入学編⑨
魔獣はケモノガタの魔人みたいなものです
徐々に意識が覚醒していき、目を開けると窓から強い日差しが差し込んでいた。
「あちぃ」
暑い上に眩しく、無意識に腕で顔を覆っていた。今朝よりもダルさは取れており動けるようになっていたので毛布を剥がし、カーテンを閉めようとベッドから起き上がった。
「それに腹も減ったな」
ほんと人間ってのは病気になっても腹が減るとかコスパの悪い生き物だな。
そしてカーテンを閉めた後お腹がすいた白哉は何か食べ物がないかとリビングへ向かった。するとテーブルに紙が置いてあったのでそれを手に取った。そこには
『冷蔵庫にお昼入ってるから食べちゃってね』
と書いてあり、白哉はやはり火那は女神なのかもしれないと改めて認識をした。白哉はその紙を眺めながら
「支えられてばっかだな俺」
と言葉を零していた。
「後で何かお礼をしないとな」
そう呟いた後火那が作ってくれていたお昼ご飯を冷蔵庫から取り出し、温めてから食べる事にした。火那の料理は相変わらずの美味で白哉は舌鼓を打ち、あっという間に完食してしまった。そして満足した白哉は再び睡魔に襲われたのでなんとか使った食器を片付け、冷えピタを新しい物へと変えてから自室へ向かった。
その後ベッドに入り、セットされていた氷枕に頭を預けた。今朝火那が用意してくれたであろう氷枕はまだ冷たく、徐々に涼しくなっていく感覚に少し心地良さを感じていた。
氷魔法を使えたらいつでも涼しくなれるんだろうな。氷魔法が夏向けなら俺の炎魔法は冬向けだな。それともう1つの方は何向けなんだろうなこれ。絶対使わないだろうけど。
と自信が最初に発現した魔法の事を少し思い出した。
--白哉は8歳の誕生日である8月10日に、ある魔法が発現した。発現した魔法の使用方法は発現した際に自然と理解出来ているもので、それは8年かけて順応し蓄えた魔力が個人の適正と相まっているからであると言われている。また、魔力器官が魔法力に耐えることが出来ないと魔法は使用することが出来ない。つまり耐えられるのは適応力が高い魔法であり、その1つの発現した魔法を扱うことで精一杯なのである。
魔法の種類は主に火、水、雷、土、風の五代魔法や光や精神系、テレポートといった特殊魔法が存在する。そして白哉に発現した魔法は「世界線を移動出来き、代償は衰弱と寿命、感情」といった内容だった。それは一般的に知られている魔法とは類を見ず、さらに代償を伴うという聞いた事のないそれの異常性に怖くなった白哉は自信の魔法を周りに言い出すことが出来なかった。
さらにその翌月出現した魔獣と対峙した際に炎魔法が発現し、2つの魔法を扱うことが出来るという前代未聞な事態が起き、それらを言い訳にして後に自信で名付けた「並行魔法」を隠すことに決めた。
そして誕生日では発現せず、その翌月に初めて発現した白哉の炎魔法を見た火那と刀利は遂に発現したんだねと、とても喜んでいた
父である刀利曰く魔法の発現には個人差があるらしく、その身近な前例として火那は誕生日が白哉と同日であるにも関わらず2月14日に発現している。その事を知っていた白哉は並行魔法を無かったものとして、まだ発現していないと上手く誤魔化すことが出来た。
--それに2つの魔法かぁ。俺に純粋に適性があってたまたまそれに耐えられる魔力器官だったってだけなのかな。
「でもまぁ、実際使えてるわけだし何でもいいか」
いくら悩んでも解決しなさそうだし、今は眠いからとりあえず寝ることにするか。
そうして白哉は再び眠りについた。
「--ってもいいのかな?でも起こしちゃうと悪いし…」
しばらく寝ていた白哉は徐々に睡眠から意識が覚醒し始めている中で、なんとなく誰かの声が聞こえるような気がしていた
「悩んでても仕方ないね、えい。…うーん熱は無さそう?」
その発言の後になにやらおでこに人肌の温かさを感じた。
まだ眠いせいか正常な思考が出来ていない白哉は何が起きているのか理解することが難しかった
「…ん、?」
なんとか状況を理解しようと重い瞼をゆっくりと開けた。
「あ、ごめんね。起こしちゃったかな」
視界に入ったその声の主は裕香だった。綺麗な茶色い髪の毛を片耳にかけ、白哉のおでこに手を当てている状況だった。それをみたせいなのか、今まであった眠気は一気に遠のいていた。
「…あれ、裕香?何でここに」
「元々今日はここに遊びに来る予定だったんだ〜。それで白哉が風邪引いてるって聞いてお見舞いも兼ねてきたの」
「ああ、なんか申し訳ないな」
「むしろ謝るのはこっちだよ〜。起こしちゃったし。それで体調はどう?」
そう言われ、上半身だけ起き上がり腕や肩を回してみた
「ダルさも感じないしもう治ったなこれ」
「良かった〜。火那がね?白哉が風邪引いちゃったって今日1日中どこか上の空だったから、そんなに酷い状況なのかなって思ってたの」
「火那には心配かけたな。俺はもうこの通り平気!復活致しました!」
「うんうん、火那帰ってきたら喜ぶよ〜」
ん?帰ってきたら?裕香だけ家に置いてどこかに行ってるのか?
「そういえば火那は?」
「ここに着く直前にお弁当箱忘れたって学校に取りに戻ったよ〜。白哉のお世話しておいて!って言い残してね」
「なんかペットみたいな気分だな…」
「あはは、でも火那に飼われるのって最高じゃない?」
火那に飼われる…か
「具体的には?」
「毎日美味しい料理食べれて、家事とか全部やってくれるんだよ?そんな人間いたら私羨ましすぎて許せないかも!」
「俺だってそんなやつ許せねぇよ。見つけ次第ボコボコにすると思うわ」
「白哉っていつも火那にどうしてもらってる?」
「料理作ってもらって家事もしてくれてる。…!?」
え、そういう事?
「ゆ、裕香さん?」
「な〜に?」
あ、可愛い。何その首を少し傾けて上目遣いをしながら可愛い声で返事をするあざと仕草。でもその仕草はどこかからかっているようにも見えた
「もしかしてからかってないか?」
「あは、ばれちゃった〜。白哉面白いからついね」
「心臓に悪いって」
「あはは、ごめんごめん!でも火那の--ん?」
裕香の言葉はベッドの枕元から鳴り響く携帯の着信音によって妨げられた。
「あ、俺のか。すまん、話の途中に」
「全然いいよ〜。ほら、出ちゃって!大事な話かも知れないでしょ?」
「悪いな」
そして携帯を手に取り電話に出た
「--おうもしもし白哉かー?体調は平気かー?」
仁からだった。
「ああ、さっき治った所だぞ」
「そいつは都合いいや!お前明日どうせ暇だろ?合同訓練で学校が早く終わるからさ、放課後に高尾にあるカフェ行こうぜ!バカでかいパフェがあるらしいんだよ!」
「バカでかいパフェ?お前ってそんな甘党グルメだったっけ?」
「いやすっげぇ有名らしくてな、1回行ってみたいと思ってたんだよ」
「バカでかいパフェか。まあ確かに気にはな--「今バカでかいパフェって言った!?」」
仁との通話中に裕香が突然割り込んできた。
「ねぇそれって高尾にあるやつでしょ!?私も行っていいかな!?」
「え、ああ、別にいいと思うぞ。とりあえず聞いてみるわ」
いきなりテンションがMAXになった裕香に戸惑ったが、なんとか言葉を口にして裕香のことを仁に伝えた。
「なあ仁、いま妹の友達が家に遊びに来てるんだけどその子もカフェに行きたいって言ってるんだが誘ってもいいか?」
「んー?ああ別に構わないが、一応聞くぞ。女の子か?」
「ああ、しかもとびきり可愛いぞ。それと火那も誘おうと思う」
「そりゃ楽しみだな!あ、でも火那ちゃんの友達ってことは多分2組だろ?俺ら明日は3組との合同訓練だから早く学校終わるのは3,4組だけだぞ?」
あ〜、そうなのか。でも隣で裕香がすげぇ期待の眼差し向けて来てるんだよなぁ。どうすっか
「普通の授業終わりに向かってもそのパフェは食べれる?」
「まあ、売り切れる事はないだろうけどその代わり結構並ぶ事になるって感じかな。」
「それなら2組の授業終わりを待ってもいいんじゃないか?」
「まあ、そうだな。せっかく可愛い女子2人とカフェ行けるんだもんな!んじゃまた明日学校話そうぜ!」
「あいよ〜」
と電話を終えその内容を裕香に伝えると、とても喜んでいた。どうやらそのカフェは女性客が多いせいかワンチャンを狙うナンパ男達が蔓延っているらしく、危ないと思って中々行けずにいたらしい。
でもそんなに有名だったのかバカでかいパフェ。なんか気になってきたなバカでかいパフェ。
しばらくすると火那が帰宅し、明日みんなでバカでかいパフェ食べに行こうと誘うとテンションがいつもより高くなっていた。火那も甘味が好物故にバカでかいパフェが気になっていたらしい。
そして火那は夕飯の準備を始め、2人はリビングのソファに座りテレビを見たり雑談を交わしていた。
「そういえば明日俺ら合同訓練らしいんだけど、裕香たちはもうやったのか?」
「今日やったよ〜。1,2組が今日で、3,4組が明日みたいな感じで2クラスずつで行っていくみたいだね」
「なにか準備したりとかは?」
「特にはいらないよ〜。そうだ、今日の訓練の火那ほんとにかっこよかったんだ〜!」
突然火那の話題に変わったが、すごい気になる内容だった。そういう話は火那から直接聞けることは少ないのでこの機会に大量に聞こう
「俺、気になります!」
「装備の扱いに長けてる火那が見本として訓練官と模擬戦を行ったんだけど、すっごい体術と魔法でその訓練官を倒しちゃったの!そこにいた男子なんてみんな惚れてそうな顔してたよ〜?」
「くそう、俺も見たかった!!」
「でも火那があれだけ強いって事は兄である白哉ももしかして只者ではない?」
「どうだろ。でも火那には対人戦で負けたことは無いよ」
「お、恐ろしい双子だね」
うひゃ〜と声を上げている裕香を見て少し笑ってしまった。
「そういえば学校での火那ってどんな感じなんだ?」
「ん〜、基本はクールだね。でも人当たりはいいからクラスではすごい人気あるよ。しかもその上可愛いし、今日でその強さも知れ渡った結果今では学校中で話題になってると思うよ」
「変な男が寄り付かなきゃいいけどな」
「無いとは言いきれないね、だからもし火那に何かあったら白哉にすぐ言うね」
「助かる」
そして2人は連絡先を交換し、火那を守るという名目で共闘関係を結んだ。そうしているといつの間にかテーブルの上には料理が並んでおり、火那から出来たよ〜と完成を知らせる合図が聞こえた。その後3人で食卓を囲み、料理を食べ始めた。
「なにこれ美味しい!!」
「ああ、マジで美味い」
「2人とも落ち着いて食べなさいって」
火那は自分が作った料理を美味いとがっつく2人を微笑ましく見ていた。
「火那〜!本気で私のお嫁さんにならない?」
「火那を嫁に欲しかったら俺の6回ある夫面接に合格してから物をいいな」
「絶対受からせる気ないよねそれ!火那はどうなの〜?私と結婚して〜」
「第1、私結婚なんて考えてないわよ」
「そんな〜」
それを聞いた裕香はしょんぼりとしていたが、再び料理を口に入れると一瞬で幸せそうな顔へと戻っていた
そうしていつもより騒がしかった夕食を終え、白哉と裕香は協力して食器を洗い、後片付けをした。その後火那が紅茶を用意し、3人は飲みながら少し会話を交わした。
「私そろそろ帰るね!火那の料理ほんとに美味しかったし、白哉とも色々話せて楽しかった!」
「ありがと、またいつでも食べに来きて」
「俺も楽しかったぞ〜」
「そうだ、送っていくわよ」
「全然気にしないで、それに白哉はまだ病み上がりだしそばに居てあげてね」
「悪いな」
「ううん、それじゃあまた明日学校でね!お邪魔しました〜」
そう良い裕香は帰って行った。
「すげぇいい子だな。」
「うん、私の自慢の友達よ」
と火那はそう優しい顔で言っていた。可愛い
「そういえば聞いたぞ、学校中で噂されてるみたいだな」
「白哉まで辞めてよね、ほんと変な視線ばっか浴びてストレスなのよ」
「校内放送で言ってやろうか?火那に手を出したらどうなのかって」
「やったら殺すわよ」
「はいすみません。でもなんか嫌なことあったらすぐ言えよ」
「うん、分かった。ありがと」
こちとら死んでも守るって勝手に誓ってんでね。
「そうだ、私もクラスの子から聞いたけど例の3バカ顔はいいからやたらと人気あるらしいわよ」
「顔はってなんだよ。全部いいだろ」
「自惚れるんじゃないわよ」
「なんか辛辣じゃね?」
「いつも通りでしょ?」
「まあ、そうだな」
こんなやり取りをしている間にお風呂が沸いた時に鳴る音楽が流れた。
「お風呂湧いたわね」
「だな。先入るぞ」
「うん」
と言い白哉は浴室へ向かい、身体を洗ってからゆっくりと湯船に浸かった。
そうして風呂から上がりリビングの中に入ろうとすると、火那が幸せそうにプリンを食べている所が見えた。あの顔の時は話しかけずにそっとしておいた方が身のためだ。そして幸せそうな火那をドアからこっそりと眺めてから自室へと向かった。
ベッドに入り、寝る前にメールをチェックしようと携帯を手に取った。みると裕香と鈴からメールが来ていた。
裕香からは『今日はありがとね〜』と来ていたので「いつでも来なね〜」と返信し
鈴からは『今日メイクしないで学校行ったら先生からも驚かれた!私これから勉強もマジ頑張るし!』と来ていたので「その調子でがんばれ!虐められてたヤツらにまた何かされたら言えよ?突撃してやるから!」と返信した。
鈴は優等生になったらしいが口調はそのままなので逆に面白い。あの幼い感じの可愛さであの口調ならギャップ萌えな人には刺さりそうではある。ちなみに俺は好きです。
返信を送り、携帯を閉じようとした時に2人から爆速で返信が帰ってきた。
はや!?俺送ったばっかだぞ!?
裕香からは『b』とだけ送られてきたので「v」と返した。bはおそらくグッジョブのアレだろう。
鈴からは『ちょ、はくやっちならマジで突撃しそうで怖いんですけど〜!でもありがとね!』と送られてきたので「ええんやで」と返した。
再度返信を送り、携帯を閉じて寝ようとすると再び通知音が鳴った。
まずい。このままだと一生寝れない気がする。てか文字打つ速度早くないか。女子高生のある種固有能力だよな。寝落ちする前におやすみって断りは入れとくか。
裕香からは『なにそれ笑』と来ていたので「ピースに見えるだろ?というわけで寝る時間なので寝ます。おやすみ」と送った
鈴からは『そうだはくやっち今度プリとりいこ!プリ!空いてる日教えて〜人』と来ていた。プリってプリクラか?あの顔が変形するやつだよな。行ったことないし普通に行ってみたかったので「初めてなのでエスコートよろしく!明後日なら空いてるよ。というわけで寝る時間なので寝ます。おやすみ」と送り、
白哉は2人の返信よりも早く眠りに落ちていった。
火那の強い口調は弱い自分を変えるために使っているので、たまに少し甘えた口調になります。その甘えた口調が本来の火那の口調です