あの機械を使えば、この女の子を好きにできるかもしれない
そのあとも私の能力を使えば高校なんてちょろいものだった。教師の間で私のことが噂になったらしく、突っかかってくる教師は一人もおらず、好き勝手できた。
昼食のお弁当(家が家だけに非常に豪華だった)を食べていると、隣の席の武田さんが寄ってきた。
「椿さん。あの嫌味な高橋先生を黙らせたところ、すごくかっこよかったよ」
高橋とは、私が1時間目にギャフンと言わせた教師の名前である。
「ありがとう、武田さん。高橋は嫌な奴だし、無駄な時間を過ごすのは辛いしで、つい我慢できなくて。みんなの邪魔しちゃったね」と私が言うと。武田さんは目をキラキラさせたながら私に言った。
「ううん。椿さんとってもかっこよかったよ。私もあんな風になりたいな」私の真似をしていると人生苦労しちゃうぞ、と私は思うのだが、言いはしない。
「ありがとう。武田さん。私のことは楓と呼んでもらってもいい? 私、楓って名前の方が気に入っているんだ」椿って呼ばれると教授のことみたいで紛らわしいんだ。
「じゃあ、私も愛って呼んでください」
武田愛。いい名前だ。綺麗な髪だし巨乳だし、体つきはいいし、目もぱっちりしているし、顔も素敵。こんな女の子といい関係になりたいものだ。私に憧れを抱いているみたいだが、ただの憧れ程度だろう。
あの機械を使えば、この女の子を好きにできるかもしれない。
悪魔のささやきだ。しかし、今日研究室に行ったら、使わせてもらえないか試してみよう。
そして放課後。私は研究室に向かう。大倉博士の研究室までは、リムジンで送ってもらった。
大倉博士は、どこの機関にも属さず、個人宅で研究しているようだ。組織の力を借りずあれだけたいそれたものを作り上げた大倉博士こそ本物の天才ではないか、と私は思ってしまう。
私は、インターホンを鳴らした。
「おお楓ちゃんか。よく来たな」口では歓迎ムードを出しているが、目は全く私を信用していない。おととい脅したからか警戒されているようだ。
「大倉博士、宜しくお願いします」私はぺこりと頭を下げた。
「さあ、入りなさい」大倉博士は私を中に入れてくれた。
「早速あの機械の仕組みを教えていただいても良いでしょうか?」私はとっとと核心に迫る。
「ふむ。何も難しいことはやっとらん。脳の情報を読み取って電気と磁気の刺激で書き換える、ただそれだけだな」仕組みにするとシンプルだが、それを実現するのがすごい。
「さすが大倉博士ですね。思いついても実現できる人はほとんどいないでしょう。」一応褒めておく。
「いやぁ、私もまさか存命中に完成するとは思っていなかったよ」ちょっとお世辞で気が緩んだようだ。
「それで次の質問なのですが……」大倉博士が出してくれたお茶菓子をぽりぽりしながら話を切り出した。
「あの機械、小型版みたいなのはありませんか?」
「よく気づいたの。あるぞ」博士はケロッとした顔で言った。
「貸してください」私は本題を切り出す。
「ダメじゃ」あっさり断られた。
そのくらいじゃ私は引き下がらない。
「大倉博士、どうしてダメなんですか?」
私はできるだけ可愛くおねだりする。
「あれはのう、危険すぎるのじゃ。だから、軽々しく外に持ち出すわけにはいかない」
私に使っておいて何を言っているんだ、この爺さん。
「では、せめて見るだけでもお願いします」
大倉博士は品定めするように私を見て……
「仕方ないのう、見るだけじゃぞ」と言って立ち上がった。