4話
「赤城君、君は今日でクビだ」
「はい?」
翌日。
会社に出勤した俺は上司に依頼されていた鞄を手渡した。
鞄を確認した上司の口から放たれた最初の言葉が、これだ。
労うでも、褒めるでもない。
クビ、と。
「この話は上からも認められている‥‥‥私の独断では無いんだよ」
「何故ですか!!理由を聞かせて下さい!」
普段は無気力な俺でも流石に抗議をしなければならないと思い、上司に詰め寄る。
「‥‥‥中身は見ていないんだな?」
「ええ、言われた通り見ていませんよ」
「そうか」
俺の抗議に対し、短い返事で答えた上司は、何を思ったのか、その場で鞄を開ける。
俺にだけ見えるように。
「‥‥‥これ、は‥‥‥」
現物は見たことが無いが、テレビやネットなどのメディアで見たことがある代物。
袋に詰められた、白い粉。
―――――麻薬だ。
「君は今、中身を確認した。つまり、君はこれの関係者となった」
「そんな、今ので‥‥‥」
理不尽さと意味の分からなさで頭が混乱する。
「この事務所にいるのは••••••私と君だけだ。ちなみにこの会話は録音しているし、映像も残してある」
そう言いながら、胸元のポケットから小さな機械を取り出す。
そして、天井の一点を目線で指し示す。そこに目を向けると、小さなレンズのようなものが見えた。
(‥‥‥嵌められた)
瞬間、自分の立場を理解する。
「‥‥‥で、どうする?今なら穏便に済ませることが出来るが?」
赤城の立場と思考を理解した上で、再び問を重ねる。
その目は赤城の行動を見透かしているようであった。
(‥‥‥気に食わない)
赤城はその目を見てそう思った。
「‥‥‥誠に遺憾ではありますが••••••本日で辞めさせていただきます。‥‥‥長い間、お世話になりました」
上司に向かって深々と礼をする。
「‥‥‥辞める?いや、君は‥‥‥」
少しだけ思惑から外れた赤城を不思議そうに見つめる。
その目を見て、ほんの僅かだが溜飲が下がった。
「構いません。俺から、この会社を辞めます」
「そうか。分かった。後で手続きをしてくれ••••••書類は私が受け取るよ」
その後、短い文章を作り、上司だった人間に提出する。
これだけでこの会社における赤城の10年近いキャリアが終わった。
◇
「無職だ‥‥‥」
数少ない私物を片付け、会社を後にする。
子どもたちが楽しそうに登校している中、その横を通り過ぎる赤城の足取りは重かった。
意地を張る為だけに自主退職を選んだが、その事について早速後悔していた。
「意地を張るんじゃなかった••••••」
後悔先に立たず。
そんな言葉が頭をよぎる。
「ぁぁあああっ!ちくしょう!今日も飲むぞっ!」
やけ酒をしなければ気が済まない。
今後を考えたら、節制に努めなければいけないが、それは無理な相談だ。
「今日も行くか••••••」
今日で3日目だが構わない。
赤城はその時まで、自宅アパートで寝ることにした。




