第130話 そりゃそうよ(n回目
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ドカッ、バキッ、ブリュッ!
殴打と何かが漏れる音がした後、静寂が満ちる――戦いは終わった。
レオ商店の床に、たんこぶをつくったアレッキーノが転がっていた。
「ふぅ。手強い相手だったぜ」
「どこがだい。扇動の力はあったけど、戦闘能力はまるでなかっただろ」
「ロールプレイヤーなら、こんなもんじゃないー?」
シルメリアと結衣が激闘(?)の感想を漏らす。
すると霜華が、心の目でしか見えないメガネをスチャッと正した。
「ノーマンズランドは、ハトフロ本編と異なり、装備を持てば強くなるはずなんですが……。彼は、ほとんど装備らしい装備を持ってませんでしたね」
「けど、それがコイツの矜持でもあったんだろう。装備やスキルではなく、プレイヤーとしての力だけで戦う……知らんけど」
「これでめでたし、めでたし……みたいな?」
「どうでしょう? アレッキーノが沈んだところで、男性プレイヤーと女性プレイヤーの対立はまるで解決してませんので」
「くっ、アレッキーノのやつ……余計なお土産を残しやがって」
「「やったのはお前じゃい!!!」」
レオに女性陣のツッコミが刺さる。
レオは、しれっとアレッキーノのせいにしているが、今回の騒動の原因は、紛れもなく彼にあった。
「なんとかしなくちゃな……とはいえ、どうしたもんか」
「レオ先生、女性陣は、レオ商店のサービス部門の閉店を望み、男性陣は、サービス部門の継続を望んでいます。完全に対立していますよ」
「それなんだよなぁ……むむむ」
「間を取って、レオ商店が更地になれば、みんな幸せになるんじゃないかね?」
「諦めるなんてとんでもない! なんとか考えますよ」
「っていったって、どうするんだい?」
「さすがのレオ君でも、今回ばかりはキツイんじゃないかなー?」
レオは腕を組んで、店内をぐるりと見渡した。
散らかった床に転がるアレッキーノ。
店外で、再びデモの動きを見せ始めている女性プレイヤー陣。
命の洗濯を終えて外に出た瞬間、急にスンッとなっている男性プレイヤー陣。
その全部をひっくるめて、彼はふっと息を吐く。
「……いや、まだ最悪ってわけじゃないんだよ」
「はぁ? どこがだい。火種しか残ってないじゃないか」
「むしろ火事寸前だよねー?」
「レオ先生、対立は深刻です。楽観視できる要素がどこに?」
「そこだよ」
「「???」」
「対立の中心が俺たちの店――『レオ商店』にあるってことは、俺がまだコントロールできる範囲にあるってことだ」
「……どういう意味だい?」
「もし対立がプレイヤー同士の根っこにまで広がってたら、もう俺にはどうしようもない。価値観の衝突なんて、店主ひとりがどうこうできるもんじゃないからな」
レオは肩をすくめ、しかし目だけは妙に冴えていた。
「でも今は違う。みんなが揉めてるのは『レオ商店をどうするか』って一点だけだ。だったら、店の方針を変えるなり、仕組みをいじるなり、俺の側から打てる手はいくらでもある」
「……つまり、まだレオ君の手のひらの上ってわけ?」
「そういう言い方は好きじゃないけど……まあ、そういうことだな」
「へぇ……ずいぶん強気じゃないか。」
「もちろんです。店が焦点になってる限り、俺が動けば状況は変えられる。最悪なのは、誰も俺の声を聞かなくなることだよ。まだそこまでいってない。だったら、やりようはある」
「……確かに、最悪じゃないにしても、どうするんだい?」
「そうそう。具体的にどうするの?」
「レオ先生、いったいどのようにして、解決するおつもりで?」
「まぁ、見てなって。――ここからが店主の腕の見せどころってやつだ」
「信用できるかな―?」
「簡単さ。何事においても、対立の原因は、『一方が損して、もう一方が得をしている』からだ。だからここを打ち崩す」
「じゃぁ、女性向けサービスを始めるとかー? 執事喫茶みたいな?」
「あの野郎どもにそんな繊細なことができるかね?」
「だからひと工夫いれる。ポイント制の導入だ」
「「ポイント制?」」
シルメリアたちの声が、きれいにハモった。
「そう。サービスを受けるとスタンプが貯まる。で、そのスタンプを使って――
店に『提案』ができるようにするんだ」
「提案……って、例えば?」
「例えば、執事喫茶がでたけど、そのテイストをやりたい女性陣は、スタンプを貯めて、店に企画を出せる。逆に、男性陣は癒やしの殿堂をもっと豪華にしたり、シチュエーションを追加したいならスタンプを集めて、それを提案できる」
「……あれ? それって結局、男女で別々に争うだけじゃないのかい?」
「そこがミソなんだよ」
「提案にはグレードをつけて、男女どちらのポイントも一定数必要にする。」
「「…………は?」」
「たとえば、女性向けの店舗は、最初は普通の喫茶店から始まって、執事喫茶に替えたいなら、レオ商店全体でスタンプを100貯めるのが必要、とかにする」
「男が通うだけでも実現できるってこと? でもそれって逆に――」
「そうだ。必要スタンプが跳ね上がれば、女性陣だけじゃダメ。女性向けサービスを実現したいなら、男性陣にも協力してもらわなきゃいけない。逆も同じ。男性向けサービスを強化したいなら、女性陣のポイントも必要になる」
「それって……」
霜華がぽんと手を打つ。
「あ、わかった! 争い合う相手から、協力し合う相手に変わるってこと?」
「そういうことだ。『相手が得するのが気に入らない』って構造を、『相手が得しないと自分も得しない』に変えるんだ」
「うわぁ……えっぐ。レオ君、そういうとこだけ妙に頭が回るよねー」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「レオ先生のプランなら……確かに、対立は弱まるかもしれませんね」
「女性陣が執事喫茶をやりたいなら、男性陣に協力を頼む。男性陣がマッサージ店をしたいなら、女性陣に協力を頼む。結果として、沈黙の協力体制を築くはずだ」
「……なんか、うまく丸め込まれてる気がするんだけど」
「でも、悪くない案かも……?」
「レオ商店を、誰もが楽しめる場所にしよう」
「……へぇ。言うじゃないか、店主さん」
「ここからが本番だ。男性向けも、女性向けも――両方やる。そのうえで、みんなが協力しないと成り立たない仕組みにする。これなら、対立は自然と薄まるはずだ」
「……なんか、レオ君が本当に店主っぽいこと言ってる……」
「ま、試しにやってみれば良いんじゃないかね?」
「よし、新装開店と行きましょう!」
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あれだけひっぱっておいて、アレッキーノはナレ死しました。
なんたる非道か!




