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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『残火』

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48話

―――――夢を見た。


そこで詩音は、大切な2人と一緒に歩いている。


‥‥‥穏やかで、楽しい日々。


ふと、後ろを振り返る。

ずっと一緒にいたかった人達がいた。


微笑みながら、優しい瞳でこちらを見ている。


―――何故か、泣きたくなってしまった。


悲しみからではなく、ありがとうという感謝の気持ちから。


何かを伝えた、詩音にはその言葉が分からない。

けれども、その人達にはしっかりと伝わっていた。


『いってらっしゃい、幸せになってね』


そんな言葉が聞こえた気がした。


その言葉に背中を押され、少し先で待つ2人の元へと歩いていった。







「‥‥‥‥‥‥生きてる‥‥‥?」


目を覚ます。


白い天井に、白い部屋だ。

明るく、ほのかに暖かい。

そして穏やかな風が頬を撫でている。


「ここは‥‥‥?‥‥‥っ?!」


「ここは病院さぁ‥‥‥おっと、動くなよぉ?」


詩音は身体‥‥‥腋の下から脇腹にかけて痛みが走る。同時に聞き覚えのある声が、詩音の行動を制していた。


「私は‥‥‥‥‥‥ああ、手術を‥‥‥?」


「そうさ、天城製薬会社から退散した後、即入院、即手術‥‥‥結果は‥‥‥成功したよ」


わざわざ私が執刀したんだよ、と呟く杉沢をよそに、詩音はここにいる理由を思い出す。


天城悠生に復讐を果たした後、手術をすると言われ、何処かへ運ばれていた。

その時に意識を失ってしまったのか、そこから先は覚えていない。


「成功‥‥‥?」


「私でもないとこれ程の会心の手術は‥‥‥いや、そうじゃないかぁ」


腕に自信はあるが、それだけで手術が成功した訳ではないと思い、言い直す。


「見立て通り、肺の部分に腫瘍があったよぉ‥‥‥大分大きくなっていたから、切除もしたんだけどねぇ‥‥‥」


「奇跡的にそこだけで済んだ‥‥‥転移もしていない」


「だが、大本が‥‥‥」


それは以前に聞いていたことだ。

肺の病巣を摘出しても、大本を除去しないことには同じことの繰り返しだ。

だが、その事についても杉沢から話しがあるようだ。


「ああ、それなんだけどねぇ‥‥‥新薬とやらのお陰で、そこも解決できそうなんだよぉ」


「‥‥‥‥‥‥あれが?」


眞に飲まされた薬を思い出す。

朦朧とした意識の中にいたが、そのことについては、はっきりと思い出せる。


「詩音の相棒から受け取った新薬‥‥‥あれの効果で、大本の根治も可能な範囲に入っているんだよ」


「‥‥‥つまり、私は‥‥‥」


「再発の可能性はある‥‥‥けどね‥‥‥これからも生きていられるのさ」


「‥‥‥‥‥‥」


「新薬の存在も、転移が無かった事も、治療が間に合ったことも‥‥‥奇跡としか言いようがないねぇ‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥そうか、私。生きていられるんだ‥‥‥」


死ぬ運命にあった自分が、これからも生きていられる。


‥‥‥その事実が、詩音の心に沁み入る。


「‥‥‥言ってなかったけどね、新薬の開発って、詩音の母親がいたからこそ、始まったのさぁ‥‥‥」


「えっ‥‥‥?」


思わぬ方向から母親の話しが出る。

驚きを隠せない詩音に向けて、言葉を続ける。


「宗次郎の奴からの話‥‥‥そこから推測したものでしかないけどねぇ‥‥‥元々詩音の母親は癌に罹りやすい体質だったみたいでね‥‥‥それをどうにかしようと、詩音の父親が開発を決めたんじゃないかと思う‥‥‥宗次郎の奴も、最期は癌で死んじまったしねぇ‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥そうだったのか‥‥‥」


母親の死の理由について、当時の詩音には分からなかった。それに加え、祖父の死についても杉沢から聞くことも無かった。

今になって、その理由が繋がりを見せる。


「ま、想像の域でしかないけどね‥‥‥でも、父親と母親に命を救ってもらった、と考えたほうがドラマチックだろ?」


「‥‥‥‥‥‥そう、信じておくか」


何事にしろ、良い方向に考えることは悪くは無い。‥‥‥詩音にも思うところはあった。


「それにね、詩音の気力が保ったというのも大きい。‥‥‥あんたに余命を告知した時と同じ精神状態であったら‥‥‥間違いなく死んでいたよぉ‥‥‥」


「‥‥‥それは、そうかもしれんな」


「だから、今ここにいられるのも、詩音の相棒のおかげでもあるかもしれないねぇ‥‥‥ずっと、傍にいてくれたんだろ?」


「‥‥‥ああ、何度も助けられた‥‥‥眞がいなかったら、私は‥‥‥」


諦めかけていた詩音を動かし、復讐の足掛かりを得るきっかけを作ったのは間違いなく眞だ。


身の危険に陥った時も、心が折れそうになった時も、常に傍にいてくれた。

‥‥‥独りでは、復讐を果たすことが出来なかった。


「なら、退院したらきちんと礼でも言ってやりな‥‥‥自分も大怪我しているのに、ずっと心配していたんだからねぇ」


「‥‥‥どのくらいで退院出来るんだ?」


「新薬の効果も観察しないといけないから‥‥‥念のため、1ヶ月くらいは入院さ」


「分かった、大人しくしているさ‥‥‥」


その言葉を最後に、再び目を閉じる。

久し振りに、深い眠りにつくことが出来る予感がある。

それと同時に、今迄一緒にいた男の事が気になった。


「‥‥‥眞は?」


「ああ、あの子ならもうすぐ退院さ‥‥‥相変わらず、頑丈だねぇ‥‥‥」


「そうか‥‥‥一足先に、眞は帰るんだな‥‥‥」


「‥‥‥なら、帰ったら礼の1つでも‥‥‥」


睡魔が詩音を襲う。

まだ本調子では無い事と、眞の無事が確認出来た事が重なり、気が抜けてしまった。


(‥‥‥‥‥‥いつか、この気持ちを)


今はまだその勇気は無いが、いずれははっきりとさせようと決め、そのまま眠りに落ちていった。







1ヶ月後。


最後の検査でも腫瘍の除去と根治が確認出来た。

杉沢は全力を尽くしてくれたのだろう。腋から脇腹にかけての手術創も殆ど見えない。痛みも全く無かった。


「世話になったな」


「ああ、もう来るなよ?」


「同感だ」


軽口を叩き合いながら、杉沢は大事な事を告げる。


「言っておくが、煙草は吸うなよ?病気が病気だからねぇ」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥減らすさ」


「‥‥‥辞めろ、と言っているのに‥‥‥はぁ‥‥‥まあ、勝手にしろ」


詩音の意思は堅いと見て、説得を諦める。

ただ、詩音自信も言ったように、以前のようなチェーンスモーキングは控えるであろうことは分かっていた。‥‥‥それだけでも快挙だ。


「あと、これを渡しておくよ。1日2回内服しろ。無くなるまで忘れずに‥‥‥」


「これは、新薬か?それにこの量は‥‥‥」


「そうさ、この世にこれっきりさぁ」


試作品段階であったため、極少量の筈であった。だが、渡された薬剤は明らかに多い。それこそ数ヶ月分はあるだろう。


「冷泉家が天城製薬を傘下に入れてね。その時に得たデータと新薬のサンプルをもとに、量産したものだねぇ」


天城製薬の不正が暴かれたあと、天城悠生は病院に搬送された。

‥‥‥治療後は警察のお世話になると詩音は聞いていた。


その後の天城製薬会社の扱いについて聞かされていなかったが、今の話で得心がいった。

改めて冷泉葉月との繋がりを持っていて良かったと思う。


‥‥‥だが、他にも気になる言葉があった。その理由についても尋ねる。


「‥‥‥この世に、これっきりと言ったな?」


「ああ、正式に認可されるまではまだまだ掛かるだろうよ。‥‥‥何せ、副作用があるからねぇ」


「‥‥‥‥‥‥副作用?」


副作用と聞いて詩音は眉を顰める。


‥‥‥実は入院中から極々軽度ではあるが、気になる症状が出ていた。

体調には影響は無いため、そのままにしていた。


‥‥‥正直、あまり言いたくは無かった。


「安心しろ、致命的なものではないさ‥‥‥だがな、肝心の副作用が分からないんだよ‥‥‥」


「副作用があるのに‥‥‥分からない?」


「副作用が特定出来ないんだ。だが、軽微なものも、重篤なものも‥‥‥データ上では確認されていない。つまり未知のものさ‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥まあ、いいさ。効果はあるんだろ?」


”未知“と言われて”まさか“と思う。

だが、そんな事はおくびにも出さず、言葉を続ける。


「それは太鼓判を押してやるよぉ‥‥‥検査上、腫瘍は完全に消えているからな」


「だったら、私の身体で試してやるよ」


「それは助かるねぇ‥‥‥何かあったら、直ぐに連絡するんだよぉ?」


「ああ、分かっている。‥‥‥じゃあな」


「お大事にねぇ‥‥‥」


病院の正門前で手を振る杉沢に片手を上げて返答する。


詩音の治療を終えた杉沢もまた、元の場所へ戻る。


詩音も‥‥‥眞も。

それぞれが生きるべき場所‥‥‥『日常』へと帰って行くのであった。


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