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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .16 消えた記憶

 翌朝。ロルフとシャルロッテは予定通りコンメル・フェルシュタットへと向かっていた。

 日の昇るよりも前の起床であったが、それほどゴルトのことが心配であったのだろう、シャルロッテはロルフが起こしに行くまでもなく自力で身支度を整えていた。


「ゴルト、大丈夫かな……」


 そう何度も呟くシャルロッテにいつもの元気はなく、まるで別人のようだ。


「ゴルトが大丈夫って言ったんだ。大丈夫だ。な?」

「うん……」

「さ、そろそろフードを被ろう」


 コンメル・フェルシュタットの街並みが森の切れ目から見えてきたところで、二人は上に羽織っていたローブのフードを深々と被った。

 街の裏手の森から侵入することも考えたが、ゴルトの店が街の中心地にあるため姿を隠して正面から向かう事にしたのだ。


「リージア達、まだいるのかな……」

「どうだろうな……」


 少しずつ近づいて来る見慣れたはずの街並みに、二人の緊張が高まる。それとは裏腹に、街は静かに朝を迎えようとしていた。まだほとんどの店が開く前とは言え、前日にあれほどのことがあったとは思えない程のどかな様子だ。

 警備をしていそうな人物やロボットの姿も今のところ見当たらない。

 あと数歩で街に入る、そんな時だった。森の方向からタッタッタッと軽やかなリズムで駆ける音が近付いてきた。


「君は……!」

「あ! ロルフさんとシャル姉ちゃん!」


 二人が振り向くと、そこには見知った少年がいた。先日助けた鍛冶屋の息子だ。

 両脇にたくさんの枝を抱えた少年は、ニコニコとしながら二人の前で立ち止まる。


「偉いな、今日は朝から手伝いか?」

「うん!」


 どうやらあれ以降、早起きをして父親と共にこちらに来ているらしい。今は鍛冶修行に入る前に、森の入り口付近で暖炉用の枝を拾い集めてきた所だそうだ。


「二人はこんな朝早くから何しに来たの?」


 少年の純粋な質問に、ロルフは少し言葉に詰まる。正直に言ったところで不安にさせるだけだろう。だが、この様子であれば街全体に被害などは出ていなさそうだ。

 現状をできるだけ知っておきたいロルフは、当事者であることを隠しつつ答えた。


「あー……前にも言った、知り合いの店に顔を出しに来たんだ。昨日何やら騒ぎがあったみたいだから心配でな」


 そうなんだ、そう言いつつも少年は小首をかしげている。騒ぎがあったことを初めて聞いた、そんな表情だ。


「店舗が倒壊するくらいの騒ぎが中心街の方であったって聞いたんだが」

「えっ、そうなの? 初めて知った! 僕、昨日はとーちゃんの手伝いで一日ここにいたのに」


 少年の反応は、嘘をついているようには見えない。本当に知らないのだろうか。

 神妙な面持ちになってしまったロルフに気を使ったのか、少年が再度口を開く。


「とーちゃんに聞いてみるよ!」

「あーいや、知らないなら大丈夫だ。俺の聞き違いかもしれない」

「そうなの?」

「あぁ、変なこと言って悪かったな。ありがとう。修行がんばれよ」

「うん! じゃぁまたね!」


 そう言うと少年は店の方へと駆けて行った。

 あれだけの騒動であったのだから、さすがに街全体に噂ぐらいは流れているかと思ったが、見当違いだっただろうか。そう思うロルフのローブの袖をシャルロッテがツンツンと引っ張る。


「ねぇ、どういうこと?」

「今は何とも言えないな……取り敢えず店の方へ向かってみよう」


 静かに頷いたシャルロッテの手を握ると、ロルフは街の中へと進んでいく。

 これほどの早朝に街中を歩くことは今までほとんどなかったとはいえ、中心街に近づいてもいつも通りの時間が流れている、そう感じた。それは、ゴルトの店の前にたどり着いた時もそうだった。いや、厳密に言うと店ではなく店があるはずの場所、だろうか。

 昨日までゴルトの店が建っていた場所には、コンメル・フェルシュタットを作り上げてきたであろう人物たちを模した石像と、それを称える文が掘られた立派な石碑が鎮座していた。


「どういう、こと?」


 呆然と立ち尽くすシャルロッテが呟く。

 その場所には、倒壊した建物どころか建物があった形跡すらない。それだけではなく、その石碑には一日やそこらでついたとは思えない苔や汚れがついていた。

 辺りを見回しても、リージア達が破壊したはずの向いの店や付近の店の傷なども綺麗に元に戻っている。この場所に立っていると、“昨日の騒動がなかった事になった”というよりは“そもそもここにゴルトはおらず騒動は起こらなかった”まるでそう言われている感覚すら覚える。


「ねぇゴルトは? ゴルトはどこ行っちゃったの⁉」


 ロルフに掴まれた手を大きく振りながら、シャルロッテが目に涙を浮かべてそう叫ぶ。ロルフにも何が起きたのか皆目見当もつかないが、ゴルトか、リージアか、はたまたロルフを狙っているというリージアの雇い主か、いずれかが要因でこうなったことは明白だろう。

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