scene .18 △△△
「――おや? 彼等とは一緒ではないようですね?」
暗い洞窟の奥で、一人の少女が手に水晶を乗せていた。その声は、どうやら水晶から聞こえているようだ。
「いや……まぁ、うむ。そう、なるのかもしれぬの。じゃが気にすることは有らぬ、一時的な問題が発生しただけじゃ」
どこかで聞いたような口調で話すヘビ族らしきその少女は、水晶の前で視線を泳がせた。
「そうですか。――貴方の力が弱化しているのと関係がありそうですね」
水晶に映る女性の美しい顔が少し曇る。そして小さなため息をつくと再度口を開いた。
「まぁ良いでしょう。陸の統制は貴方に一任しています。勝手があったこと、それは決して許されませんが必ず任を遂行しなさい。一区切りついたら必ずこちらを訪問すること。今回ばかりは例外は認められませんよ」
「……わかっておる」
少女のあからさまに不満げな表情に、水晶の中の女性は呆れたように額に手を添え視線を外す。
「大丈夫なのでしょうね」
「今回こそは大丈夫じゃ」
「その言葉、信じますからね」
そこで通信が切れたのか、少女は緊張から解き放たれたかのように近くの椅子にぐったりともたれかかった。
最後に聞こえた溜息は聞こえなかった振りをして。
「はぁ……」
あれからどれくらいの時が流れたのだろうか。
獣人達と共に過ごす時間は刺激的で、ただ観察するだけであった昔に比べれば遥かに充実しているといえよう。それ故にその命が星に還るまでの時間はとても短い。そう思っていたはずなのに。
「どこへ行ってしまったのじゃ、ペルフェ……」
少女は空を眺めながら、二十数年前にどこかへ消えてしまった親友の名を呟く。
本来は一瞬であるはずの時間だが、彼女がいないというだけで数百年にも数千年にも感じてしまう。
『またですか……貴女はすぐ禁忌を犯すのですから……』
『こ、今回のは違うのじゃっ。少しばかり手間取ってっ』
『わかっておりますよ。だから鼻から干渉するべきではないと申し上げたのです。……全く、貴女とペルフェには失望したと、そう言わざるを得ない状況ですよ。特にペルフェは満場一致で地位を剥奪すべきと――どこへ行くのですか。お戻りなさい』
ペルフェがいなくなったあの日、災を免れた赤子を連れ訪れた自分に、仲間たちは冷たい視線を向けた。何度も忠告しただろう、なぜ引き返せなかったのか、と。
自分に対する否定は今までも多くあったが、ペルフェに対する否定に耐え切れずこの場所に逃げ帰ってきたのを覚えている。それからというもの、彼女の行方を知るためにありとあらゆる手を尽くし捜索をし続けた。だがこれまで何の手掛かりも得られていない。
「わしの、せいじゃの……」
悲しみとも、後悔ともとれる、その姿に似つかわしくない言葉が、暗い洞窟の中に吸い込まれるように消えていった。