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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『業火』

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46話

「はぁっ‥‥‥はあっ‥‥‥はぁ‥‥‥」


エレベーターから降りた悠生は、屋上へと繋がる階段を駆け上がっていた。

‥‥‥特に考えがあった訳ではない。

敷地外とはいえ、マスコミが張っている。会社から逃げることは出来ない。


‥‥‥少しでも時間を稼ぐ。

それで何かが変わるはずだと、思い込む事しか出来なかった。


屋上へ繋がる扉を開ける。

悠生の目の前には、この建物のインフラに関わる設備や、メンテナンス用の構造物があるくらいで、やや殺風景な景色が広がっていた。


―――空には雲1つない快晴。


その眩しさと清々しさに圧倒される。


一瞬、記憶の奥底で何かが小さな音を立てて転がり落ちる感覚を得る。

悠生が遥か昔に目指していた『何か』がそこにあるような気がした。


「‥‥‥くそっ」


それは、悠生が小さい頃に大切にしていたもの‥‥‥『幸せ』


今の悠生は”邪魔なもの“だと、無意識の内に切り捨ててしまった。







エレベーターが最上階で止まっている事を確認する。そして、ある人物に連絡を入れる。


‥‥‥天城悠生の居場所が分かった。

眞は詩音を抱えたまま、屋上に向けてエレベーターを動かす。


「‥‥‥‥‥‥眞」


「なんですか?」


「‥‥‥‥‥‥なんでもない」


肩に顔を向けているため、表情を伺う事が出来ない。ただ、何かを遠慮しているような雰囲気を感じた。


「‥‥‥そうですか」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥いつか、話す」


「‥‥‥はい」


詩音はか弱い腕に力を込めて、更に身体を密着させる。


言葉の意図は分からない。

だが、詩音は約束を破らない筈だ。そう考えていた眞は何も言わずに、階数を表す数字を静かに見つめる。


屋上を表す階数で止まる。


「ここからは、自分の力で歩く」


屋上へ繋がる階段を昇り、扉の前に立った時に詩音が呟く。表情は優れないが、眞は黙って詩音に従う。


自身の足に力を込め、ゆっくりと歩く。


「行くぞ、眞」


「はい、詩音さん」


扉を開ける。


真っ青な空の下。

視線の先に、天城悠生が立っていた。


「‥‥‥‥‥‥しつこい奴らだ‥‥‥」


悪態をつく悠生に向かって、詩音が歩を進める。


―――言葉は無い。言いたい事は全て言った。


ナイフを握り、悠生の元へ近づく。


悠生は銃を構えるが、詩音は避けようとはしない。


―――銃声。


だが、悠生の持つ拳銃は、役目を果たすことなく地面に転がっている。


「いっ、今のは?!‥‥何故だっ!!」


撃たれた手を押さえながら狼狽する。

肩も、手も役に立たない。


「ごっ、ぐあああっ‥‥‥」


足先が銃弾で穿たれる。


手も足も、外傷は最小限。

しかし、もはや用をなさない。


目の前の復讐者に怯えるように後退る。

徐々に距離を詰められ、悠生は壁に追い詰められてしまった。


「謝るっ‥‥‥全て私のせいだっ!‥‥‥認める、私が全て悪かった!」


「黒羽っ‥‥‥頼むっ、命だけはっ‥‥‥」


詩音は止まらない。

今度こそ天樹悠生に引導を渡す‥‥‥その一心。


「やめっ、止めろぉっ?!」


「‥‥‥‥‥‥くっ‥‥‥」


‥‥‥気を張り続けていた詩音の身体が止まる。

詩音の意思とは裏腹に、身体は限界を迎えてしまった。


「‥‥‥くそぉっ!!」


その隙を見逃さず、悠生が胸元に入れていた箱を投げつける。


「‥‥‥っ?!」


小さな箱の投擲とうてき

それすらも今の詩音にとっては、耐えられないほどの攻撃となっていた。


どさっ、と尻もちをつく。

あまりにも情けない姿。


後、数歩で天樹悠生に手が届く。

‥‥‥しかし、詩音は動けない。


「‥‥‥‥‥‥もう、駄目‥‥‥」


最後の気力を振り絞り、ナイフを振り下ろすつもりであったが、それが叶わない。


その事実に、悔しさと無力感が爆発した。


「ごめんなさい‥‥‥父さん‥‥‥母さんっ‥‥‥‥何も、出来なかったよ‥‥‥」


「‥‥‥ふは、ふはは、ははははあはっ」


「幹久ぁっ?!‥‥‥もはやお前には何も出来ん」


「何も得ることの無い、無駄な人生だったなぁっ?!」


「大人しく、死んでいればいいっ!」


悠生には既に詩音が見えてはいない。

ただ、過去の亡霊‥‥‥黒羽幹久しか見えていない。




―――――だからこそ。


間に割って入る男の姿に、最後まで気が付くことが出来なかった。


「天城悠生‥‥‥お前だけは、絶対に許さない‥‥‥」


「‥‥‥はっ?」


詩音を守るように、悠生の前に立ちはだかる。


「‥‥‥赤城眞だ」


「何を、言って‥‥‥?」


「お前が見捨てた‥‥‥赤城千早と」


「その名前はっ‥‥‥?!」


過去に切り捨てた女の名前に動揺する。今となっては、その名を知っている人間はいない筈。


‥‥‥1人を除いては。


「天城悠生‥‥‥お前の息子だ‥‥‥」


「何だとぉっ?!貴様がっ‥‥‥!!」


自分が産ませた、過ちの子。

天城悠生の落胤らくいん


血を分けた息子が、怨みを携えて目の前に立っていた。


「この事実は、既にお前の妻には伝えてある‥‥‥」


「‥‥‥まさか、あれは‥‥‥?!」


「そうだ、お前にはもう‥‥‥帰る場所は無い」


「‥‥‥なんて事をしてくれたんだっ。貴様あっ!!」


天城悠生の不義が、香蓮に伝わった。

それの意味する所を即座に理解する。


‥‥‥そして、どんな結末が待っているかすらも。


「復讐だ。ずっと、この時を待っていた」


「‥‥‥がっ、ぐぁっ‥‥‥」


動かない足を引きずりながら、怒りに任せた抵抗を試みる悠生を足蹴にする。


躊躇も手加減も一切無い、冷淡な一撃。

地面に転がる悠生を見ることなく、詩音の前にひざまずく。


「‥‥‥詩音さん、銃を」


悠生の落とした拳銃を詩音の手にそっと握らせる。重さから、銃弾が残っていることは分かった。


「‥‥‥だが」


「照準は詩音さんが‥‥‥引き金は、俺が引きます」


躊躇する詩音に言葉を紡ぐ。

万が一にも、殺人を忌避する詩音の手を汚す訳にはいかない。


だから、照準を詩音に依頼した。


「‥‥‥‥‥‥2人で、果たしましょう」


「‥‥‥‥‥‥ああ」


照準を合わせる詩音の背に回り、抱きしめるように小さな身体と手を包み込む。


―――引き金には、眞の指が掛かる。


「やめろ‥‥‥撃つなぁっ‥‥‥助けっ‥‥‥?!」


散々悪あがきをした悠生は、恥も外聞もなく、只々、命乞いを繰り返す。


そんな悠生に、眞は積年の怨みを言葉に乗せる。


「生きている限り‥‥‥何度でも、必ず‥‥‥お前を追い詰めてやる」


「お前だけは‥‥‥絶対に、許さない」


「ひぃっ‥‥‥?!」


眞の執念と怨念が、天樹悠生の魂に消えない傷を残す。


「‥‥‥先に地獄で待っていろ」




―――晴天の下、響き渡る一発の銃声。




詩音と眞が放った一発の銃弾が、長きに渡る復讐に幕を下ろした。


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