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第63話 スペード流の弟子

 弟子を四つのクラスに分けているハート流とは違い、スペード流はエリートとコモンの二つのクラスで分けられている。ハート流で言うなら、下位弟子と直弟子に相当する。

 スペード流は、四流派の中でも特に実力主義で、入門したばかりでも、実力さえあればコモンクラスを飛び越えて、即エリートクラスになることができた。ジンも上位弟子になっているが、これは特例である。

 もっとも、下のクラスとはいえ、コモンクラスの弟子にも強い者が多く、上澄みの実力者はハート流の下位弟子、中位弟子では相手にならないほどだった。他流派の下位弟子に相当する弟子も同様だった。この弟子のレベルの高さが、スペード流が四流派最強と呼ばれる所以だった。

 だが、それ故にスペード流の弟子達は、他流派の弟子の見下していた。特に、最弱と言われるハート流の人間に対する態度は酷いものだった。最悪、暴力沙汰にまでなったほどだった。彼らは、弱い人間を人間と見なしていなかったのだ。同時にそれは、一般の人間に対しても向けられた。そのせいもあって、実力に反してスペード流の人気は最悪だった。


 (逆行前、俺はエリートクラスどころかコモンクラスの弟子にボコボコにやられたな。しかも、それが上澄みじゃなくて、コモンの中堅と聞いたときは、絶望したな。・・・でも、それ以上に奴らの横暴を止められなかったことが悔しかった。)


 逆行前、ジンは乱暴を働くスペード流の門下生を止めようとし、返り討ちにあった。幸い、ブドーが他の弟子達と共に助けに来たことで事なきを得たが、この件でジンの中にあったなけなしの自信は完全に砕かれてしまった。ただでさえ、才能の無さを自覚させられた上に、非道を働く人間に敵わず、守るべき人々を守れなかった。心を折られても仕方ないことだった。そこから何とか立ち直れたのは、まさに奇跡といえた。もっとも、その後もジンは、何度も自信を砕かれることになるのだが。


 (このキールは、俺が初めて見た剣武会のスペード流の代表の一人だった。さすがにこの時は、まだ代表ではないみたいだが。・・・となると、他の二人はツークとサースだな。こいつら三人は、いつもつるんでいたな。)


 ジンの知るキールは、幼馴染の二人といつもつるみ、悪さを働いていた。さすがに、一般人に手を上げることはなかった-もっとも、横暴に振る舞うことはあった-が、他流派の門下生を馬鹿にし、暴行を加えていた。特に、ハート流の弟子が被害に遭うことが多かった。ジン自身も、暴行まではいかなかったが被害に遭った一人だった。だが、だからといって彼らが咎められることはなかった。スペード流は、強ければ何をやっても許されるとんでもない流派だったのだ。


 (コモンクラスの頃から同じことをやっていたのか。本当に、スペード流は終わっているな。)


 ジンは、キール達三人組のどうしようもなさにに呆れ果てていた。そんなことを知らないキール達は、ニヤニヤとジンに迫る。


 「今からでも謝るなら、許してやる。雑魚のハート流。」

 「それか、そこにいる女の子を俺達にくれるってなら、見逃してやる。」

 「お前みたいな雑魚が、こんな可愛い娘を連れて歩いているなんて、分不相応だからな。」


 ジンに対して非礼を行ったにもかかわらず、謝罪を要求するばかりか、フィアを寄越せと横暴な発言をする三人。ジンに止められていたフィアも、さすがに我慢できなくなっていた。


 「貴様!仮にもクレス王国を守る剣である人間の態度か!」

 「フィア。子供の戯言だ。そんなに目くじら立てて怒る必要もない。」

 「!だが・・・!」


 貴族であるフィアにとって、侮辱は許し難いものである。怒るのは当然である。だが、ジンは冷静だった。二度目の人生というのもあるが、こういった罵倒は聞き慣れていたからだ。ましてや、ジンは今の彼らを脅威に感じていなかった。そんなジンの態度が、三人を逆に怒らせた。


 「・・・このガキ!人が下手に出てればいい気になりやがって・・・!」

 「もう、謝っても許してやるものか!」

 「お前を叩きのめして、その娘は俺達がもらう!」

 (・・・何が下手だ。あんなにハート流を馬鹿にしていたくせに。それに、フィアをもらう?彼女はお前らの所有物じゃないぞ。本当に、スペード流はどうしようもないな。)


 そんな三人を冷めた目で見るジン。それが余計に、彼らの怒りに油を注ぐこととなった。


 「こいつ!ハート流のくせに偉そうに!」

 「雑魚のくせに!」

 「ぶん殴ってやる!」


 三人は、ジンに殴り掛かる。剣で切りかからないだけ、理性的といえるかもしれないが、それでも武芸を修めた人間が、入門したばかりの人間に、しかも年下の子供に殴り掛かるなど異常なことである。ましてや、自分達の開祖を称える祝いの場所で乱闘騒ぎなど、非常識を通り越して愚行だった。彼らは本当に傲慢だった。


 「!ジン!」


 フィアは、ジンを助けようとするも、ジンはキール達の攻撃を易々と躱す。


 「!?」

 「こ・・・こいつ!」


 三人は驚愕するも、なおもジンに殴り掛かる。だが、彼らの攻撃がジンに当たることはなかった。それどころか、キールの拳を手で受け止めてしまう。


 「!?」


 さすがの三人も、ジンの動きに驚愕する。その身のこなしは、入門したばかりの人間の動きではなかった。明らかに経験豊富な人間の動きだったのだ。


 「・・・子供相手にムキになるなんて、恥ずかしいと思わないのか?」

 「この・・・!」


 拳を放しながら発したジンの言葉に、キールは怒りのあまり剣を抜こうとする。だが、その剣が抜かれることはなかった。


 「キール、サース、ツーク。お前達、何をしている?」


 彼らの後ろから、一人の剣士が声をかけてきた。剣士は、キールと似た服装を着ており、彼らより地位の高いスペード流の剣士であることが窺えた。


 (・・・エリートクラスの人間か。)

 「!?スラッシュさん!?」


 キールは、慌てた様子で手を止めた。他の二人も、先ほどまでとは打って変わった様子で焦っていた。


 「ど・・・どうしてここに?・・・剣武会の代表と最終調整しているんじゃ・・・?」

 「ウチの流派の人間が、問題を起こしていると聞いてきた。・・・こんな大切な日に、公衆の面前で暴力沙汰とは・・・。」

 「ち・・・違うんです!スラッシュさん!このハート流の奴が、俺達を馬鹿にしてきたんです!」


 スラッシュと呼ばれた弟子に対し、キールはジンが悪いと嘘を吐いた。他の二人もそれに同意する。だが、スラッシュはそんな意見に耳を貸さなかった。


 「・・・よくもそんな嘘をベラベラと。お前達が町の人間に色々言いがかりをつけていたことは既に知っている。・・・それに、キール。お前、この少年に剣を抜こうとしていたな。仮にも丸腰の相手に。」

 「!?」


 自身の行為を見られていたことに、キールは青ざめる。つまりは、先ほどまでのジンに対するやり取りが見られていたということにほかならなかった。


 「・・・お前達の処遇は後で言い渡す。道場に戻れ。そして、剣聖祭の間は出ることを禁ずる。」

 「そ・・・そんな・・・!」

 「言い訳は聞かん。お前達の行動が、スペード流の名を穢す。さっさと失せろ。」


 スラッシュに言われ、すごすごと退散する三人。後には、ジンとフィア、そして、スラッシュだけが残った。

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