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020 邂逅


 とんでもないことが起きた。

 俺と勇者パーティーが勝負をしていたところに魔王様がやって来たのだ。

 部屋から出て行こうとするシスティにぶつかって転んでしまったらしい魔王様は、心配するシスティを他所に一人で立ち上がる。



「え、何。どうしてこんなところに子供がいるの?」



 そんな中でエリカが首を傾げる。

 魔王様がまさか五歳の子供なんて知らない三人からしたら尤もな疑問だ。



「え、えっと……」



 これは何と言うのが正解なのか。

 絶体絶命の状況に冷や汗が流れる。



「それにしてもこの子、可愛いですね……」



「あ、それは私も思った。ほっぺた柔らかそう」



 俺だってその会話の中に入って、魔王様がいかに可愛いのかを力説したい。

 しかし今はそんなことよりもこの状況をどう切り抜けるかを考えなければならない。



「でもこの城って魔王とあなた以外に住んでいないんじゃなかったっけ?」



「そ、それは……」



 昔の俺は果たしてそんなことを言ってしまったのだろうか。

 正直詳しくは覚えていないが、エリカがそう言うならきっとどこかで言ってしまったのだろう。



 これは本当にまずいことになった。

 ますます言い逃れが出来ない状況だ。



「わらわがまおーなのだー!」



 俺が必死に打開策を頭を悩ませていたその時、エリカの言葉を聞いていたらしい魔王様が真っすぐ手を伸ばしながら言い放つ。

 それはもう元気よく。

 普段の俺ならあまりの魔王様の可愛さに拍手を送っていたところだが、今だけは思わず唸ってしまった。



「え、魔王……?」



 魔王様の言葉に明らかに部屋の中の全ての動きが一瞬止まる。



「あ、ですと! やっぱりここにいたんだ!」



「は、はい。魔王様はどうしてこんなところに」



「ですとをさがしてたのー!」



 やはり魔王様は俺の行動を怪しんでいたらしい。

 だから今日俺がいなくなった時を見計らって、魔王城を散策していたのだろう。



「そ、それじゃあ俺は見つかったわけですし、一緒に戻りましょうか。まだお昼寝の時間ですから」



「えっ、またおひるねするの?」



「はい。お昼寝は大事ですよ」



 魔王様の「まおー」発言に固まっている勇者パーティーの三人。

 もはやこの機を逃すわけにはいかないだろう。



 俺は魔王様の背中を押して部屋の出口へ向かう。

 扉のところに突っ立っているシスティは視線でこそこちらを追ってくるが、何かしてくるようには思えない。



 よし、このままうやむやにしてしまおう――



「ちょっと待ちなさいよ。まさか何の説明もしないつもりじゃないわよね?」



「で、ですよねー」



 ————なんて考えはさすがに甘かったらしい。



 ちょうど扉の辺りで、後ろからがっちり肩を掴まれる。

 振り返れば満面の笑みのエリカがいた。



「あ、ゆーしゃのおねーちゃん! はじめまして!」



「うぇっ!?」



 しかし俺が何かを言う前に魔王様がエリカに頭を下げる。

 こういうところも俺の教育の賜物なのだが、今は素直に喜べない。

 エリカも予想外だったのか変な声をあげている。



「あれ、ゆーしゃのおねーちゃんじゃなかった……?」



 魔王様はエリカの反応が変だったのが自分のせいだと思ったのか眉を八の字にして悲しそうな表情を浮かべる。

 いや、まあエリカの反応がおかしかったのは間違いなく魔王様のせいではあるのだけども。



 だがこれはエリカはどうするのだろうか。

 仮にも勇者なのだから魔王様に対して何を言うか心配していたのだが……。



「そ、そうよ! 私は勇者エリカ! この世の悪を成敗するの!」



 しかし予想外にエリカのテンションはやけに高い。



 恐らく久しぶりに他人からまともに勇者扱いをされたのが嬉しかったのだろう。

 単純というか、馬鹿だ。



「かっこいー!」



「そ、そうっ? えへへ」



 五歳の子供の無垢な感想に無様なにやけ顔を晒すこいつが勇者とは世も末だ。



 エリカとの会話を終えた魔王様の次の視線はルルに向かう。



「ちっちゃいけんじゃ!」



「ち、ちっちゃ……っ!? あなたのほうがどう考えても小さいじゃないですか!」



「あははー! おこったー!」



「ま、待ちなさい! 私はこれでも十六歳なんですよ!」



 俺の周りを逃げ回る魔王様と、それを追いかける賢者。

 どう見ても子供同士の戯れにしか見えない。



 しかしこれはどうだろう。

 魔王様がやって来て、初めはどうなるのかと冷や冷やしていたが、今の状況を見ていると意外と何とかなりそうな気もしてきた。



 既に二人との会話を終えた魔王様に残っているのは聖女であるシスティだけだ。

 これまでの他の二人と比べれば、明らかにコミュニケーションをとるのに難易度は低いだろう。

 それに聖女というからには子供との接し方くらいは心得ていてもおかしくない。



「にゃっ!」



 ちょうどその時、ルルと追いかけっこをしていた魔王様がシスティとぶつかる。

 魔王様が転ばないように、システィが抱き留めてくれる。

 さすが聖女。

 これまで散々酷いことを言って悪かったと思う、本当に。



「……あ!」



 抱き留められた魔王様は、視線をあげた先のシスティの顔を見て思い出したように声をあげる。

 そして何を思ったのか勢いよく自分のスカートを捲る。

 もちろんぱんつは丸見えだ。



「びっちおねえちゃん!」



 ここに来て、魔王様が爆弾を投下した。


デ「どうやらきなこ軍曹が復活したらしいですよ」


魔「きなこぐんそー? おかし?」


デ「お菓子ではないですね」


魔「ならいらなーい」


デ「それもそうですね。捨てときます」

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