第61話 ジン自身の修行
「これで、今日の修行は終了です。お疲れ様でした。」
ジンは、弟子達に終了を告げる。結局、ケンドもジンに敵わず、すぐに決着が着いてしまった。
「今日は、ゆっくり休んで明日の修行に備えてください。起床時間は、夜明けとします。それでは、解散。」
ジンの解散の言葉に、弟子達は自身のテントに戻っていく。皆、フラフラで、すぐにでも眠ってしまいそうなほど疲弊していた。だが、ジンだけはその場に残っていた
「・・・ジン。君はまだ寝ないのか?」
動かないジンに対し、フィアは寝ないのかと尋ねる。
「俺は、自分の修行をこれからする。フィアは、寝ていてもいい。」
「これからか?君も休む必要があるだろう?」
「大丈夫。ちゃんと休む時間は考えて修行する。フィアは、明日に備えて休んでおくんだ。」
そう言い残し、ジンは暗い森の中へと入っていく。灯りも点けずに。フィアは、それを唖然とした様子で見ていることしかできなかった。
「・・・この辺りだな。」
ジンは、目的の場所に到着する。そこは、明るいうちにジンが修行をするために用意をしておいた場所だった。そこには、武器を持った木人が所々に設置されていた。そして、頭上には、木の棒がロープで吊るされていた。
「さて、これが本当の暗闇での修行だ。」
ジンは、木の棒を木刀で叩く。木の棒は、物凄いスピードで振り動き、当たればただではすまなそうだった。
「・・・さあ、始めるか。」
準備を終えたジンは、自身に目隠しをする。ただでさえ暗くて視界が確保できない状況であるにもかかわらず、更に視界を断ったのだ。これにより、ジンは完全に見えない状態となっていた。
(目が慣れれば、暗闇もある程度見えるようになる。だが、こうすればそれもなくなる。これからが本当の心眼の修行だ!)
ジンは、物凄い速さで動く棒の通過地点に立つと、その棒を避ける。避けるだけではなく、木刀でその棒を弾き返す。だが、それにより棒は、別の方向から向かってきた。それを避けようとするジンだが、その時、木人にぶつかってしまう。
「!」
木人に当たったことで、動きが止まったジンの、木の棒が直撃する。
「ぐうっ!?」
ジンの身体に、激痛が走る。ジンは、痛みに耐えるとその棒を木刀で再び弾いた。
(・・・やっぱり、そううまくいかないな・・・!)
ジンはそれからも、木の棒を避ける修行を続けた。だが、光源もなく、目隠しをし、おまけに障害物が大量に置かれた場所で行うのは容易なことではなかった。木の棒に反応できても木人にぶつかって避けられないか、木人に気を取られている間に木の棒にぶつかってしまうといった具合で、マトモに回避できたのは、十回に一回くらいだった。回避に失敗するたびに、ジンの身体は傷付き、辛そうな表情を浮かべた。
(・・・視覚は完全に使えない。この攻撃は、他の感覚を総動員して回避しなければならない。道場の中ならいざ知らず、森の中でこれをやるのは厳しい。おまけに、木人という障害物もあるから、難易度は更に跳ね上がる。・・・だが、これくらいできなければ、心眼を得ることはできない!二人は、これを易々とやってのけたんだ・・・!)
逆行前、ハート流に二人の兄妹が入門した。後に、剣聖兄妹と呼ばれるようになる二人は、入門した当初から頭角を現し、最弱と馬鹿にされていたハート流を立て直した。
当然、その強さ故に妬みや恨みを買い、命を狙われたこともあった。だが、二人を殺そうとした者は、皆返り討ちになった。中には、闇夜に紛れて闇討ちを仕掛けた敵もいたが、それでも二人を殺すことはおろか、傷付けることすらできなかった。それは、二人は既に心眼を習得していたからだった。その二人が、心眼を得るために行っていた修行が、この暗闇の中で更に目隠しをしての訓練である。完全に視覚を封じ、他の五感だけで周囲を感知する。しかも、それを道場内でやるのではなく、森や岩山といった自然が多い場所で行う。こうすることで、安定した道場で行うより負荷がかかり、鍛えられるのだ。
この方法を聞いたジンは、自身も試してみようと思ったが、全くうまくいかなかった。この頃のジンも、闇夜の訓練の経験があった。今と違い、道場内での訓練だったが。だが、木人の武器にぶつかる、飛んでくる木の棒に叩きのめされるなど、散々な目に遭い、修行どころの話ではなかった。
「・・・本当に、こんな修行ができるのか?俺も、不出来とはいえ夜間訓練の経験がある。だが、全然できないぞ?」
「僕達も、最初からうまくいった訳ではありません、兄弟子。初めの頃は、怪我が絶えませんでした。」
「・・・本当に?」
「兄弟子。兄様は天才ですが、誰よりも修行に打ち込んでいる人間です。できないのは、兄弟子の力不足です。」
「・・・。」
「納得がいかないのなら、僕と妹が手本を見せます。」
二人は、その修行をジンの前で実践してみせた。そして、見事にやり遂げた。彼らは、木人の武器や飛んでくる木の棒にぶつかることはなかった。それどころか、目が見えていると思えるほど軽やかに躱していた。二人の動きを見たジンは、まるで美しい舞を見ているような感覚に陥り、感動を覚えた。同時に、自身の才能の無さを痛感することにもなったが。
(・・・あの時は、どんなにやってもできない思っていたこの修行だが、今ならできる!・・・さすがに、二人のようにすぐできるようになるわけではないし、華麗に避けるなんてことはできない。だが、集中すれば回避できる!どんなにみっともなくとも、躱せればいい!それが、第一段階だ!)
迫りくる木の棒を避け、木人を避けていくジン。逆行前に比べてある程度はできてはいるものの、それでも完全ではなく、ぶつかってしまうことの方が多かった。だが、ジンはこの修行を続けていく。すべては、自身の思う強さを手に入れるために。
「・・・。」
そんなジンの姿を、遠くからフィアが密かに見ていた。ジンがどんな修行を行うのか気になり、こっそり追いかけてきたのだ。だが、彼の始めた修行を見たフィアは、言葉を失った。こんなとんでもない修行を考えることもそうだが、実行しているジンに驚愕したからだった。
(・・・修行に疎い私でも分かる。これは異常だ。大の大人でもやらないことだ。それを、私と歳の変わらない人間がやるなんて・・・。)
だが、フィアはそれを止めなかった。ジンから感じる尋常ならざるやる気を感じたからだ。もっとも、たとえやる気を感じなくても、フィアはジンを止めることはなかっただろう。強くなりたいと願うジンの意志は、自分も理解できた。
(・・・私も、負けられないな。)
フィアは、何も言わず、静かにジンの許を去るのだった。だが、その胸に抱いた決意は、より大きく、強くなっていた。




