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021 魔王様がかわいい(二度目)


「…………」



 魔王様が最後の最後で爆弾発言をしてからというもの、誰一人として言葉を発さない。

 というよりも発せない。



 空気が凍ったというのはまさにこういうことを言うのだろう。

 システィが笑顔のままで固まっている。



「ま、魔王様、そろそろ戻りますよー」



 しかしどう考えても今の状況ではその選択がベストなのは間違いない。

 さっきは俺を止めたエリカも状況を鑑みてか、見て見ぬふりをしてくれている。

 まじ助かる。



「ちょーっと待ってください?」



「ひっ」



 それでも逃がしてくれないのがびっちおねーちゃんという存在だ。



「さっきのは、あなたがこの子に教えたんですか?」



「い、いや、俺はそんなことは教えてないが……」



「じゃあどうしてあれを知っているんですか?」



 いつもはキラキラしている笑顔が真っ黒に染まっていて迫力が凄い。

 鬼気迫っているというか、とにかく怖い。



「いや、実はお前たちが初めて城に来たとき、魔法で俺たちのやりとりを見てたんだよ。それで股がすーすーするとかで、あれを気に入ったらしくて……。も、もちろん俺は何度も止めるように言ったんだぞ。はしたないからって」



「あぁ、だから私たちのことも知ってたのね」



「そういうことだ」



 納得したように頷くエリカとルル。

 しかしシスティはと言えば……。



「は、はしたない……」



 間接的に自分の行為がはしたないと言われて落ち込んでいた。

 もはや哀れだ。



「あ、でもこの三人の中だったらシスティが一番綺麗だって言っていた……ような気がする」



「ほ、本当ですかっ!?」



 さすがに可哀想に思えてきたのでうろ覚えの情報を伝えてみるが、それが予想以上の反応だった。

 これまで地面に膝をつけていたシスティが物凄い勢いで詰め寄って来た。

 だが俺としても確か魔王様がそんなことを言っていたかな、くらいの記憶しかないので断言はできない。



 となると魔王様に直接聞くことしか出来ないのだが、正直不安だ。

 しかし今の俺には変なことを言いませんように、と祈ることしかできない。



「ま、魔王様。この中で一番綺麗なのは誰ですか?」



「わらわ!」



 即答だった。

 思わず目が点になってしまったのを誰が責められようか。



 確かに魔王様の意見は正しい。

 俺だって出来ることなら全力で同意したい。

 でも、今求めているのはその答えじゃない……!



「そ、そうじゃなくて、このお姉ちゃんたち三人の中だったら誰が綺麗ですか?」



 俺は魔王様が空気を読んでくれることを願いながら、改めて尋ねる。



「んー……」



 即答するかと思いきや魔王様は俺の下を離れ、一人一人を値踏みするかのように歩き回る。

 そしてその動きがルルの前で止まってしまう。



「……ん」



 そこで決めた、ということか。

 だとしたら今の状況からしたら全くよろしくない。



 やはり同じ年ごろに見えるのがルルの勝因なのだろうか。

 ルルは勝利を確信しているのか、口元をニヤリと吊り上げている。



「んー……」



 しかしそんなルルの確信を正面からぶち破るのが魔王様である。

 ルルは自分の下を離れていく魔王様に驚きの表情を向けている。

 さすが魔王様、エンタメというものを分かってらっしゃる。



「ん、このひと……」



 次に魔王様が向かったのはエリカの前。

 そしてその小さな手をエリカに向けて――。



「……じゃないな」



 ————無慈悲に下ろした。



 エリカの絶望の顔がまた面白いが、今は笑う場面ではない。

 堪えろ、俺!



「やっぱりびっちおねーちゃんがいちばんきれい!」



 そして魔王様は最後にシスティの下へ向かうと、その大きな胸にダイブする。



「ふっふっふ、まあ当然と言えば当然ですけどね!」



 もはやびっちおねーちゃんであることはどうでもいいのか、今はとりあえず歓喜に包まれている。

 若干キャラがぶれているような気がするのは、きっと気のせいだろう。



 そんな中で不満を抱く者が二人。



「……納得がいかない」



「こんなビッチが一番なんて許せませんね」



 正直、こいつらが仲間であるということが信じられない。

 いっそのこと実はお互いに敵同士だと言われた方が納得できるほどの酷いシスティの言われっぷりである。



「何とでも好きに言ってくださって構いませんが、私が一番であるという事実は揺らぎませんよ?」



 そしてこのシスティの変わりっぷり。

 ただでさえ大きな胸を張っているせいで、いつもよりも二倍くらい大きく感じる。

 他二人はそんなシスティに悔しそうに睨んでいる



「……でも、その子って魔王なのよね?」



 その時、ようやくそのことを思い出したのかエリカが気まずそうに呟く。

 かくいう俺もすっかりそのことを忘れてしまっていた。

 エリカの一言に、これまで魔王様を抱きながら撫でていたシスティの手も止まる。



「で、でもこんなに可愛いんですよ?」



「確かに……」



 システィの言葉に、ルルが頷く。

 俺も頷く。



「そ、それはそうかもしれないけど、やっぱり魔王は魔王なわけで……」



 どうやら勇者であるエリカには、やはり魔王という存在は魔王として根強く根付いているらしい。

 しかしそれは当然と言えば当然で、むしろ他の二人の魔王に対する認識が甘すぎただけだ。



 決して自分が選ばれなかったなどという私的な事情ではないだろう。



「…………」



 そう思っていたのだが、どうにもこの勇者の挙動がおかしい。

 何度も魔王とか言っている割には、さっきからちらちらと魔王様を盗み見ている。

 この勇者は果たして本当に魔王様を魔王だと分かっているのだろうか。

 正直かなり怪しい。



「あ、そういえば魔王様」



「んー?」



「以前、この方が魔王様のためにクッキーをくれたんですよ」



「えっ」



 途端、システィの腕の中から魔王様がエリカを振り返る。

 エリカはぎょっと驚きながらも、魔王様から視線を逸らさない。

 というよりも魔王様の無垢な眼差しに見とれていると言った方が正しいだろうか。



「く、くっきーくれたの……?」



「ま、まあ確かにそんなこともあったような」



 絶対に覚えているくせに覚えていないふりをするエリカ。

 魔王様の可愛さを目の当たりにした時のその気持ち、正直めっちゃ分かる。



 しかし魔王様はエリカがクッキーをくれたとどこかで悟ったのか、システィの腕の中から抜け出すとエリカの下へ向かう。

 因みにシスティは名残惜しむかと思えば、存分に魔王様成分を補充できたのか満足そうに目を細めている。



「ゆーしゃのおねーちゃん……」



「な、何よ」



 魔王様を前に、どこか緊張した様子のエリカ。

 口調が初めよりも強い気がするのは魔王とは馴れ合わないという意思を他の皆に宣言しようとしているからだろう。

 だがそんなこと魔王様には関係ない。



「おねーちゃんだいすきっ!」



 魔王様はクッキーをくれたエリカに抱き着くと、頭を擦りつける。



 正直今すぐにその場所を譲れと言いたいところではあるが今は我慢。

 どうせもうすぐエリカが堕ちる。



「…………」



 エリカは魔王様の脇を持つと、自分から離させる。

 そして無言のままその場に膝をつくと、両手で顔を覆った。



「……魔王が可愛すぎて辛い」




デ「魔王様! この中で一番かっこいいのは誰ですか!」


魔「わらわ!」


デ「確かに!!」

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