しそうだ。
「ハヤト君がリーダー……ふふっ、素敵です。私、一生懸命ついていきますからね」
アクアが両手を胸の前で組み、うっとりとした顔でハヤトを見つめる。
「よっしゃ! これで堂々とハヤトと一緒に大暴れできるな!」
テラがハヤトの背中をバンバンと叩く。
「……悪くないわね。地下の暗闇なら、私がハヤトの背中を一番近くで守れるもの」
ノクスが意味深に微笑む。
四人の少女たちは、ハヤトと公式なパーティを組めることに、隠しきれない喜びを滲ませていた。
(真理の迷宮……)
ハヤトは、銀色のバッジを握りしめながら、ステラの言葉を思い出していた。
『あなたが本当に魔法の理を極めたとき、この世界に隠された最大の嘘を知ることになるわ』
物理の理屈を捨て、願いの魔法を手に入れたハヤト。
彼が次に向かう場所は、この魔法世界の根幹に関わる深い闇の底だった。
「分かりました、学園長。この任務、俺たち五人で引き受けます」
ハヤトの力強い返事に、四人の少女たちも力強く頷いた。
学園の頂点に立つ最強の特務パーティの、新たな冒険が始まろうとしていた。




