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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Ritual

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28/28

第9話:00:00:12

夜の研究棟。

時計の針が“00:00:12”で止まったまま、誰もいないはずの実験室に微かな光が灯っていた。


ガラスの水槽の中で、冷たい波紋がゆっくりと揺れる。

斎藤はひとり、モニターの前に座っていた。


机の上には伊庭の記録ファイル。

白く乾いた涙痕が紙に残っている。


「……君は、最後まで“見ていた”のか。」


呟きは空気に溶けて消える。

端末の電源を入れると、例の文字が勝手に立ち上がった。


FROM INSIDE

00:00:12


画面の裏側から光が滲み、まるで誰かが中から押しているように波打つ。

斎藤は指でその表面をなぞった。


冷たい。

だが、確かに“向こう側”の温度が伝わってくる。


「……境界を、越えたのか。」


久保が静かに部屋へ入ってきた。

やつれた顔。


カメラを首から提げ、硬い声を絞り出す。


「主任。軍が、また実験を要求しています。“成功例”として報告が行ったらしい。黒瀬顧問の名前で。」


「黒瀬は死んだはずだ。」


「はい。なのに、今日、本部から届いた通達の署名が……彼の筆跡でした。」


斎藤は動かない。

ただ視線を水槽に向けた。


青白い照明が、空のはずの中で揺らめいている。


「久保。」


「はい。」


「この音を聞くか?」


――ぴちゃん。


耳に触れた途端、久保の顔色が変わった。


「……まただ。主任、音が……。」


「記録はされていない。マイクも動いていない。」


「じゃあ……どこから?」


「“向こう”だ。」


斎藤の瞳が光を映す。


「彼女が言っていた。“時間の向こうから見られている”と。」


久保は背筋を強張らせながらも、恐る恐る問い返した。


「主任、まさか、また――」


「確かめる。12秒後に、何が起きるのか。」


時計を手に取り、秒針を合わせる。

針がゆっくりと回り始める。


カチ、カチ、カチ……


水槽の底で、白い光が滲む。

空間全体がわずかに歪み、蛍光灯が明滅する。


「主任、やめましょう!」


「黙れ。」


00:00:10――冷気が足元を這い上がる。


00:00:11――水槽の中の光が人の形を成していく。


00:00:12――


――ぴちゃん。


時間が止まった。

音も、呼吸も、何もかも。


斎藤は立ったまま、ゆっくりと振り向く。

そこには鏡面のような空間が広がり、向こう側に立つ“自分自身”がいた。


「……君は、誰だ。」


相手は笑った。

その唇の動きは、声を出さなくても読めた。


> 「私は、あなたが“見た”者。」


モニターが一斉に点灯する。

複数のカメラ映像が自動再生され、映っているのは――水槽の前に立つ斎藤の姿。


彼は同じようにこちらを見て、まるで無限の鏡の中に閉じ込められたかのようだ。


「主任! 離れてください!」


久保の声も遠い。

斎藤の瞳がゆっくりと光を帯びていく。


ガラス面に“内側から”手が押し当てられる。

その輪郭が重なる。


――ぴちゃん。


斎藤の体が一瞬、光に飲まれた。

久保が叫ぶ。


「主任!!」


光が消える。

部屋は静寂に戻った。


水槽の中は、空。

ただ、ガラスの内側に斎藤の笑みが映っていた。


モニターの文字が自動で更新される。


FROM INSIDE

HE IS WATCHING


久保の手が震えた。


「……主任……?」


そのとき、部屋のスピーカーから、微かな声が流れた。


> 「……見ている……。」


久保は泣きながらカメラを握りしめた。

記録しなければ、と思った。


しかしその瞬間、液晶画面の中に映った自分の姿が――笑っていた。


――ぴちゃん。


時計は動かない。


針は、永遠に“00:00:12”を指したままだった。


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