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第129話 ムチムチ パフパフ

コロナで寝込んでました。

まだ若干ゲホゲホしてますが復帰です

 店の奥、その一室に通されると、そこはもう別世界だった。


 ピンクのタオルがふわっと掛けられたダブルベッド。アロマの甘い香りが、鼻の奥までじんわりと染み込んでくる。


「ほう。これはこれは……」


「お客様、どれにいたししますか?」


 レオがニヤリと笑って、パチンと指をならす。


 すると奥の扉がスッと開き、曲線美の塊みたいな女性たちがぞろぞろと現れた。どれもこれも、完璧に男たちの視線を引き付けて止まないシルエットだ。


「おぉ…これは素晴らしい。マーベラス! マーベラスですぞ!」


「いずれもプレイヤーの中で人気の高い女性プレイヤー陣にございます」


 アレックスは、並び立った女性たちをしげしげと見つめる。

 身長も奥行きも不揃い。しかしそれは、不均一というわけではない。

 いや、むしろ――


「各属性を揃えるとは……やりますねぇ!」


「いいよ来いよ。といったところですね」


 あまりの興奮に、古の「語録」まで飛び出す始末だった。


「私はそう……彼女にしましょう」


 そういってアレッキーノが指さしたのは、タレ目でふんわりした笑顔、たっぷりとした胸元が印象的な女性。優しい包容力に特化したタイプだ。


「さすがは有識者。そうきましたか」


「さて……では『特別なサービス』を提供していただきましょう」


「もちろんです。是非、癒やしの時間をお楽しみください。そして――」


「ンッンー、忘れていませんとも。しっかりレビューしますとも」


「では君、お客様にサービスを」


「かしこまりましたわ」


 薄絹をまとった彼女が、ゆっくりベッド脇に立つ。花の香りが一気に濃くなった気がした。


 彼女がそっとアレックスの頬に指を這わせると、柔らかな布が視界を覆う。アイマスクだ。


「ほう……視覚を奪うとは。感覚遮断ですか。ソフトSMのテイストを入れてくるとは」


 アレックスが唸ると、闇の中でレオがしたりと笑う声がした。


「えぇ。お客様に『集中』してもらうには、これが良いかと」


「レオ氏。私は貴方を見くびっていたようですな」


「――恐悦至極。」


「さぁ、サービスを始めなさい。ハリー! ハリー!」


「はい……御主人様♡」


 ムチッ……ムチッ……


 柔らかく、しかし確かな重みを持った何かが、アレックスの背中を優しく、執拗に押し付けてくる。


「おぉ……」


 汗と体温が混じり合った、むせ返るような濃密な匂いが鼻腔を犯す。甘ったるいアロマの残り香を一瞬で塗り潰す、獣じみた、原始的なメスの匂い。


 熱い吐息が耳朶をくすぐり、首筋に滴る汗が、まるで舌のようにゆっくりと這い降りていく。


「ふむ……これは素晴らしい。実に素晴らしい弾力ですな。適度な張りと、しかし決して硬すぎない、熟成された果実のような……いや、熟しすぎた果実か。重心の移動に伴う、ゆったりとした波打つ肉のうねり。背中全体で感じるこの圧迫感は、まさに五つ星。いや、六つ星を付けてもいいかもしれん」


 アレックスはアイマスクの下で目を細め、評論家然とした口調で感想を述べ続ける。その声はどこか恍惚とさえしていた。


 パフッ……パフッ……


 今度は両脇から、むっちりとした丸みが彼の体を包み込むように寄り添ってくる。汗ばんだ肌が密着し、離れるたびに微かな粘着音を立てる。重なり合う肉の感触は、まるで全身を巨大なマシュマロに沈められているかのようだ。


「これは……母胎回帰を誘う圧倒的な包容力。温度は38度後半か。脈拍の伝わり方も良好。鼓動が背骨を通じて響いてくる……これは、まさに『癒やし』の極み。完璧(パーフェフェクト)ですぞ。完璧!」


 アレックスはうっとりと呟き、思わず背中を預けるように体を反らせる。興奮と満足感が混じり合い、声がわずかに上擦る。


「……さて。そろそろ目を開けさせていただいてもよろしいですかな? この極上のサービスを、しっかりと『目視』でレビューさせていただきたい」


「ふふ……どうぞ、どうぞ。お好きなように」


 レオの声が、どこか楽しげに響く。

 アレックスはゆっくりと手を伸ばし、アイマスクの端をつまむ。

 そして――スルリ、と布が外れる。


「………………」


 彼の視界に飛び込んできたのは――


 汗でテカり、筋肉の塊と化した、ガチムチの野獣のような男の姿だった。


 肩幅は扉より広く、胸板は岩盤のように盛り上がり、腹筋はまるで鉄板を並べたかのごとく割れている。腕は丸太、太腿は巨木。そして今、その巨体がアレックスの背後から、まるで抱き潰すように密着していた。


「……ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 アレックスの絶叫が、ピンクの部屋に木霊する。悲鳴を上げた瞬間、男――いや、そのサービス担当者はニヤリと口角を上げ、がっしりとアレックスの両肩を掴んだ。


「うおおおおおおっ! 離せぇぇぇ! これは不同意! 不同意ですぞぉぉぉ!!」


「はははははっ! アレックス、いや――アレッキーノ」


 レオがゆっくりと歩み寄る。

 その手には、白く輝く古めかしいランプが下げられていた。


「まんまと引っかかったな」


「なぜ……なぜ私のことを……! あっ」


「方法はわからないけど、お前は名前も見た目も替えれるんだろう? だが甘いな。俺が持ってるこのランプ――『忘れじの幻燈機』はな、プレイヤーの情報をすべて辞典として記録するアイテムだ。見た目、装備の内容、ステータス変化……全部な」


 レオはランプを軽く振る。

 すると、中で光が渦を巻き、アレッキーノの本当の姿と名前が浮かび上がった。


「なっ……」


「とはいえ、いくらこのランプがあっても、廃墟の中でお前をピンポイントで探すのは骨が折れる。そこで俺は考えたんだよ。どうやったらお前を誘い出せるかってな」


 アレックスは巨漢に肩を掴まれたまま、震える声で呟く。


「……それが、この……『特別サービス』、だと?」


「正解。お前は優秀で、完璧主義者だ。口を出さずにはいられない性分だろ? 特に誰かに対する『サービス』なんてものがあったら、黙って見てはいられないはずだ」


「くっ」


「お前はハトフロのトラブルを『祭り』だなんて楽しんでたよな。そこにあるのは、プレイヤーの感情を高めたいっていう、歪んだ欲望だ。それなら、コンカフェだろうがこの『特別サービス』だろうが、絶対に一家言あると思ってたんだよ」


「……そしてそれは正しかった、というわけですな」


「そういうことだ」


 レオは白いランプを掲げたまま、一歩近づく。


「観念しろ、アレッキーノ」


 レオがびしっと指差すと、彼の背後にシルメリアたちが並ぶ。

 ドッペルではない、本物たちだ。


「さて、こんな回りくどいことさせてくれたんだ。さくっと終わってもらうよ?」


 そう言って、シルメリアがいつもの獰猛な笑みを浮かべた。




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